居場所
―――間違えた。
間違えた。間違えた。
正しいことをしているつもりだった。自分は正義なんだと思い上がっていた。自分は、真実を導いていると思っていた。
だけど、間違えた。
間違えて、取返しのつかない事をしてしまった。
私は、正義なんかじゃなかった。むしろ、悪なんかよりももっと下劣で、最低な生き物だった。
私は、正義のヒーローに、なれなかった。
―――ゲーム同好会は良く思われていない。
そんな事は分かり切った事実だ。けど、評価なんかはどうでも良かった。
みんなと一緒にゲームをして、ゲームを作って、ゲームを楽しむ。ただそれだけで良かった。
なのに、どうして―――
「どうして、邪魔をするの・・・!?」
リザは、震える体を奮い立たせて、目の前に立つ襲撃者を見上げていた。
「はあ?あんたのようなクズが部長の部活なんて潰れた方がいいでしょ?」
目の前に立つのは、何やら外見を様々なメイクで着飾った女子生徒。しかもその後ろには、取り巻きのように十数人の女子生徒が嫌らしい笑みを浮かべながら立っていた。
一方のリザの背後には、頬を赤く腫らしたブルーノが壁に寄りかかって座り込んでいた。
「潰れた方がいいって・・・」
「事実でしょ?教室の隅でウジ虫みたいに蹲ってくだらない遊びしかしない社会のゴミなんて、消えた方がマシでしょう?そうは思わない?このカス!」
「きゃあ!?」
ギャルと呼ぶにはおこがましいほど意地汚い女が、リザを蹴り飛ばす。
「知ってるのよ?あんたたちが廃部にならないでいられるのは全部そこの男のせいだってことも。女として恥ずかしくないの?男に手柄取られてさ!」
「うぐう!?」
女の足がリザの腹に突き刺さり、ぐりぐりとねじ込まれる。
「り、りざ・・・!」
一方のブルーノは、苦しそうにうめく事しか出来ない。だが、その呻き声ですら、その女にとっては耳障りらしい。
「は?何喋ってんの?」
今度はブルーノの足を踏みつける。既に戦姫形態だ。その細い足から信じられないほどの力で踏みつけられれば、骨すら軋む音が聞こえてくる。
「ブルーノくん・・・!」
「うえ、気持ち悪。あーやだやだ何友情ごっこやってんの?男なんて虫けら、アタシらのサンドバックになってればいいのよ」
意地の悪い女が、ブルーノを蹴り飛ばした。
「ごお!?」
まるでゴムボールのように飛んだブルーノはそのまま壁に叩きつけられる。
「あ・・・お・・・!?」
凄まじい衝撃と激痛が、彼から呼吸を奪い、その意識を苛む。
「ブルーノくん!?」
「はいこれで害虫退治かんりょー。あとはこのゴミの溜まり場を片付けるだけっしょ」
「や、やめて・・・!」
「やめなぁい」
その女と、その背後に立つ集団が醜悪な笑みを浮かべる。
「助けを呼んでも無駄。あのザコたちが来たって、アタシらに勝てるわけが無いし、例の『掃除屋』もこの間のブラックリンカーの対処に追われてこの学校にはいない・・・助けなんてそもそも来ないのよ!」
勝ち誇ったように、無邪気に、醜悪に笑うその女子生徒たちを前に、リザは肩を震わせて怯える事しか出来ない。
「やめて・・・」
「さあみんな、ゴミ掃除始めるよー!」
まるで何かのイベントのように振舞う彼女たちの行動にすら、リザは恐怖で体を震わせることしか出来ない。
いつか受けた体の痛みが、昨日のことのように思い出せる。その痛みを思い出して、身体が更に強く震える。
(だめ、動かないと、まもら、ないと・・・!)
震える体を抱き締めて、自分を奮い立たせようと、自分の腕を掴む手に力を入れる。だが、いくら力を入れても、その体は立ち上がらないどころか震えが増すばかり。
(うごいて・・・うごいて・・・!)
どれだけ必死に命令しても、身体が動かない。恐怖が、鎖のように体に巻き付く。
『あの時』の恐怖が、身体を縛って動かさない。
そうしている間に、女子生徒たちはゲーム同好会の部室へと近付いていく。
「やめて・・・」
その様子を、リザは黙って見ていることしか出来ない。
「やめて・・・!」
このままでは、居場所が壊されてしまう。
(私たちの、大切な居場所・・・・!)
