第013話:白銀の騎士
祭壇の間を支配していた静寂は、白銀の魔導騎士の一歩によって無慈悲に打ち砕かれた。
重厚な鎧の擦れる音はない。ただ、凍てつくような魔圧だけが同心円状に広がっていく。
「……示せ、汝の覚悟を」
掲げられた大剣が朝日に反射し、鋭い閃光を放った。
「ハァァァッ!」
ステラの付与魔法により黄金の粒子を纏ったリィンが、爆発的な加速で地を蹴る。
最短距離で騎士の懐へ潜り込み、鋭い刺突を繰り出した。
ギィィィィン!
激しい火花が散る。
しかし魔導騎士は、大剣を羽のように軽く扱い、リィンの渾身の一撃を難なく受け流した。
「速い……!」
次の一撃に移るより早く、騎士の剣が横一文字に薙ぎ払われる。
空気を断ち切る真空の刃が迫る。
「リィン、伏せて!」
背後からステラの鋭い声。
リィンが反射的に身を屈めた直後、頭上を巨大な光の障壁が掠め、騎士の斬撃と衝突した。
ドォォォォォン!
衝撃波が広間を揺らし、太い柱に亀裂が走る。
ステラの展開した盾が、間一髪で直撃を防いだ。
白銀の騎士は、そのままリィンへ手をかざし、無慈悲な雷撃を放つ。
だが『盾』はそれを吸い込むかのように、事も無げに防ぎきった。
魔法が通じないと見た魔導騎士は即座に肉薄し、大剣を振り下ろす。
リィンは辛うじて短剣の腹で受け流すが、衝撃を殺しきれず、石畳の上を後方へ弾き飛ばされた。
「大丈夫、リィン!」
駆け寄ったステラは、即座に治癒の波動を送り込む。
白銀の騎士は、細剣を構えるステラを警戒するように、静かに間合いを取った。
(なかなかね……少し、本格的に手を貸す必要がありそうね)
ステラは一歩、前へ踏み出す。
細剣を掲げた瞬間、天井から無数の光の鎖が降り注ぎ、騎士の四肢を絡め取った。
「ヌゥッ……!」
騎士の動きが止まる。
鎖を引き千切ろうと魔力が爆ぜた、その瞬間――
ステラの指先から、極太の蒼雷が放たれた。
轟音とともに騎士の胸甲を撃ち抜き、白銀の鎧が激しく火花を散らす。
体勢が大きく崩れた。
「今よ、リィン! 最大の揺らぎを一点に!」
「はいっ!!」
刹那の好機。
リィンは全魔力を短剣へと注ぎ込む。
神聖な光と水の魔力が共鳴し、刃は白銀に輝きを増していく。
「これで……決めるッ!」
跳躍。
光の残像を引きながら、騎士の兜の隙間――青い炎が揺らめく「核」へと肉薄する。
騎士は大剣を振り上げようとする。
だがその腕は、ステラの重力魔法によって地へと縫い付けられていた。
「――はぁぁぁぁぁっ!!」
一閃。
刃が、喉元を深く貫いた。
白銀の鎧が砕け散り、内部から溢れ出した膨大な魔力が光の柱となって天へ昇る。
「……見事なり」
騎士は、どこか満足げに霧散した。
後に残されたのは、激闘が嘘のような静寂と――
祭壇の上でひときわ強く輝く『蒼穹の涙』。
リィンはその場に座り込み、激しく肩で息を吐く。
「……勝てた……ステラさん、私……」
「ええ。よくやったわ、リィン」
ステラは優しく背をさすり、その健闘を静かに称えた。




