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第010話:死者の行進

一層の主シャドウ・ベアを討ち果たした二人は、崩れかけた螺旋階段を上がり、二層へと足を踏み入れた。

そこは一層の荒々しい石造りとは打って変わり、かつて貴族たちが宴を楽しんだであろう豪奢な装飾が残る大廊下だった。


だが、その美しさは今や重苦しい死の気配に塗り潰されている。


廊下の両脇には、人の背丈ほどもある巨大な鏡が並んでいた。

リィンがその前を通り過ぎようとした瞬間、鏡の中から無数の光の鎖が這い出し、彼女の四肢を絡め取る。


「――っ! 体が動かない!?」


「慌てないで。それは魔力を餌にする『吸魔のスペル・ミラー』よ」


ステラが指先を軽く振ると、鋭い光弾が鏡の核を正確に貫いた。

パリン、と硬質な音を立てて鎖が霧散する。


「リィン、目に見えるものだけが真実ではないわ。魔力の流れを『視る』のよ」


ステラはリィンの肩に手を置き、微量の魔力を流し込んだ。

すると、廊下に張り巡らされた複雑な魔法回路が、淡い光の糸となって視界に浮かび上がる。


罠を抜けた先に待ち構えていたのは、かつての衛兵たちの成れの果て――『ボーン・レギオン』。

錆びた甲冑を纏った骸骨兵たちが、カタカタと骨を鳴らしながら盾を並べ、通路を封鎖する。


「ただの骨ではないわ。闇の魔力で編まれた不浄の軍勢よ。リィン、水の刃に『浄化』のイメージを乗せなさい」


「はい、ステラさん!」


リィンが踏み込もうとした瞬間、骸骨兵の背後から巨大な斧を携えた『スケルトン・ナイト』が躍り出る。

振り下ろされる一撃は、防御の上からでも吹き飛ばされかねない威力だった。


「させないわ――『聖光の雨』」


ステラが掌を天にかざすと、無数の光の矢が降り注ぐ。

骸骨兵の盾を容赦なく穿ち、その動きを強制的に停止させた。


二層の最奥、晩餐会の会場であった大広間。

そこに、煤けたローブを纏い、禍々しい杖を掲げた『死霊術師ネクロマンサー』が浮かんでいた。


「生者の温もりなど……ここには不要だ……沈め、永遠の眠りにな……」


杖が床に突き立てられる。

次の瞬間、石畳の隙間から腐乱した腕が這い出し、武装した骸骨兵の軍勢――『アンデッド・レギオン』が広間を埋め尽くした。


「リィン、下がってはいけないわ。不浄に呑まれれば、精神こころから侵される」


リィンは短剣に魔力を込め、斬り込む。

しかし、倒しても倒しても骨は再び組み上がり、終わりが見えない。


「くっ……キリがない……!」


さらに術師が呪文を紡ぐ。

床の闇から、一際巨大な影が立ち上がった。


漆黒の甲冑を纏い、腐った愛馬に跨る『アンデッド・ナイト』。


その一撃が、リィンの体勢を大きく崩した。


「あっ……!」


隙を逃さず、骸骨兵たちが一斉に槍を突き出す。

回避は間に合わない。


鋭い刃が肩をかすめ、鮮血が石畳に散った。


「うあぁっ!」


膝をつくリィン。

死者の軍勢が、一斉に牙を剥く――


その瞬間。


「……そこまでよ。私のリィンに、その汚れた手を触れさせないわ」


大気を震わせる、冷徹な声。


次の瞬間、視界が黄金の光に染まる。

ステラが――細剣を完全に抜き放った。


横一文字の一閃。


放たれた黄金の衝撃波が円環状に広がり、広間を埋め尽くしていた数百の骸骨兵を一瞬で消滅させた。

再生の余地すら残さず、不浄な魂ごと焼き尽くす。


「グガァァッ!?」


術師が驚愕に声を上げる。


だがその前に、ステラはすでに地を蹴っていた。

その動きは、もはや人の目では捉えられない。


「控えなさい。死者は死者らしく、土に還るのが道理よ」


アンデッド・ナイトの魔剣を、左手の魔力障壁で受け止める。

次の瞬間――右手の一閃。


巨躯ごと、馬ごと、縦一文字に断ち割った。


漆黒の鎧が紙細工のように裂け、ナイトは光の塵となって消える。


「……リィン、立てるかしら?」


振り返らず、ただ前方の死霊術師だけを見据えたままの問い。

その背からは、神聖で圧倒的な“龍”の威圧が溢れていた。


「は、はい……! 大丈夫です、ステラさん……!」


震える手で短剣を握り直す。

眼前には、もはや障害はない。


「さあ、仕上げよ。あの術師を墜としなさい」


ステラの言葉に、リィンは強く頷いた。


導かれた道を、光を残して駆け抜ける。

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