第012話:黎明の決意
深夜、廃城の静寂を揺らすのは、時折吹き抜ける夜風の音だけだった。
ステラが施した結界魔法の淡い光に包まれた小部屋で、リィンは毛布にくるまり、穏やかな寝息を立てていた。その横顔にはかつての拙さは消え、数々の死線を乗り越えてきた者だけが持つ、静かな強さが宿り始めている。
ステラはリィンの寝顔を見つめながら、その驚異的な成長に思いを馳せていた。
(……これほどまでに早く、自身の「器」を満たし始めるとはね)
ステラの脳裏に、かつて父と交わした言葉が蘇る。
「リィンこそが、この星の新たな希望である」
その父の言葉の意味を、ステラは今、目の前の少女を通して改めて実感していた。単なる保護者としてではなく、未知の力を開花させようとする者の先導者として。そして、明日を楽しみだと言えるその「心の強さ」こそが、暗雲に覆われつつあるこの世界の光になるのだと。
「……おやすみなさい、リィン。あなたの歩む道は、私が照らしてみせるわ」
ステラは黄金の瞳を細め、愛おしそうにリィンの髪を一房撫でると、夜明けまでその守護を続けた。
翌朝。
廃城の崩れた天窓から朝日が差し込み、空気中に舞う塵を光の柱へと変えた。その光は、三層へと続く巨大な扉を厳かに照らし出している。扉に刻まれた古の文様は、魔力の脈動に合わせて呼吸するように微かに明滅していた。
「……行きましょう、リィン」
「はい、ステラさん!」
昨晩の休息で英気を養ったリィンは、迷いのない足取りで扉の前に立つ。二人が重厚な鉄門に手をかけると、ズ、ズズ……と地響きのような音を立てて、道が開かれた。
扉の先は、円形の広大な祭壇の間だった。
中心には、眩いばかりの蒼い輝きを放つ宝石――今回の昇格クエストの標的である『蒼穹の涙』が浮遊している。しかし、その輝きを遮るように、祭壇の前で「それ」が静かに立ち上がった。
三層の守護者、『白銀の魔導騎士』。
全身を鏡のように磨き上げられた白銀の甲冑で包み、その手には身の丈ほどもある大剣。頭部の隙間からは、侵入者を値踏みするような冷徹な青い炎が漏れ出している。
「……この蒼き輝きを求めるならば、その魂の重さを示してみせよ」
騎士が静かに剣を構えると、広間全体の空気が一瞬にして凍てついた。一層や二層の魔物とは比較にならない、圧倒的な「格」の差。
「……リィン、あれはこれまでの有象無象とは違うわ。一瞬の油断も許されない」
ステラの声が、かつてないほど鋭く響く。彼女は即座に呪文を紡ぎ、リィンの身体能力を極限まで強化した。
リィンは短剣を抜き放ち、騎士の放つ重圧を真っ向から受け止める。
「……ありがとうございます、ステラさん! 行きます!」
朝日に照らされた祭壇の上で、最終試験の幕が上がった。




