第027話:不穏な視線
翌朝、オニキスの北門前には、特注の重荷台が用意されていた。
帆布で厳重に覆われたその中身は、あの異質な「巨人兵」の残骸である。
「よし、準備は整ったな」
ギルドマスターのバッカスが、集まった面々を見渡した。
そこにはリィンとステラ、そしてもう一つの護衛パーティ『蒼穹の風』の三人がいた。
彼らはオニキスでは平均的な実力を持つ、実務経験豊富な鉄ランクの冒険者たちだ。さらに、荷台を引く御者として、ギルドが雇った体格の良い二人の人夫が控えている。
「ディラン、ミナ、バート。そしてリィン、ステラ。言うまでもないが、荷台の中身は極めて重要だ。王都まで、くれぐれも頼むぞ」
「はい、お任せください!」
リィンの元気な返事に呼応して、ディランたちも力強く頷いた。
『蒼穹の風』は別の依頼で街を離れていたため、先日の防衛戦には参加していなかった。
留守の間に、隣に立つ二人が目覚ましい活躍をしたとは聞いていたが――
腰に短剣を下げただけの幼い少女と、武器すら持たない浮世離れした美女。
鉄ランクと、それ以上の格上(銀ランク相当)として特例認定されてはいるものの、「本当にそれほどの実力があるのか?」という疑念を、彼らは拭いきれずにいた。
「蒼穹の風、二人を頼むぜ……と言いたいところだが、まあ、お前らこそ足を引っ張らないようにな」
見送りに来たカイルの冗談めかした、しかし真剣な忠告に、リーダーのディランは「おいおい、勘弁してくれよ」と苦笑しながら、一行を北へと促した。
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北門を出てからの旅路は、驚くほど順調だった。
人夫たちが手際よく馬を操り、重い荷台を揺らしていく。
道中、リィンはステラから魔法の講義を受けながら、時折茂みから飛び出す小型の魔獣を軽く追い払っていった。
無駄のない足運び、一瞬で得物を捉える判断力。
後方で護衛にあたっていたディランたちは、リィンの卓越した動きを見るたびに、怪訝そうな視線を交わし合っていた。
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夕暮れ時、一行は王都への経由地となる宿場町へと差し掛かった。
「今日はここで一晩休みましょう。明日には、王都へ続く大街道に出られるわ」
ステラの提案に、人夫たちも疲れた顔で頷く。
「そうですね。これだけ重い荷台を引いてちゃ、馬ももう限界だ」
一行が宿場町の入り口にある酒場の前を通り過ぎたとき、ステラは背中に突き刺さるような、粘着質の視線を感じ取った。
そこには身なりの汚れた冒険者崩れや、裏稼業に身を置いていそうな、質の悪い男たちが数人たむろしていた。
彼らの濁った瞳が、一行を舐めるように見つめる。
「おい、見ろよ……とんでもねえ上玉だぜ。あの銀髪の女、王都の貴族にでも売れば、一生遊んで暮らせるんじゃねえか?」
「隣のガキも悪くねえ。だが、注目すべきはあの荷台だ。人夫を二人も雇って、護衛が五人か……相当な『お宝』を隠してると見たぜ」
彼らにとって、襲わないという選択肢は存在しなかった。
正規の護衛が「鉄ランク」の三人に見えていることが、彼らの卑劣な勇気を後押しする。
「夜、宿が寝静まった頃に仕掛けるぞ。女どもは拉致して、荷物は山分けだ」
下卑た笑い声が風に混じる。
ステラは彼らの殺気と欲望をすべて察しながらも、あえて無視して宿へと歩を進めた。
「リィン、今夜は少し騒がしくなるかもしれないわね」
「えっ、また魔獣ですか?」
「いいえ……もっとたちの悪い、“害虫”の駆除よ」
ステラの唇に、わずかながら冷酷な弧が描かれた。
その横で、自分たちが狙われているとも知らず、ディランたちは「今夜の飯は何かな」と暢気に笑い合っていた。