それでも、身体が動いてくれない。
「・・・やめて!」
声を、絞り出す事しかできない自分が、酷く憎かった。それしか、出来なかった。
「―――くたばれェ!!!」
「ぐぼぉ!?」
―――そこへ飛んできた篝が、扇動していた女子生徒の顔面に跳び蹴りを叩き込んだ。
「「「なっ!?」」」
(か、篝くん・・・!?)
その時、リザは見た。
女子生徒の顔面に跳び蹴りを叩き込んだ戦姫形態の篝が、そのままその頭を地面に叩きつけ、その顔面を踏み潰した所を。
ほぼ一瞬のことだった。篝の登場から、女子生徒一人倒されるまで、まさに鮮やかな手際であった。
しかし、篝の顔はその鮮やかさに反して、凄まじかった。
「ひっ」
味方である筈なのに、篝の顔を見てリザは思わず悲鳴を上げた。
篝の視線は、壁に叩きつけられてうずくまるブルーノへと向けられていた。それを見た篝は、すぐさま女子生徒の集団へとその視線を向けた。
「お前ら」
その視線に、その声に、その気迫に、全員が慄く。
「―――ッ!!」
歯を食いしばって、怒りのままに篝が駆け出し、集団に一気に突っ込んでいった。
「部長!」
「部長、大丈夫!?」
そこから遅れて、ゲーム同好会の後輩の面々がやってくる。
「みんな・・・」
「わあ!?ブルーノくんが!?」
「は、はやく保健室につれてかないと・・・!」
ブルーノの状況を見て、慌てるミリーゼとエリーゼの双子姉妹。一方のベルリアは、無惨な状態となったブルーノを見て、しばらく立ちすくんでいた。そして、その拳を静かに握り締める。
「ぐぎゃあ!?」
その時、聞こえた悲鳴に視線を向けると、そこには並みいる女子生徒を足技で薙ぎ倒していく篝の姿があった。
だが、その数の多さにいささか戦いづらそうだった。
「お前、どこのどいつだ!?なんでこいつらを庇う!?」
「男に頼りっきりのカスどもなんだよ」
何故、自分たちを攻撃するのか本気で分かっていないという顔をしている女子生徒たちの集団に、篝はより一層の怒りを込めて彼女たちを睨みつける。
「なんで、だ?」
篝はすぐ傍にいる女子生徒の首を掴んだ。
「が!?」
今、篝が使っているジャッジアクティブは、身体能力が素のままにヴァリアブルスキンへと変換しているリンカーとして欠陥と言って良いほどの代物だ。それにすら関わらず、身体能力が強化されている筈の戦姫は、自らを掴むその腕を振り払えなかった。
「お前ら、一体誰に手を出したと思ってる?」
そのまま持ち上げて、地面へと叩きつける。そしてそのまま、その後頭部を踏み潰し、怒りのままに吐き捨てる。
「―――友達に手を出されて、怒りを抑えられるほど俺は人が出来ていないぞっ・・・!」
「・・・!」
その言葉に、ベルリアは頭から水を被ったような衝撃を受けた。
「骨も残らないと思え」
再び篝は駆け出し、その足で並みいる敵を次々と蹴り飛ばしていく。
「・・・ミリーゼ、エリーゼ、ブルーノをお願い」
「ベルリア・・・?」
拳を握り締めるベルリアは、一歩前に踏み出した。
嫌がらせなら、ずっと前から受けていた。
このゲーム同好会は、部活という体を成しているが、実際はブルーノ一人に頼り切りなのが現状だった。
ゲームの出来は最悪でも、格闘ゲームの腕に関して言えば、ブルーノは群を抜いていた。
格闘ゲームのEスポーツの大会でも優勝出来る実績の持ち主だ。だからこのゲーム同好会は、ブルーノの実績で生かしてもらっていると言っても過言ではない。それ故に、他の生徒から白い目どころか邪魔者扱いされていた。
ここは『才能』と『結果』が全ての学園。だから結果さえ出せれば男であってもその実績は認められる。しかし、この戦姫が魑魅魍魎の如く跋扈する世界において、男が何かを成す事自体、禁忌に近い扱いを受ける。
だから、ゲーム同好会に対しての嫌がらせは絶えなかった。
ミリーゼもエリーゼもお世辞にもゲームは上手いとは言えない。ベルリアも同様だ。
