『EXA.HERACULES』
「それで、ガリリ君はどうしてゲーム同好会の・・・ベルリアの奴隷に?」
身元の確認が済んだ後、フィリアが篝もといガリリに向かってそう尋ねてくる。
(何考えてんだこいつ?)
フィリアの不自然な反応に篝は首を傾げつつ、篝は適当に答えてみる。
「ちょっと危ない所を助けてもらったんだよ。実はゲーセンでボロ勝ちしてさ。そこで変な奴らに命狙われそうになった所を助けてもらったわけ」
「例の奴らね・・・全くどこにでも現れるんだから」
(どうやら認識してるみたいだな。そして排除したい、と)
「それで、恩を感じてゲーム同好会に?でも、こういってはあれだけど、ゲーム同好会にはまともな実績はないわ。普段ゲーム三昧だし、創ったゲームはほとんどが最低評価。この学校での評判もとてもいいとはいえない」
「でも逆に考えれば見向きもされねえってことだろ。だったらそっちの方が安全だと思わないか?」
「安全、ね」
フィリアの反応が芳しくない。どうやら、言葉を間違えたようだ。
(こいつが何を考えてるのか分からないが・・・ここは誠実に答えた方がよさそうだ)
「一応、こいつらの作ったゲームをやってみたが、ありゃ確かにクソゲーオブザイヤーに輝くレベルの出来だ。システムは最悪、ストーリーもダメ、挙句の果てにクリアさせる気がないときた」
「ちょっと!?」
「お姉ちゃん黙って」
篝の言葉に文句を言いそうになったミリーゼをエリーゼが抑え込むのを他所に、篝は言葉を続ける。
「ただ」
「ただ?」
「楽しいとは思う。ブルーノが笑っていられるのも分かる。みんなでわいわいやるってのも悪くないって思えるし、何より居心地が良いと思う。男と女が一緒になってああいう事が出来るのは、良い事だと思うぜ。だから、まあ俺はこいつに選んでもらえてよかったと思うぜ」
そう言い切って、篝はふと気付く。
(そういや、ラーズも似たような事言ってたな)
あの絶体絶命の窮地にラーズが言ってくれた言葉を今でも覚えている。だから、なんとなく自分の呟いた言葉に、どうにも聞き覚えがあったのだろう。
ただ、今は目の前に立つ面接官をどうにか凌がなければならない。なので、その反応を見てみると、どうやらかなり面を喰らった様子で篝をみていた。
「・・・そう、それならいいわ」
そう言って、フィリアはそっと篝に近付くと、
「私相手だから良かったけど、他の人には敬語を使って。じゃないと変に目を付けられる事になるわよ」
「お、おう・・・」
「事情は知らないけど、紛れ込むんだったら目立たないように行動して。でないと、また付け狙われる可能性があるから。それと、この子たち、油断してると何かやらかすから、しっかり見張っといてよね」
「へい・・・」
何故か、しっかり、という言葉だけ異様に力を入れて言ってくるので、篝はただ頷くしかなかった。
「フィリア、フィリア・・・」
そこでベルリアがフィリアに声をかける。
「実は私たち、この子を探していまして・・・」
「何、この子?」
「えーっと・・・ガリリの本当のご主人様というか・・・」
「はあ・・・」
ベルリアが手渡したのはラーズの似顔絵だ。それを、受け取ったフィリアは怪しむ様にベルリアを睨みつける。
同級生ながら仲が良いのか悪いのか。
「ていうか、人探しならヴァイスハイトに頼めばいいじゃない。監視カメラなりをハッキングしてもらうなりすれば・・・って私は何を言ってるのかしら・・・」
「ん?ヴァイスハイトといやあさっきミリーゼが・・・・」
篝は再びミリーゼの方を見る。
「!!!?!?」
「『!!!?!?』!?」
そこには『その手があったか』と青褪めるミリーゼの姿があった。
そんなミリーゼの様子に気付いたのか、その場にいる全員が冷めた目でミリーゼを見ていた。ミリーゼは下手くそな口笛で誤魔化そうとしていたが、もう遅い。
「全く・・・一応、こっちでも気にとどめておくけど、あまり期待しねいでね」
「ううん、ありがとうフィリア」
「クラスメイトの頼みだもの。礼はいいわ。それじゃあ、私はこれで失礼するわね」
そう言って、フィリアはぽん、と篝の肩を叩くと、すれ違いざまに囁いてくる。
「あなたも、この学園を楽しんでね」
そう言って立ち去っていくフィリア。その後ろ姿が見えなくなったころ、篝はミリーゼの方を見る。
「それで、ヴァイスハイトってのはどこにいるんだ?」
そうして案内されたのは、これまたコンピュータばかりの空間。
「思うんだが、学校にこんな犯罪まっしぐらな場所があっていいのか・・・?」
