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黄金のアテナ  作者: 綾波幻在
第二章 アンヌメンシス編
28/33

クソゲー初見攻略RTA


―――突然だが、篝は髪フェチである。


戦乙女流の師匠であるアイリスのウェーブある鮮やかな菖蒲色の長髪から始まり、ノリアのブロンド、ステラのピンク髪、セラの黒髪等々、趣向としては長髪が多いものの目を惹かれる場合は髪に集中する事が多い。

そんな髪フェチの篝が至高、と断言できる髪は、一度きりしか会ったの事のないエレン・スタジアの宝石のような赤髪だ。

血のようでいて、赤く染まった月か、それとも宝玉かと見紛う程の赤髪は、篝の脳裏から片時も離れた時はない。


―――が、それとは別に、篝は大の『ロボット好き』なのである。



「・・・・・・」


なのでガラス越しに目の前で行われているロボットアームによるプラモデル組み立て作業というものに釘付けになっていた。


『篝、ちょっと篝!』


そんな篝に対してアネットがそれはしつこくちょっかいをかける。


『君、今自分の立場分かってんの?おーい!』

「・・・・ハ!?そうだった俺男だった!」

『なんでその事実まで忘れてんだよ!?』


周囲からはそれはそれは奇怪なものを見るような目で見られており、早速悪い意味で目立ってしまっていた。


「何あの男・・・」

「気持ち悪・・・」

「男がロボットなんかに興味もたないでよ・・・」


「・・・」


針の筵というか、なんというか。流石に悪目立ちするべきではないので、篝はそそくさと先に行っていた『ゲーム同好会』なるグループの元へと戻っていく。


「もー!人がせっかく案内してあげてるのにはぐれないでよ!」

「お姉ちゃん声大きい。篝さんもあまり目立たないでください」

「面目ねえ・・・」


と、申し訳なさそうに頭を掻いていた篝だが、ふと横を通った自立稼働式ゴミ回収ロボットが横切るとそちらに視線が移り―――


「集中!」

「へい!」


エリーゼに怒られてしまった。


「ところでなんだが・・・」


そこで篝は先ほどから気になっていた疑問を口にした。

というのも、


「そいつはなんで今にもぶっ倒れそうなんだ?」


リザが顔面蒼白で白目を剥きそうになりながらブルーノに抱き着いている姿がそこにあるからだ。


「部長、人混みが苦手なんだよ」

「苦手というか恐怖症レベルだろ」

「がくがくぶるぶる」

「口で言っちまってるよ・・・」


このまま放置する方が可哀そうなので、早く次へ向かう事にする。


「ていうか、よそ者の上に男である俺がこんな堂々と敷地内歩いてていいのか・・・?」

「今日は休日だから割と私服でいる子も多いでしょ?この学園だと、ある程度男の権利も認められてるから、私服でいても問題はないんだよ」

「聞けば聞くほど摩訶不思議な学校だなここは・・・」


ふと、篝は思う。


「まさか平日だと倍以上の人数になるのか!?」

「そうだよ?」


休日でどこかの商店街レベルの人数が倍になる。それを想像した途端、篝は震え始めた。


「やべえ想像したら気持ち悪くなった」

「「『人未慣れ!?』」」


これ以上はここにいるのは拙い。そう考えた一同はさっさと場所を移動する事にした。


「とりあえず、ここで活動する以上はやはり制服は必要になります。あと、登録されていない男が学園内を徘徊しているのも問題なので、万が一の時を考えて、生徒登録してしまいましょう」