ただ、リザだけはブルーノと張り合える実力を持っている。だが、持ち前の引っ込み思案とあがり症が原因で、人の集まる大会では体が強張って最上のパフォーマンスが出来ない。
だから、これはそのツケだ。
ずっと、ブルーノ一人に頼り切りになっていたことに対する報いだ。
だから―――
「私も、許さない」
ベルリアは、袖の下に隠した手首の腕輪に触れる。それが、彼女のパーソナルリンカーだ。
それを握り締めて、ベルリアはエーテルの流れを感じ取る。
(ごめんなさい、お姉ちゃん)
ベルリアの姿が変わる。淡い青の光と共に、アンヌメンシスの白を基調とした制服から、青いラインが特徴的なサイバーチックなジャケットとインナー姿へと変身する。その姿は、まさしく篝が最初に会った時の恰好そのものだ。
「ベルリア・アスカ、行きます!」
ベルリアが参戦する。その事実に篝は頭を回す。
(来るか。ってかほんと便利だなこの能力!全てスローになって考える時間出来るの助かるわ)
『まあ、それぐらいしか出来ないからね。というか、今までずっと不思議だったけど、いくら素の身体能力って言っても君力強過ぎじゃない?』
(こいつらの体重が軽いだけだろ)
篝は目の前にいる敵の一人に跳び蹴りをかまして吹っ飛ばす。
一方、ベルリアの方はというと、
「所詮は男に頼り切りのザコの集まり!さっさと片付けてしまうわよ!」
複数の戦姫が一斉に襲い掛かってきていた。
流石に篝に向かって襲い掛かってきている数に比べればそれほどではない。しかし、一人で相手にするには流石に多い数だ。
何より、ベルリアはそう強そうには見えない。
(大丈夫か・・・!?)
「ザコは、大人しくサンドバックになってなさいよ!」
最初にベルリアに辿り着いた女子生徒が、ベルリアに向かって拳を振り下ろした。
対してベルリアが取った手は、なんとその拳を掴むことだった。
「っ!」
ベルリアは、見事にその女の右拳の手首を掴んで止めて見せた。
―――べきっ
そして、何かが折れる音がした。
「ぎっぃあ!?」
「あっ」
その女子生徒の突然の異変に、他の連中も訝しんで留まる。
一方のベルリアは『やっちまった』という顔で慌てていた。
「えっと・・・ごめんなさい!」
「な、え、何!?」
だがその沈黙も少しのこと。ベルリアはその女子生徒の身体を掴むと、そのまま頭上高く持ち上げると、その状態で全力で前へと投げる。
その女子生徒は砲弾となった。
「うお!?」
その人間砲弾の威力は凄まじく、並みいる女子生徒をボーリングのピンのように吹き飛ばしてしまう。
流石の篝も思わず口が×になるほどの衝撃であった。
(あの見た目でパワーファイターかよ!?)
ベルリアの予想外の力に、篝は動揺を隠せない。
『篝後ろ!』
「おっと!?」
そこでアネットからの警告ですぐに背後からの攻撃を回避。すかさずカウンター気味にその鳩尾に膝蹴りを叩き込んですぐに沈める。
しかし、そこで篝はある違和感に気付く。
(なんか、数が減っていないような・・・?)
相当な数を倒した筈だ。だが、どうにも倒れている筈の敵の数が一向に増えて言ってないような気がする。
『気が付いた?』
どうやら、アネットも同じように違和感に気付いたようだ。
(最初の方で潰した連中がなんでか立ち上がってやがる)
「お前ッ!!」
襲い掛かってきた女子生徒をハイキックで地面に叩き伏せる。しかし、その顔には見覚えがあった。
「こいつ確かさっき―――ッ!?」
その顔を確認しようとして、篝は悪寒を感じ取って、首をひねった。
その頬を掠めるように、何かが通り過ぎて、背後の地面を砕く。
それは、刃のついた機械のアームだった。まるでタコの腕のように蠢くそれが、精密な機械音を立てながら持ち主の元へと戻っていく。
「アンタ・・・なんなの・・・?」
顔面を蹴りつけ、踏み潰した筈だ。だが、その顔には折れた鼻も靴型の痣もない。
まるで元から何もなかったかのように、傷がそこになかった。
その女の傍らには、一人、妙な雰囲気のある女子生徒がいた。
(回復系コードスキル持ちか・・・!)
