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第021話:黒炎の嵐

防壁を突破せんと猛る魔物の群れに対し、ステラは静かに、しかし抗いようのない強大な圧を放ちながら、一歩前へと踏み出した。


「……少し、掃除が必要なようね」


彼女が優雅に右腕を高く掲げ、鋭く振り下ろす。

その刹那、虚空から凄まじい暴風が巻き起こり、戦場の中央に巨大な竜巻が出現した。

砂塵と魔獣の断末魔を吸い込みながら荒れ狂う風の渦へ、ステラは掌に凝縮させた極大の黒炎を無造作に投じる。


「混ざりなさい」


直後、透明だった風の渦が、一瞬にして禍々しい漆黒へと染まった。

黒炎は猛烈な勢いで大気を侵食し、魔力を餌に増殖する「魔力捕食の竜巻」へと変貌を遂げる。

それはまるで意志を持つ生き物のように蛇行しながら、進路上のすべての魔獣から魔力を奪い、その身を内側から焼き尽くしては天高く巻き上げていった。


ステラは流れるような所作で、さらに同じ動作を繰り返す。

二つ、そして三つ――戦場に三条の黒炎の竜巻が並び立ち、吹き荒れる魔力が辺り一帯を支配した。


「……こんなものでしょう」


ステラは何事もなかったかのように軽く肩をすくめ、悠然と歩みを戻す。

その背後では、冒険者たちの命を脅かしていた魔獣の大群が、抗う術もなく漆黒の渦に呑み込まれ、次々と塵へと変じて虚空へ消えていった。


「おい……嘘だろ……?」


「たった一人で、戦場そのものを書き換えちまった……」


カイルをはじめ、周囲の冒険者たちは戦慄していた。

息一つ乱さず天災級の魔法を行使した彼女の姿に、彼らの瞳には言葉にならない「畏怖」が宿る。


しかし――。

絶望を焼き払ったはずの黒炎の竜巻が凪ぎ、戦場に異様な静寂が訪れた。

炎を逃れ、半狂乱となって散り散りになっていた魔獣たちが、突如としてその動きを止めたのだ。

そして何かに怯えるように、魔獣の軍勢が左右へと道を開ける。


「……っ! 全員下がって!」


ステラの鋭い警告が響く。

魔獣たちの列を割って現れたのは、漆黒の重鎧に身を包んだ「巨人兵」だった。


手にした巨大な斬馬刀を一閃――。

それだけで真空の断層が生じ、前線の冒険者たちが防具ごと切り裂かれ、次々と吹き飛ばされていく。


「ぎゃあああっ!?」


「な、何が起こった!? 盾が……盾が紙みたいに……!」


カイルが必死に指示を飛ばし、後方のヒーラーたちが負傷者へ回復魔法を注ぐ。

だが、黒き指揮官の進撃は止まらない。

一歩踏み出すごとに大地が爆ぜ、周囲の人間を一薙ぎで駆逐していく。その力は、これまでの魔物とは比較にならない、圧倒的な「個」の暴力だった。


黒き指揮官は、その赤く濁った眼を――神具メルクリウスを携えたリィンへと向けた。

まるで、この戦場で唯一、自分に届き得る「獲物」を見定めたかのように。

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