「出来んのかそんな事?」

「それが出来ちゃう人たちがいるんだよね・・・」

「ってか、男一人の為にそんな事やってくれる奴がいるのか?」

「あの人たち、というかここで才能ある人って大体『壁をぶち破るぞ』って人たちが多いから」


確かに、ここにあるものはどれもこれも奇天烈でヘンテコだ。なるほど、と思うものもあればなんだこりゃ的なものまでピンからキリまで多くある。

しかし、どれもこれもが試行錯誤と本人の芸術センス、そして合理性を兼ね備えたものであることも理解出来る。


すなわち、どいつもこいつも自分の才を見せびらかしたくてたまらない者たちばかりだという事なのだろう。


「ここがアンヌメンシスってことか・・・」


計算と実験、そして合理性を突き詰める事によって技術の最奥を極める。

それこそが、このアンヌメンシス科学院であることを、篝は思い知る。



そうして、その敷地内にて、まさしく部屋の片隅とも言うべき日照権侵害しまくられている場所に、ゲーム同好会の部室はあった。


「見るからにTHE・異端って感じの場所だなこりゃあ・・・」

「失礼な!これでも立派な我がゲーム同好会の部室なんだよ」

「同好会なのに『部』なのか・・・」

「一応学校の部活動やサークル活動みたいなものですから」


篝の感想にミリーゼが憤慨、ツッコミにベルリアが苦笑交じりに応じる。そうしている間にブルーノが鍵を開けて扉を開ける。


「さ、入って。まずは僕らゲーム同好会の部室を案内するよ」

「まあ、邪魔する」


入ってみる。そしてそこで目にしたのは―――


「・・・めっちゃゲーム部屋」


そう、ゲーム部屋だ。

据え置きの巨大なモニターとゲーム機に、床で生活する事を想定したマットレス。片隅にはロッカーが立ち並び、壁一面を占領する棚にはゲームの攻略本、プログラミング教本等々の教材から関係ない漫画までおかれ、コピー機やオーディオまで置かれ、一体全体どうやって取りそろえたのか不思議なくらいの空間に、篝は圧倒される。


思えば篝たちの住む家は二階建てとは言え、古い木造にして畳とちゃぶ台がある程度。他に趣味と呼べるものなどバイクとその整備道具ぐらいしかない。


その為、この部屋のカラフルさにはくらりと来る。


「色とりどりで目がっ!」

『君今までどんな生活してたんだよ・・・』


しかし何はともあれ、篝はゲーム同好会へとたどり着いたのである。


「今夜はここで泊まるといいよ」

「なんか悪いなよそ者の俺に色々してくれて」

「助けてもらったからね。命の恩人を粗末に出来ないよ」

「そ、そう、だよ。ブルーノくんを助けてくれたんだから、気にしないで」

「・・・待て、今のリザの声か?どっからだ?」


何故か姿が見えないのに声が聞こえてくるので周囲を見回してみると、足元でごそごそと動く影が見えた。

一体なんだと視線を向けてみたら、そこにあるのは人ひとり入れそうなダンボール。


「ダンボール!?」


大事なことなので、地の文と続けて二回言いました。


「あはは、リザは恥ずかしがり屋だから、部室だと普段はダンボールの中に籠ってるんだよ」

「なんだその新手の引きこもりは・・・」

『個性的過ぎるでしょ・・・』


などと漫才をしていると、ふとミリーゼとエリーゼ、そしてベルリアがPCの方のゲームを起動していた。


「何してんだ?」

「ゲーム同好会に来たからにはゲームをしないとね」


そう言って起動した画面には、これまたコテコテなRPGゲームの開始画面。

一見、面白そうなゲームではある。


「どこぞの王道ファンタジーRPGか?」

「うちで作ったゲームなんだ。やってみてよ」

「まあ、暇つぶしにはなるか」

『レトロだね~。ねね、あとでボクにもコントローラー貸してよ』

「お前は触れねえだろうが」


そんな訳でエリーゼからコントローラーを貰い、早速開始ボタンを押した。


『―――時はスペースコスモ歴369年・・・』

「・・・・・」

『世界は今、英雄を欲していた』


『―――チュートリアルを開始します。Bボタンを押してください』


ポチ・・・篝はAボタンを押した。


「「「なんでわかったの!?」」」

「見え透いてんだよ意図がッッ!!!」


心底驚いたようなゲーム同好会のメンバーと篝の怒号が炸裂する。


「なんか一目見た瞬間からあ、これクソゲーだ、って思ったわ!?どうせ指示通りにB押すとゲームオーバーになるんだろ!?」

「ま、まさか初見でこのギミックを見破られるとは・・・」


見破られた事に驚きつつも、ゲームを続行する篝にミリーゼは目を丸くす。


「あ、続けるんだ」

「どうせ日も暮れて暇になるんだ。こうなりゃトロコン目指して完全制覇してくれるケヒャヒャヒャ!!!」

「君、ゲームするとそんな感じになるんだね・・・」

『というかトロコンって結構通でしょ君』

「ま、まだだよ!この程度でクソゲーオブザイヤーに輝いた私たちの『スペースコスモ戦記』は負けないんだから」

「やっぱりクソゲーなのかよ!?ってかオブザイヤー取ってんのかこのゲーム!?」


『ブロンズソードを装備しました』


篝は自分の操作キャラに武器を装備させた。ここに至るまでに既に十個ぐらいのゲームオーバーコマンドがあったが篝は全て回避している。


「よしよし、そのまま街を出ればRPGの王道である戦闘が始まるよ」


そうして、どこかぶよぶよとした謎の生命体が現れる。


「これってスラ・・・」

『ぶよぶよが現れた』

「そのままかい!?」

『工夫の欠片もない!?』

「ありきたりだとつまらないなって思って・・・」


とにもかくにもまずはコマンドだ。どうやらこのゲームは、最初にコマンドを入力した後、キャラの『速さ』を基準に行動順を定めるようだ。

そうして、篝が選択したコマンドは―――


『たたかう』

『ぼうぎょ』

『わざ』

『にげる』


「・・・・」


『ぼうぎょ』 


十時キーの左を押す。


『かいひ』


「「「なんでわかったの!?」」」

「お前らの性格だァッ!!!」


驚愕と怒号。再び!


