表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/26

第019話:予期せぬ襲来

王都ルアスへの出発に備え、二人は必要な物資を馬車に積み込み、入念な準備を整えた。

最後にギルドへ出発の報告と挨拶に向かったが、途中、道を行き交う人々の様子がおかしかった。


西門の方角から、地を這うような重低音と怒号が響く。街の静寂を切り裂くように、衛兵の一小隊が悲鳴に近い声を上げながら駆け抜けていった。


「……何かあったのかしら」


ステラが不穏な空気を察して呟く。リィンは不安げに西の空を見据えた。そこには、不自然に沸き立つ黒い土煙が、地平線を塗り潰さんばかりの勢いで広がっていた。


ギルドに着く頃には、誰もが血相を変えて走り回っていた。

そして、重厚な扉を開けた瞬間に飛び込んできたのは、いつもの喧騒とはまるで異なる、死の気配すら孕んだ張り詰めた空気だった。


「西の郊外から魔獣の大群が接近中! 数は推定で五百……いや、さらに増え続けているぞ!」

「スタンピードだ! このままだと一刻も経たずにオニキスの街は飲み込まれるぞ!」


ギルド員たちが青ざめた顔で指示を飛ばし、冒険者たちが武器を手に走り出す。その混乱の渦中へと、リィンとステラは足を踏み入れた。


「アニスさん、何があったんですか!?」


リィンがカウンターへ駆け寄ると、アニスは震える手で地図の一点を指した。


「アズール西の森で魔物の異常活性が確認されたの。理由は不明だけど、あらゆる種族の魔獣が一斉にこちらへ移動を始めているわ。迎撃の準備が……このままじゃ、街が蹂躙されてしまう!」


その時、喧騒を割るように、重厚な鎧の擦れる音が近づいてきた。


「おい、新人! ちょうどいいところに来やがったな!」


声をかけてきたのは、屈強な体躯を持つ重戦士。銀ランクパーティ『鋼の咆哮』のリーダー、カイルである。


「俺たちは『鋼の咆哮』だ。ギルドマスターから遊撃隊の任を受けた。聞いたぜ、お前ら二人、北の廃城を攻略して一気に銀ランクまで跳ね上がったんだってな」


カイルは不敵に笑おうとしたが、その表情には隠しきれない焦燥が滲んでいた。


「……正直に言う。状況は最悪だ。腕利きの多くは依頼で街を離れている。街に戻るまで到底、間に合わん。残っているのは、経験の浅い若手と、数少ない守備兵だけだ。だが、お前らのような規格外が加われば、まだ望みはある。……一緒に街を守るぞ、いいな?」


リィンは一瞬、隣に立つステラと視線を交わした。

ステラはリィンの肩をそっと叩き、優しく、しかし力強く告げる。


「――リーダーは貴女よ、リィン。決めて」


その言葉に、リィンの瞳に迷いのない決意の火が灯る。


「……分かりました。私たちも協力します!」


「よし、決まりだ! 西門の迎撃地点へ急ぐぞ! 皆、命を捨てるなよ!」


カイルを先頭に、冒険者たちが西門へ向けて一斉に駆け出した。


街の外へ出た瞬間、そこには絶望を具現化したような光景が広がっていた。


地平線を埋め尽くす、押し寄せる魔獣の黒い波。

凄まじい地響きが内臓を揺らし、数千の足音が大地を削る。空を覆う土煙は太陽を遮り、冷たい絶望が戦場を支配していた。


リィンは深く呼吸し、新調した紺碧のチェストガードを締め直す。


「王都へ行く前に……今の私の力がどこまで通用するか、試してみます!」


「リィン、水の制御を忘れないで。数の暴力には、広範囲への干渉が有効よ」


「はい、ステラさん!」


ステラの助言を受けながら、リィンは右手を空間にかざした。


「……来てください、メルクリウス!」


波紋のような碧光とともに、蒼く輝く宝剣がリィンの手に収まる。

その瞬間――


顕現したメルクリウスから、戦場の空気を一変させるほどの苛烈な神気が溢れ出した。


「なっ……なんだ、ありゃあ……!?」


カイルは思わず絶句し、背後を振り返る。そこには、紫電を纏う荘厳な大剣を手に、神々しいまでの存在感を放つリィンの姿があった。


これまで数多の魔器を見てきた彼ですら、この剣の放つ波動は別格だった。まるで古の神が戦場に降臨したかのような「格」の差。


圧倒的な物量の魔物を前に、壊滅寸前の布陣。

だが、その絶望を塗り潰す光を背負い、リィンの心は不思議なほど静かだった。


「行くよ、メルクリウス」


銀ランクとしての初陣。

その幕が、今、上がる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