第031話:王都
街道の先に、目的地の全貌が姿を現した。
アズール王国の王都『ルアス』
地平線にそびえ立つ三重の城壁は、黄昏時の赤褐色の空を背に、遠方の山脈と溶け合うような壮麗なシルエットを描いている。だが、その美しさとは裏腹に、漂ってくる空気はどこまでも刺々しい。
「……あ、見てください! 騎士団の行軍ですよ」
リィンが指さした先――王都の巨大な正門から、銀の甲冑に身を包んだ一団が、整然と、しかし急ぎ足で南へと駆け抜けていった。その数は数百を下らない。
「いつにも増して物々しいわね。検問の数も、前回来た時の倍はあるわ」
魔導師のミナが、不安げに城門前へと伸びる長い列を見つめて呟く。
やがて一行の順番が回ってきた。
鎧を鳴らして近づいてきた衛兵は、鋭い眼光で馬車の荷台を注視する。リーダーのディランが御者台から降り、冒険者証とバッカスから預かった書状を提示した。
「オニキスのギルドより、重要物資の搬送依頼を受けて参りました。『蒼穹の風』および同行の護衛です」
衛兵はディランの証を厳格に確認した後、帆布の隙間から荷台の中を慎重に覗き込んだ。その瞬間、わずかに表情が強張る。
「……話は聞いている。ギルド本部から通達済みだ。積み荷の中身は極めて危険なものと認識している。検問は通すが、寄り道は厳禁。このまま真っ直ぐ、第一区のギルド本部へ向かえ」
「わかりました。……伝達が回っているとは、相当な緊急事態のようだな」
ディランは短く答え、再び御者台へと飛び乗った。
巨大な城門をくぐり抜けた瞬間――
リィンの視界いっぱいに、これまで見たことのない光景が広がった。
石造りの建物が隙間なく立ち並び、空を突くような時計塔や色鮮やかな看板がひしめき合っている。街道の両脇には露店が連なり、あらゆる国の言葉と活気が入り混じっていた。
「わあ……すごい。オニキスがいくつも集まったみたいです!」
目を輝かせるリィン。その無垢な反応とは対照的に、ステラは馬車の揺れに身を任せながら、王都の内部を冷静に観察していた。
華やかな表通りの喧騒の裏で、路地裏を駆け抜ける伝令の姿や、重要施設を固める重武装の衛兵たちが目に入る。この街の心臓部は、すでに「有事」を見据えて激しく脈打っていた。
「ステラさん、街の人がみんな忙しそうですね」
「ええ。帝国の動きの影響でしょうね。……リィン、浮き足立たないように。この街には、オニキスにはいなかった種類の『悪意』も潜んでいるわ」
ステラの警告に、リィンは小さく息を飲み、表情を引き締め直した。
人夫が操る馬車は、王都の喧騒を掻き分けるようにして、王国冒険者たちの総本山――ギルド本部へと進んでいった。