「ふざけてんじゃねえぞ!?なんだよこの『ぼうぎょ』『かいひ』『ばかにする』の三コマンドは!?最後のに至っては意味わからねえし!?『ちょうはつ』でいいだろそこは!?」

「あ、ごめんなさい。そこはお姉ちゃんが良いの思いつかなかったのてへぺろって言って書いたものです」

「ちょお!?エリーゼ!?」

「もう良い続けるぞ!」


『かいひ』のコマンドを入力した。


『ぶよぶよ』が けんじゅう を撃った。『かいひ』コマンドにより、 こうげき は当たらなかった。

『ぶよぶよ』は どうよう している。


篝は『こうげき』のコマンドを入力した。


『しゅじんこう』の こうげき 


「なんの捻りもないね」

「こんなクソゲーにまともな名前を入力する気なんて起きねえよ」


『ぶよぶよ』 に あたった。

『ぶよぶよ』 は たおれた。


『ま、まさか剣如きに、我が銃がやぶれる、とは・・・がくり!』


「戦闘のテキストと会話のテキストの書き方せめて統一しろよ・・・」

「え、えへへ・・・」

「笑ってごまかしてんじゃねえぞ」


そう言いつつ、篝はコントローラーを操作していた。


『ぼうぎょ』→『かいひ』



『・・・だがこれでは終わらない!』



『かいひ』を選択。


『ぶよぶよ』の さいご の こうげき。


・・・・こうげき は あたらなかった  


「せめてそこは引っ掛かってよ!?」

「ノーコンティニューでクリアしてやるぜ!!!」


AHAHAHAHA!!!という高笑いが部室内に響いた。



そうして一時間―――


「・・・・・・」


篝は酷く憔悴していた。


「なんだこのストーリー・・・最終的なラスボスが魔王なのは良いが、その魔王が実は未来からやってきた親友で、その親友が実は主人公の母親と不倫してて、しかも父親は父親で別の女と子供作ってその子供がヒロインなくせしてなんか道行くモブとそういうことしている描写ばっかだし、さらに主人公も主人公で絶倫?ていうぐらいいろんな女と寝てるし、しかもなんかこっちが知らねえ間に借金積み重なってるってか女と寝るの回避出来ない上にヒロインとは一回もやってねえ上に、なんか魔王の娘とやらとバチギスしてるかと思いきや変なあとつけて二人一緒に帰ってくるし、しかもここにきて世界観ぶち壊しなSF全開なロボット出てくるとかどういう事だこれは!?」


