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第022話:標的

紅蓮の炎が消えゆくオニキス西門前の戦場に、漆黒の巨躯がただ一騎、悠然と佇んでいた。

その異様な威圧感に、ほんの一瞬、全軍の動きが止まる。


「怯むな! 奴の狙いは正面突破だ!」


カイルの怒号が響き渡る。

彼は即座に剣を掲げ、後方部隊へ指示を飛ばした。


「魔術師隊、アーチャー隊! 直進してくる巨人兵に全火力を集中させろ! 前衛部隊は奴を孤立させ、周囲の魔物を一匹たりとも通すな!」


「応ッ!」


前衛の冒険者たちが散開し、リィンもまたその一人として左翼方面へ駆け出した。

背後からは、空を覆い尽くすほどの矢の雨と、色彩豊かな魔導の光が巨人兵へと降り注ぐ。


左翼では、黒炎の竜巻を逃れた魔物たちが牙を剥いて押し寄せていた。

しかし、今のリィンにとって、それらはもはや脅威ではない。


「……ふぅ」


小さく息を吐き、『メルクリウス』を一閃する。

神具を得た彼女の薄碧うすあおの剣筋は、もはや迷いを感じさせない。鋭く急所を穿ち、さらに一振りごとに神剣の超重量が魔獣の肉体を叩き潰す。

接触した端から爆散し、次々と魔石へと変わっていった。


――その一方で。


戦場中央では、信じがたい光景が広がっていた。


数十本の矢が巨人兵の鎧に突き刺さり、爆炎と雷撃がその身を幾度も飲み込んだ。

通常の魔物であれば、跡形もなく消し飛んでいるはずの猛攻だ。


「……なっ、嘘だろ……!?」


カイルは目を見開いた。


晴れゆく爆煙の中から現れた巨人兵は――無傷だった。


それどころか、飛来する矢を払うことすらせず、ただ雨粒を浴びるかのように淡々と歩を進めている。

その漆黒の重鎧は、あらゆる攻撃を拒絶する結界を纏っているかのようだった。


「魔法も矢も……通じていないのか……!」


絶望がじわじわと戦場に広がる中、巨人兵は不意に歩みを止めた。


「……あら」


後方でリィンの戦いぶりを見守っていたステラが、わずかに眉を寄せる。


巨人兵は、眼前のカイルたちには一切目もくれず、ゆっくりとその巨躯を旋回させた。

赤い眼光が捉えた先は――左翼で魔物を駆逐していたリィン。


「まさか、狙いは……」


ステラは悟る。


あの化け物は、戦術的勝利も、防壁の破壊も求めていない。

ただ一つ――自らと同等、あるいはそれ以上の力を秘めた存在。


神剣メルクリウスの気配を嗅ぎ取り、それを排除するために動いているようだ。


次の瞬間。


巨人兵が、重厚な地響きを轟かせて加速した。


カイルたちの包囲網を嘲笑うかのように――一直線にリィンへと迫る。


「リィン! 来るわよ!」


援護に向けて駆け出しながら、ステラの鋭い警告が戦場に響き渡った。

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