第025話:凱旋
西門前の激闘が幕を閉じ、オニキスの街には安堵と活気が戻っていた。
崩れ落ちた巨人兵の残骸は、ギルドが召喚した専門の調査魔導師たちによって慎重に回収され、解析のため王都のギルド本部へと送られることが決まった。
一方で、戦場に散らばった膨大な数の魔石は、命懸けで街を守り抜いた冒険者たちへの正当な報酬として分配されることになった。
消耗した冒険者と守備兵たちは回復魔法を受け、しばしの休息を取ったのち、街へと戻る。
「よく守ってくれた! ありがとう!」
「『鋼の咆哮』も流石だったぜ! あの巨人兵を止めたのは誰だ!?」
帰還する冒険者たちの列を、住民たちが総出で迎えていた。
怒涛のように押し寄せた魔物の群れ。一時は濛々(もうもう)たる土煙の中、咆哮と怒号、激しい金属音が城壁の外から響き渡り、人々は戦々恐々としていた。だが今は、その恐怖を吹き飛ばすような歓声が街を包み込んでいる。
熱狂する群衆の中、リィンは少し戸惑いながら歩いていた。胸に輝く銀のプレートと、その背に帯びた確かな武威を感じ取った人々から、惜しみない賞賛が送られている。
隣を歩くステラの穏やかな微笑みに勇気づけられ、リィンはしっかりと前を向いて歩みを進めた。
ギルドの正面玄関前では、ギルドマスターのバッカスが待ち構えていた。彼は集まった冒険者たちを一望し、深く頭を下げる。
「諸君、よくぞオニキスを守り抜いてくれた。ギルドマスターとして、そしてこの街の一市民として、心からの謝意を表する。報酬の精算については明日以降、順次対応させてもらう!」
バッカスの力強い声に、冒険者たちから大きな歓声が上がる。ひとまずの解散が告げられた後、彼は表情を引き締め、特定の数名へ鋭い視線を向けた。
「……カイル、そして『鋼の咆哮』の諸君。それからリィン、ステラ。すまないが、すぐに私の執務室へ来てくれ。……聞きたいことがある」
重厚な扉が閉まり、外の喧騒が完全に遮断される。
執務室に入ったのは、リーダーのカイルをはじめとする『鋼の咆哮』の面々と、リィン、ステラの二人だった。
「座ってくれ。……まずは被害の報告からだ」
バッカスはデスクに手を突き、厳しい表情で話し始めた。
「幸いにも死者はゼロだ。だが負傷者は少なくない。特にあの『巨人兵』と対峙した前線部隊の被害は深刻だった。……カイル、現場で何を見た?」
「……化け物ですよ」
カイルが苦々しく口を開く。
「俺たちの魔法も矢も、奴の鎧には傷一つつけられなかった。あんな出鱈目な存在、これまでの魔獣図鑑のどこにも載っちゃいないと思います。……正直、ステラさんがいなけりゃ、今頃もっと多い死傷者が出ていました」
その言葉を受け、バッカスの鋭い視線がステラへと向けられる。
魔法すら弾く鎧を、たった一撃で両断した謎の銀髪の美女。
そして、その隣で静かに佇む、伝説の神具を操る少女。
「ステラ……。お前に聞きたい。あの巨人兵の正体に、何か心当たりはあるか?」
ステラは一瞬、リィンと視線を交わした。
北の廃城に突如として現れた「次元の扉」。
そして、世界の理から外れ、死しても魔石に還らぬ漆黒の巨兵。
「……いいえ、心当たりはないわ」
ステラは静かに首を振る。
(ただの偶然かしら……? いえ、あまりに時期が重なりすぎているわね)
次元の扉が開いた直後に発生した、この異常な事象。
ステラの胸には、拭い去れない冷たい「引っかかり」が刻まれていた。




