第014話:共鳴の導き
魔導騎士の消滅と共に、祭壇の間を支配していた重圧が霧散した。
リィンは震える膝を叩いて立ち上がり、中央に浮かぶ蒼い輝きへと歩み寄る。
「……これが、『蒼穹の涙』」
そっと両手で包み込んだ瞬間、廃城の冷たい空気が一変した。
空間は温かな魔力に満たされ、深海のように透き通った蒼が静かに脈打つ。
クエスト達成の確信が、二人の間に確かな喜びとして広がっていく。
「やりました、ステラさん! これで昇格試験は合格ですね!」
「ええ。本当によく頑張ったわ。……リィン、あなた自身の力で掴み取った勝利よ」
誇らしげに微笑み、ステラが歩み寄った――その時だった。
「……えっ?」
リィンの手の中の『蒼穹の涙』が、不意に脈動を始める。
彼女がもつ蒼く光る短剣と宝石の光が共鳴し、蒼い波動が円環状に広がった。
直後、足元の祭壇に刻まれた古の魔法陣が、長き眠りから目覚めるように轟音を立てて輝き出す。
蒼く光る短剣は、その中心へと引き寄せられていった。
「なっ……何が起きているの!?」
「ステラさん、これ……!」
光が一点に収束する。
次の瞬間――
空間が、ガラスの砕けるような音と共に“裂けた”。
現れたのは、渦巻く魔力の奔流――『次元の扉』。
「何が待っているか分からないわ。……リィン、私の側を離れないで」
ステラが手を取り、共に踏み出そうとした――その瞬間。
バチッ!
激しい火花と共に、ステラの体が不可視の力に弾き飛ばされる。
「……っ!? 結界……?」
次元の扉の周囲には、強大な魔力を持つ存在を峻烈に拒絶する「選別」の結界が張られていた。
「ステラさん! 大丈夫ですか!?」
「ええ……大丈夫よ。どうやら私は入れないみたいね。……この先は、その宝石に共鳴している貴女にこそ資格がある」
悔しさを一瞬だけ滲ませながらも、ステラはすぐに表情を引き締める。
そして、リィンの背中を力強く押した。
「行きなさい、リィン。あなたを呼んでいるのよ。……私はここで出口を守る。自分を信じて」
「……はい! 行ってきます!」
リィンは光の裂け目へと踏み出した。
――
光の奔流を抜けた先。
そこは、これまでの廃城とはまるで異なる、異質な静寂に包まれた空間だった。
薄暗く、しかし荘厳な気配に満ちた石造りの小部屋。
窓はない。それでも壁そのものが淡く燐光を放ち、青白い光で室内を照らしている。
その中央。
古びた石の台座の上に、薄碧に輝く大剣が静かに鎮座していた。
導かれるように近づき、リィンはそっと剣に触れる。
冷たい。だがその奥に、確かな“脈動”があった。
意を決し、柄を握る。
そして――掲げた。
部屋は一瞬で、白銀の光に満たされた。
「こ、これは……?」
奔流のような情報が、直接脳裏へと流れ込む。
それは数千年の時を超え、受け継がれるべき意志。
――月の宝剣、メルクリウス。
その名が脳裏に刻まれた瞬間。
リィンの全身を、かつてないほど純粋な魔力が駆け巡った。