「大丈夫、極めて真っ当な部活だから」
篝の疑問に答えたのはハッキング集団『ヴァイスハイト』の一人、白髪長髪の気だるげそうな少女であった。
「初めまして、ガリリ君。私はエメト。主にデータの復旧を担当しているよ」
「ああ、どうも、ガリリだ」
少女―――『エメト・ハイル』がそう挨拶してきたので返事を返した途端、エメトが篝に向かって一気に近付いてくる。
それに思わず仰け反ってしまうが、エメトは興味深そうに篝をじっくりと嘗め回すように見てくる。
「・・・なんだよ」
そうぶっきらぼうに尋ねる篝に答える声は、なんと背後から聞こえた来た。
「本当に男なんだね」
「うお!?」
後ろにいるのはヘッドフォンを首にかけている少女だった。その少女が後ろから抱き着いてくる。
その為、その少女に匂いが篝の鼻孔を擽る。しかし、このまま抱き着かれる訳にはいかないので、篝は離れてもらうよう、説得することにした。
「お前ら風呂入ってるか?」
篝は、好感度を対価に攻撃した。
「うわ最低」
「初対面にそれはないよ」
「そうだよ!私たちなんて昨日からお風呂なんて入ってないんだからね!」
「それは自慢する事じゃないよお姉ちゃん」
「そういえば今日帰ってませんでしたね」
「好感度が下がったんなら離れてくれねえか?」
「「それはまだダメ」」
どうやら効果はいまひとつのようだ。
「おお、結構がっしりしてる」
「喉仏も出てきてる。これは男にしか出ないからね」
「あと髪についてるの、これリンカーですね。あの映像はフェイクじゃないってことですね」
「待て待て待てさっきから何の話してんだ!?」
先ほどから二人の会話から出てくる言葉に篝は思わず反応する。
『何って、ハッキング出来るってことは君に関する情報を集められるってことだよ。君が暴れた工事現場に監視カメラが無いとでも?』
その答えを言ったのはアネットであった。
それを聞いて、篝は思わず固まる。
「・・・え!?知ってたの!?」
「なんでお姉ちゃんが驚くの!?」
そして真っ先に反応したのはミリーゼだった。
「当然じゃない。私たちはヴァイスハイトだよ?ここプトレマイオスにおいて一番のハッカー集団。君の話を聞いて情報を集めるのは当然のことでしょ」
「本当は部長が見つけてきた映像を見ただけなんだけど、そこはミリーゼへの誤解を先んじて解くために開示しておきましょう」
「部長だぁ?」
「でも今はどうでもいい事だから気にしないで」
「いや気にするわ」
ひとしきり満足したのか、エメトとヘッドフォンの少女は篝からさっさと離れ、部屋に備え付けられているパソコンの方へと向かう。
「それで、用事は何?」
「ああ、俺の相棒を探して欲しい」
「もしかしてこの子の事?」
そう言って、ヘッドフォンの少女がある映像を映し出した。
「っ!?ラーズ!?」
そこには、今まさに篝から財布と携帯とリンカー諸々をスった女とそれを追いかけようとするラーズが映った映像があった。
「既に突き止めてるのか?」
「いや、君の情報に集中してたから、君と別れた後のことはまだ。でも、このアンヌメンシスにいるなら情報を集めるんは容易い」
「じゃあ早速・・・」
「ただし、タダでやるわけにはいかない」
と、エメトはそう口を挟む。
「こっちも仕事だからね。相応の対価を支払ってもらわないと」
「・・・何をすれば良い?」
身構える篝に対して、ヴァイスハイトの二人は不適な笑みを浮かべる。
「あるものを取ってきて欲しい」
「あるもの?」
「そ。このアンヌメンシスはプトレマイオスの西に位置する場所なんだけど、そこから更に西へと向かうと立入禁止区域に指定されている『廃墟』がある。そこにあるものを取ってきて欲しいんだ」
「廃墟?それって、旧文明時代の街だとかそんな所か?そんな所に何を探しに行くんだよ?」
「重要なのは、そこだけ『立入禁止』になっているってことです。最近、そこにはまだ発見されていない未知の遺跡がある事が分かったんです」
「あー、ちょっと話遮るんだけどいいか?」
「何?」
「そっちのヘッドフォンの名前は?」
「・・・あ、そういえば名乗ってなかったです?」
「抜けてんのか初対面だぞ!?」
閑話休題。
「私はライラ。では気を取り直して、説明を続けるです」
ヘッドフォンの少女の名は『ライラ・オットー』とのことであった。
「まあ、よろしく・・・で、まあようするに、その立入禁止区域に入ってなんか漁ってこいってことか?」