いわゆる、『ヒーラー』というものだ。当然、人体を修復、治癒することの出来るコードスキル持ちなんてものは希少であり、それを持っているだけでかなり重宝される事が多い。
(回復系なんて初めて見た・・・!)
『不味いよ。あの子、たぶん相当な能力者だ。さっきベルリアちゃんが吹っ飛ばした子たちも立ち上がり始めてる・・・!』
その女子生徒の左腕から緑色の光の迸るコードが見える。おそらくは、自身を中心とした範囲内の特定対象のみに治癒を施すタイプのコードスキルだろう。そして近付くか直接触れば、その効果は上昇する。
そう観察していると、着飾った女が篝に向かって話しかけてくる。
「女のくせに、ゴミを庇うってどういう事?ふざけてるの?」
「・・・そのまま寝てりゃあ良かったのに」
「ふざけてんじゃないわよ!!!」
その着飾った女が、甲高い金切り声をあげて喚き出す。
「クソの役にも立たないカスでゴミがこの世にのさばってるだけでも迷惑だってのにそのゴミに助けられてる部活なんてこの世に存在しちゃならないのよだからわざわざ消してあげようってしてるのになんで邪魔するのあああんたもカスなのねだったら今ここできっちり指導してあげるわ私は優しいのよ懇切丁寧に教えてあげる男がこの世でもっともいらないゴミだってことをね今すぐそこのゴミを殺して―――」
ズドンッ!!!という音と共に、篝のすぐ傍にいた女が蹴り飛ばされる。
「ごぼお・・・!?」
「・・・は?」
突然の篝の行為に、着飾った女子生徒の言葉が止まる。
「・・・弱い者いじめしか脳のない三下風情がわーぎゃー喚いてんじゃねえよ」
その着飾った女子生徒は、自分の計画を邪魔された挙句に自分を足蹴にされたことで確かに怒っているのだろう。
だが、そんな女子生徒の怒りなんかより、篝の怒りの方がよっぽど燃え上がっていた。
「発情期かなんかかクソヤロー」
「ぶっ殺す!」
一体どういうコードスキルなのかは分からない。ただ、その背中から伸びる機械アームの射程距離は脅威だ。尚且つ、パワーもあるのだとすると。
(掴まれたらアウトと考えた方が良いな)
そして現れるのは四本の機械アーム。これら全てを捌いて接近して一撃を叩き込む。それを、この二対十数人相手に実行する。
言うだけなら簡単だが、実際やるとなると、かなり難しい。
(思考に余裕はもてるが、捌いて近付けるか・・・!)
機械アームが僅かに震える。瞬間、篝は駆け出した。
ブルーノを保護してこの場から離れようとしていたエリーゼを狙う機械アームを飛び蹴りで蹴り飛ばす。
「きゃあ!?」
「チッ」
「やろっ」
視線で気付いて反応出来た。だが、それでもかなり危なかった。最初の一発で速度は把握していたが、それでもかなりギリギリだった。
「どこまでもどこまでも―――不愉快なのよぉ!」
「エリーゼ、そこ動くな!」
四つの機械アームが動き出す。その動きに、篝は悪寒を感じ取って後ろでブルーノを抱き締めるエリーゼに指示を下す。
「エリーゼ!」
離れていたミリーゼが思わず駆け寄ろうとする。しかし、その前に四本の機械アームの猛攻が篝たちを襲う。
(戦乙女流決闘術―――)
機械アームの攻撃に対して、その側面に手を添える事によって攻撃の軌道を逸らす。
戦乙女流決闘術『水割』
以前、リブラに使った『時化抜ケ』は、回避前提の護身術。一方、この『水割』は防御を前提とした護身術だ。
だから、その場から動かない事が前提となる。故に―――失敗すれば、攻撃をもろに喰らう。
「死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね・・・・!」
「ぐ・・・ぅ・・・!」
「きゃああぁあああ!!?」
背後から響く悲鳴と凄まじい猛攻の立てる音をBGMに攻撃を必死に捌き切る篝。だが、攻撃を受ける度に、受けた手の骨が軋み、皮膚が裂け、破れ、血が飛び散る。
(クソっ!?速いうえに重い!?というか、よく見たらこの機械っぽいアーム普通に『肉』なんだけど!?)
