第020話:オニキス防衛戦
オニキス西門の城外。急造の防衛陣地には、重苦しい沈黙と、迫りくる獣たちの放つ異臭が入り混じっていた。
地平線を埋め尽くす魔物の黒い波を前に、若手冒険者たちの多くは武器を握る手を震わせ、落ち着きを失っている。
「落ち着け! 空を飛ぶ敵はいない! 地上の防衛に全力を注げばいい!」
『鋼の咆哮』のリーダー、カイルの怒号が響き渡る。
彼の指揮のもと、熟練の守備兵たちは西門前に幾重もの盾壁を築き、城壁上の弓兵と連携して強固な防衛線を敷いていた。
「作戦は単純だ! 守備兵が門を死守し、遠距離部隊が敵の数を削る! 魔術師とアーチャー、マジックアーチャーは高所と後方に展開しろ!」
カイルは戦況を見極めながら、傍らに立つステラとリィンに鋭い視線を向ける。
「おい、新人! 遠隔攻撃は使えるか? この数だ、近接戦に持ち込まれる前に少しでも間引きたい」
ステラは余裕の笑みを浮かべ、静かに答えた。
「炎系の魔法でも何でも。足止めくらいにはなるかしら」
「上等だ、頼むぜ! ……で、リィン。お前はどうだ? そのとんでもない剣、振るうだけじゃないんだろ?」
リィンはメルクリウスの柄を強く握り直し、真っ直ぐに頷く。
「はい。私は――雷を操ります」
「……よし! その雷、マジックアーチャー隊の横から叩き込め!」
「来るぞッ! 撃てえええ!!」
カイルの号令とともに、無数の矢と魔力弾が空を切り裂いた。
先頭を走る巨大なオークやワイルドベアが次々と倒れていく。だが、魔獣の波は止まらない。倒れた仲間の屍を踏み越え、さらに速度を上げて迫ってくる。
「ステラさん、行きます!」
「ええ、貴女の新たな力を見せて」
ステラは、つい数日前まで雷系の魔法適性を持たなかったリィンが「雷を操る」と言い切ったことに、内心で驚愕していた。
(やはり、メルクリウスを手にしてから、リィンの力は根底から変質している……!)
その視線を背に、リィンは蒼い宝剣を天へとかざした。
「……貫け!」
呼応するように、蒼い刀身が激しい紫電を帯びる。
次の瞬間、剣先から放たれた網目状の雷光が、水脈を走るかのように魔獣の群れを駆け巡った。
轟音とともに、辺りが白光に包まれ、一帯の魔物が蒸発したかのように消失する。
「……信じられねえ」
「とんでもない威力ね……」
『鋼の咆哮』の面々は、リィンの背中に神々しい畏怖を覚えていた。
だが、それでも魔獣の波は尽きない。
遠距離攻撃を強引に突破した、硬質の毛に覆われた「アイアン・ボア」数体が、守備兵の盾列へと突進する。
「ちっ、漏れたか! 前衛、衝撃に備えろ!」
カイルが剣を抜こうとした、その刹那――ステラが動いた。
細剣が一閃する。
突進してきたアイアン・ボアは、まるで紙細工のように音もなく両断された。
「本当は、あまり目立ちたくはないのだけれど……背中を任された以上、仕方ないわね」
返り血一つ浴びず、ステラは静かに微笑む。
その優雅な剣捌きには、魔獣の猛攻を微塵も脅威と感じていない「強者」の余裕が溢れていた。