「うん、そこに至るまで一回もゲームオーバーにならなかった君の洞察力も素晴らしいよ・・・」


ラスボス一歩手前、というところまでたどり着いた篝。

ここにいたるまで、千から数えるのをやめたあらゆる死亡フラグとゲームオーバーコマンドを回避し、一回もミスすることなく辿り着いたのである。


「うう、どうして、全部回避されるのぉ・・・」

「だから思惑が見え透いてんだっての。ったく、シナリオとゲームシステム考えたのお前ら姉妹だろ。なんでこれが浮けると思ったんだ・・・」


まさか仕掛けた罠を全回避されるとは思っていなかったのか、涙目となって項垂れるミリーゼ。

そんなミリーゼを無視して篝はラスボス戦に突入した。


・・・・結果。


「ここゲームシステム完全変更!?」


まさかの今までのRPGらしいコマンドシステムから回避アクションシステムへの変更だった。

しかも四角い枠の中にいる点に対して猛攻をしかけてくるタイプ。その攻撃密度はコマンドゲームに慣れてしまった篝には回避出来ない。


「うおいまてこれは流石に初見は―――あ」


GAME OVER


「チクショォォオオオオオオオ!!!」

「やったー!」

「ついに一本とったー!」


ここまでノーミスだった篝が初めてミスしたことで沸き立つ会場。観客はたった六人だが。


「クソ、ここに来て想定外の方向からの初見殺しとは・・・!」

「ここだけ部長の開発だったもんね~」

「ゲームとしては最悪の仕様変更だろこれ・・・」


篝がミスしたのが余程嬉しいのかミリーゼやエリーゼが悦んでいる。非常にムカつく。


「クッソー、ノーデスでクリアしたかった・・・」

「ふっふーん、こっから先は別ゲーだから覚悟しててね」

「あと忘れてただろお前ら」

「ぎくっ」


それから、一時間後。


「これでトドメだぁぁああああああああああああ!!!」


今までのRPGとは別格の難易度に篝、苦戦。


『DAEMON LOAD SLAY』


「っしゃああぁあぁぁああぁああああああああ!!!」

「やったぁあぁああああああああああああああ!!!」


だが、その甲斐あって、魔王に勝利、ついに物語がエンディングへと突入した。


ここで何故、篝とエリーゼが一緒になって盛り上がっているのかと言うと、このステージ、やたらと動体視力と操作精度の要求水準が凄まじく、点を移動して枠外か枠内からの凄まじい頻度と密度の攻撃を回避するだけならまだしも、ほんの少し掠るだけで八割という体力がもっていかれ、突然画面下に叩きつけられたかと思えば横スクロールゲームよろしくジャンプゲームが始まればジャンプの高さの調整がシビアだったり、重力の方向が反転して操作キーの上下左右が全て反転して今までの操作感が全て吹っ飛ぶ始末。

挙句の果てには回復アイテムを使おうとした隙をついて攻撃してきたりとまさしくルール無用というかシステムが許す限りの暴力を叩き込んでくるのだ。

それをシステムが許す限りの力で全て避け、一度しかない攻撃のチャンスを外さないように当てなければならないのだ。しかもその攻撃の当たり判定が凄まじくシビアであり、ボスの身体のどこかにある攻撃可能ポイントを見極めて当てなければならないのだ。

そして外しても当てても再びランダムで繰り出される理不尽攻撃。それを攻撃を外さなかった場合、合計十回繰り返す必要があるのだ。


その為、クリアするまでに軽く百回は殺されている。


無論、こんなゲームをクリアできる奴などいる訳がなく、ミリーゼやエリーゼだってクリアした事などない。

だが、篝の諦めない姿勢と一歩ずつ着実にクリアへと近付いている事実を実感すると、次第に篝を応援し始め、意気投合し、結果、こうしてクリアの喜びを分かち合う事となったのだ。


「誰だこんなゲーム考えた奴!?」

「ごもっともな理不尽!?」


直後にミリーゼの頭に篝の怒りのチョップが叩き込まれるのだが。


「ゲームとしての根底を覆してどうすんだクソゲーなのも納得だわクソがッ!!せめて一貫性もたせろやァ!!!」

「か、簡単にクリアされるのも面白くないかなって・・・」

「お前らにクリアできないのに他の奴らがクリア出来るかァ!?」

「あ、僕ならクリアできるよ」


すっと、ブルーノが手を挙げた。


「わ、私も・・・」


ダンボールの隙間からおそるおそるリザも手を挙げる。

そのなんでもないような彼らの反応に、篝はどこからか取り出した厚紙を幅五センチ程度の幅で交互に折り畳み、片方をテープでぐるぐると巻き、それを持ち手にしてパンパン、と具合を確かめると、


「お前らの基準で作るなバカ!」

「「あいた!?」」


その作ったハリセンで二人の頭を叩いた。


「誰も彼もがお前らレベルでこなせると思うなァ!!!」

「叩いた時よりも迫力がすごい!?」

「で、でも、工夫したり、様々な攻略法が使えて、楽しい、でしょ?」

「一個しかないんだわバリエーション多い割に敵それぞれに使えるパターンは一個しかねえんだわ。大技でオーバーキルとか上手く加減してとか出来ないんだわ。一つだけなんだわ攻略法がッ!それも一歩間違えると即ゲームオーバーになる類の奴ばっかりなんだわ。意図がズレてるんだよこいつらと違って!」

「「え?」」

「どこまで綱渡りさせるつもりだ。ルートどころかコマンド一回ミスるだけで即死するゲームな時点で目指してるものと違う事に気付け!」


と、ここまで怒涛にゲームの感想を吐き出した篝だが、ふと、リザが引きこもったヤドカリの如くダンボールに閉じこもってしまっていた。心なしか、というか見るからにそのダンボールはがたがたと震えていた。


「・・・こもれば良いと思ってんのか!?」

「まさかの追撃!?」

「出てこい引きこもり!人に触れ合わないからそうなるんだまずは俺の目を見て話せ!」

「お、落ち着いてぇ!」

「自覚ねえから質悪いんだろうがァ!!!」


夜闇が深まっていく中、ゲーム同好会の部室はどこまでも騒がしくなる。

その様子を、ベルリアは少し困ったような顔をしたあと、その賑やかさに笑顔で笑った。


『・・・もうめちゃくちゃだよ』


ちゃんちゃん

クソゲーの楽しさはその理不尽さである。

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