「ちょっと違うかな。この遺跡は旧文明時代における最先端技術で作られてるらしくて、今でも設備が生きているんだ」
「それを先日、ヴァイスハイト総出で攻撃してみたんだけど鉄壁のファイアウォールやセキュリティシステムに阻まれて、その全容までは把握する事は出来なかったです」
「けど、収穫はあった訳だ」
篝の推測は的を得たらしく、二人はこぞって頷く。
「君に取ってきて欲しいのは、その施設にある『EXA.HERACULES』って言うものを取ってきてほしんだ」
「エグザヘラクレス?」
「そ、僅かに入手出来た情報によると、そのエグザヘラクレスには、旧文明時代の知られざる兵器や武器のデータがたんまり入っているらしんだ」
「それ取ってきていいやつか?」
「今の時代、銃火器なんてものはもはや役立たずの鉄屑扱いされてるんだ。旧文明時代においては強力な武器だったみたいだけど、エーテル以外の攻撃が通用しない戦姫相手には一切役に立たないからね。だから見向きもされないと思うよ」
「それは、まあ、確かに・・・」
先日、篝が使った鉄にコードスキルによる電気を流して攻撃する手段だが、その効果時間は短い。何しろいつまでも電気が帯電している訳もなく、さらに言えば、エーテルはその持ち主本人から離れれば減衰し霧散してその力を失ってしまう。だから頼り切りになれる技術でもない。
(ラーズが作った『靴』も、一週間経つとただの靴になる。一週間経つ度に作っても消せないから無駄に靴が増えるからやめたんだよな・・・)
肌身離さず持っていたとしても、何故かエーテルの性質だけが消えて現物だけがそこに残るのだ。
魂から漏れ出た力故なのか、エーテルの力はどうやら本人から離れると消えてしまうらしい。
(どちらにしろ、早くラーズを見つけないと。今頃、どっかで迷子になっているかもしれないし、あの肉体維持できなくてどっかに転がってるかもしれないし、最悪誰かに持ち去られてる可能性もある。背に腹は代えられないか・・・!)
頼れるアテもない以上、引き受けるしかない。
「分かった。引き受け―――」
『割に合わないと思うけどなぁ』
そう思って、引き受けようとした時、何故かアネットが割り込んできた。
「あ?」
突然の事に、戸惑う篝。
『だって、ようするに自分たちでは危なすぎて命が惜しいので代わりに死にに行ってくださいって言ってるようなものでしょ?たかだか情報一つの為に命賭けるのは間違ってると思うけどなぁ』
捻くれたような言い分をすらすらと吐き出すアネット。まるで何かが気に食わないかのようだ。
「まあ否定しないよ。だって私たち戦闘力皆無だし」
そのアネットの言い分に、ヴァイスハイトの面々は仕方なしと言う顔で、特に反論することなく頷いてしまっていた。
『そういう訳だよ。君だって命は惜しいだろ?だから―――』
「エンゲージ―――『ジャッジアクティブ』」
『えあちょ』
そんな場の空気を一気に悪くしていくアネットに対して篝が取ったのはなんと変身―――即ち戦姫化であった。
瞬く間に篝の身体が淡い光と共に変化し、その身を男から女へと変身させる。
「「「おお・・・!?」」」
周囲の人間は思わぬショータイムに感嘆の声を挙げる。
一方、篝は骨格どころか声すら変化した状態を持って、エメトたちと対峙する。
「じゃ、続けようか」
『ちょっと、ボクの話は・・・あれ、待って。もしかしてボクの声、君以外に聞こえてない!?』
「悪いが俺はいつだって命懸けだ。だから不毛な言い争いは後でやるぞ」
『いやいやいや、少しはボクの話を・・・』
「何か準備しておくことは?」
『おい!?』
篝は喚くアネットを無視して話を続けた。アネットはむくれた。
「その前に写真を一つ・・・」
「後で好きなだけ撮らせてやるからとりあえず話を続けさせてもらおうかっ」
「ちぇ」
と、エメトが取り出そうとしたカメラを押し込んでしまわせつつ、篝は話を続けさせた。
「それで、何か用意すべきことは?」
「んーと、です・・・」
と、ライラが何かを言いかけた時だった。
「あ、なんかやばいかも」
ここに来て今の今まで会話に参加してこなかった第三者が口を開いた。
居場所はこのヴァイスハイトの部室の奥、並び立つパソコンの一つに座る少女。
「どうしたのリコ?」
リコと呼ばれたその少女は、少し焦ったような顔で自分が見ていたパソコンの画面を見ながら篝に、というより、その後ろのゲーム同好会の面々に向かって言った。
「ゲーム同好会の部室、襲われてるよ」
出る杭は打たれる




