第015話:蘇る意志
次元の扉から溢れていた光の奔流が収まり、再び道が開かれた。
その中から歩み出たリィンの姿に、外で待機していたステラは思わず息を呑む。
リィンの手にあるのは、透き通る薄碧の輝きを放つ大剣――『月の宝剣メルクリウス』。
リィンが持っていた短剣に替わり。静かな波動と紫電を纏い、まるで呼吸するかのように淡く脈打っている。
「……リィン、その剣は……」
ステラは目を見開いた。
宝剣から溢れ出す魔力は、先ほどまでの彼女とは比べ物にならないほど濃密で、なおかつ澄み切っている。
天龍であるステラですら、本能的に理解してしまう。
――その“格”は、明らかに神域に属するものだと。
「ステラさん……戻りました」
リィンの声は、どこか静かに澄んでいた。
その瞳には、かつての弱気な少女の影はなく、深い理知の光が宿っている。
「……驚いたわ。凄まじい気配ね。中で、一体何があったの?」
「この剣に触れた瞬間、たくさんの景色が流れ込んできたんです。……思い出した、という感覚に近いです」
リィンは宝剣を見つめ、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「この世界には、まだ他にも、この『神具』が眠っている。
そして私は、それらをすべて集めなければならない……そんな確信があるんです」
その言葉に、ステラは静かに目を細めた。
父が告げた「リィンこそが希望である」という言葉――その意味を、今ようやく理解する。
それは神具の継承者として、世界の理を正す巡礼の始まり。
「……見ていてください」
リィンがそっと手をかざすと、彼女の周囲に清らかな水の粒子が舞い上がった。
さらに、リィンが空間をなぞるように手を動かすと、何もない空中に水の波紋のような歪みが広がった。
「……空間の干渉!? まさか、神具の力で時空の理まで……」
驚くステラの前で、リィンは大剣をその空間の歪みへと吸い込ませた。
「亜空間に格納できるみたいです。これで、いつでも呼び出せます」
「……あなたは、私の想像を超える存在になりつつあるようね」
驚きの奥に、確かな高揚があった。
この少女を導くことが、自らの誇りになる――ステラはそう確信する。
やがて祭壇の中央に、穏やかな白光を放つ転移陣が浮かび上がった。
「行きましょう。ここでの役目は終わりよ」
「はい。オニキスの街に戻って、昇格の報告をしないとですね」
リィンは晴れやかな表情でステラの手を取る。
二人が現れた転移陣に足を踏み入れると、柔らかな光が全身を包み込んだ。
次の瞬間――廃城の冷気は消え去る。
眼前に広がるのは、朝露に濡れた森の緑と、遠くに見えるオニキスの街の輪郭だった。