『金属光沢を帯びてる甲羅がまるで機械のように見せる・・・まるでドクターオ○○○スとウル○○○ンが融合したやつみたいだね』
「どく、なんだって!?」
この時、アネットの言葉に気を取られたわけでは決してない。ただ、地面スレスレから伸びてきた機械アームもとい触手がその甲殻の刃で篝の片腕を真上へ弾いたのだ。
「しまっ―――」
その隙を狙って迫る残り三本の甲殻触手。だが、篝は辛うじて両手で二本、片足で一本を辛うじて押し留めて躱す。
しかし、すでに引き戻されていた四本目が既に攻撃態勢に入っていた。
(間に合うか!?)
篝はその最後の一本を迎撃しようと残った足を振るおうとした。
しかし、それを見ていたベルリアが、敵の一人を掴んで、それを触手を操る女子生徒へと投げ飛ばした。
「うわああ!?」
「させ、ない!」
その小柄で華奢な体からは信じられないほどの膂力でぶん殴られたその女は、そのまま着飾った女子生徒へと砲弾の如き勢いで迫る。
「危ない!」
「うわ!?」
だが、それも回復役の女子生徒が後ろから着飾った女子生徒に飛び掛かる事で躱されてしまう。
しかしそのお陰で篝たちへの猛攻は一旦終わることとなる。
「ぐっ・・・」
だが、篝の腕の状態は芳しくない。想像以上の攻撃の密度に、篝の腕は既にボロボロだった。
「大丈夫ですか!?」
「ああ、まだ動く」
「ふ、二人とも、私たちも戦った方が・・・」
「お前らは動けない連中を守ってろ。でなきゃ自由に動けない」
篝は怯えながらも参戦を望むエリーゼを冷徹に諭す。だが、エリーゼを庇うために腕を酷使し過ぎた。
(あの攻撃は、両足で踏ん張らないと凌ぎきれない。雑魚もあの回復能力のせいで無限湧きする。まず奴を仕留めないと・・・)
「・・・篝」
アネットの能力で頭を回していると、唐突にベルリアがが声をかけてくる。
「なんだ?」
「私のコードスキルであいつの攻撃を防ぎます。その間に、あのヒーラーを倒せますか?」
ベルリアの提案に、篝は目を見開く。だが、すぐに回復役の女子生徒へと視線を向ける。
「・・・出来んのか?」
「・・・出来ます」
「よし分かった」
ベルリアの返事を聞いて、篝はすぐさま身を低くして構える。
「数えて三つ、そしたら出る」
「分かりました」
「何作戦会議してんのよ・・・!」
そこで着飾った女子生徒が立ち上がり、再びその鋼鉄の甲殻の触手を篝たちに向ける。
対して、ベルリアもまたその目を青色に輝かせて構える。
「この世に不要なゴミは、さっさとこの世から消えなさいよ!」
「行くぞ」
「はい」
触手がうねり、その爪を篝たちに向けられる。
「三・・・」
対して、ベルリアの身体にプラズマが迸り、淡い青い光が場を照らす。
「二・・・」
二人の背後で、エリーゼがブルーノをいたわるように、抱き締める。
「一・・・っ!」
離れて物陰に隠れているリザとミリーゼは、その結末を見届ける事しか出来ない。
「―――ゼロ!」
合図とともに、篝が駆け出す。同時に、四本の触手が、一斉に篝めがけて襲い掛かる。
(俺かよ!?)
だが、回避は容易い。故に、篝はすぐに回避行動に移ろうとして―――
何かの破裂音と共に四本の触手が突如として何かに弾き飛ばされた。
「「「な!?」」」
突然の事に、その場にいる全員が立ち止まる。何が起きたのかを理解しようとして、全ての行動が止まる。
「―――おい」
そこで聞こえてきたのは、酷くぶっきらぼうな声だった。
「こんな人目につかない所で、一体何やってんだ?ああ?」
この人目のつかない場所へと通じる通路から、一人、やってくる人物がいた。
夕焼け色の髪、険しく刃のような顔立ち、小柄な体。下手をすればベルリアより低いかもしれない体格の少女が、そこにいた。何より目立つのはそのドラゴン柄のスカジャン。
しかし、その少女が放つ雰囲気は、その場の全員を凍らせるには十分だった。
(なんだ、あいつ・・・)
それは篝も例外ではない。例外は―――
「―――お姉ちゃん!」
ベルリアだった。
「お姉ちゃん・・・ってあいつが!?」
「はい!私の自慢のお姉ちゃんです!」
ベルリアは、心底嬉しそうにそう言い切った。
姉妹だからって似ているとは限らない。




