アンヌメンシス科学院
―――しばらくして。
「ごめんなさい!」
「すみませんでした!」
「ごめんなひゃい」
「ごめんなさい」
四人の少女からの謝罪を篝は買ってもらったハンバーガーを堪能しながら受けていた。
ブルーノを助けに来たという四人組。
一人は最初に篝に攻撃を仕掛けてきたハンマーの少女。
二人目はその少女と瓜二つの容姿をもった剣の少女。
三人目は勇ましく姿を現したかと思えば舌を噛んでノックアウトした苺色の髪の少女。
そして四人目は、この中で一番幼い印象を受ける黒髪の少女。
「いやぁ誤解が解けたようで何よりなにより」
「まさかブルーノさんを助けてくれていたなんて、なんとお礼を言えばいいのか」
そう謝ってくるのは二人目の剣の少女だった。
「はい!」
そこへ割り込むは一人目、ハンマーの少女。
「なんで女の子になれるの!」
「それは俺も知らん」
その質問はそれで終わった。
「お姉ちゃん、今は関係ないでしょそれは」
「だってだって!女の子になれる男の子なんてシンシュだよシンシュ!」
「人をどこぞの珍獣みたいに言うな」
どうやらかなりお転婆で天然な子らしい。そして妹であろう方はそんな姉を反面教師にしたのか真面目だ。
「リザ、大丈夫?」
「まだいたい・・・」
「あとで保健室行きましょう」
一方、部長と呼ばれていた苺色の髪の少女は未だに噛んだ舌を抑えていた。そうよう食い込んで血まで出ていたので、しばらくは治らないだろう。
そんな少女をブルーノと同じように心配する黒髪の長髪の少女。
(・・・良い髪してんなぁ。でもエレンほどじゃないな)
そんな少女を見て、篝はそう心の中でボヤく。
『君って髪フェチ?』
(ああそうだ。だから話はあとにしてくれ)
頭の中で話しかけてくるアネットの事を一旦棚に置いて、篝は改めて尋ねる。
「それで、お前らは一体どこの誰なんだ?」
篝がそう尋ねた瞬間、いきなりハンマーの少女が得意げに笑い出した。
「よくぞ聞いてくれた!アタシたちはアンヌメンシス科学院にその者ありと謡われる―――」
「あ、お姉ちゃんの戯言は真に受けないでくださいね」
「ってちょー!今からかっこよく決める所だったのに!?」
「だって長いでしょその話」
「そんな事ないよ!?」
「とりあえず一人ずつ自己紹介しろ」
閑話休題。
「こほん、アタシはアンヌメンシス科学院一年生の『ミリーゼ・サブラ』だよ」
「妹の『エリーゼ・サブラ』です」
「さ、三年生の、『リザ・フォート』です・・・」
「二年の『ベルリア・アスカ』です」
「改めて、三年の『ブルーノ』だ。よろしく」
「・・・・」
改めて自己紹介を受けて、篝はしばらくその五人を横から順に見た。
「・・・・ロリータクラブ?」
「ゲーム同好会だよッ!!!」
篝のボケにミリーゼの鋭いツッコミが突き刺さった。
「ゲーム同好会?」
「ええ、まあ。ゲームしたり、ゲーム作ったり、ゲームに関する事ならなんでもやりますよ」
「ちなみにジャンルは?」
「テレビゲームやPCゲーム中心です」
ぷんすかと怒る姉を他所に、妹のエリーゼは篝の質問に快く答えてくれる。
「アンヌメンシスと言えば、科学と発明の原石を育てるってキャッチフレーズで有名な学校だろ。そんなもんまでやってんのか」
「まああまり実績はないんだけどね」
ブルーノは苦笑交じりにそう言う。
「それにしても、篝さんって苗字あるんですね」
「あ?そりゃどういう意味だ?」
「知らないの?普通男は国で管理されてるんだよ?」
さも当たり前のように言うミリーゼに、篝は思わず固まる。
「篝、もしかして君はクローラルの方から来たのかい?」
「ああ・・・なんでだ?」
「あそこは人が去ってるから見つかってない人たちが多いんだね。僕たち『男』は価値の無い存在として扱われてるけど、子供を産むのには必要な存在だからね。だから、殺し過ぎないように管理されているんだよ。奴隷としてね」
ブルーノはそう言って、顎を挙げて見せる。首の喉に当たる部分に、目立つようにQRコードが刺青のように刻印されていた。
「・・・・なるほどな。そのQRコードでいつでも誰のものか分かるってことか」
「あとは体内にあるチップだね。それで位置情報と生死状況を逐一知らせてくれるんだ」
「流石に何かの拍子に死ぬってことは・・・」
「流石に無いよ。僕が知らないだけかもしれないけど」
そう、ブルーノはなんでもないような顔で言うが、篝にはその顔がどうにも気に入らなかった。
「あ、ちなみに、リザが僕のご主人様ってことになるかな」
「あうう・・・」
「・・・あっそう」
篝はいつもの癖で手袋の裾を弄る。
「えーっと、つまり男ってのは国に管理されてるのが普通で、俺のような管理されてねえ奴ってのは今時珍しいってことか?」
「まあこの地域だとね。だから、首の刻印がない男が単独でいると色々と危ないから気を付けてね」
「みたいだな」
今の今までそう言った法律の無い環境で過ごしてきた弊害か、そんな制度があるとは露ほども知らなかった。というか、クルエたちは知っていたのだろうか。
(あとで問い詰めてやる・・・!)
などと謎の決意を固めていると、
「そういえば篝はどうしてアンヌメンシスに来たの?」
と、ミリーゼが尋ねてくる。
「バイクを見にだよ。ジンマックス社の最新モデルが出たからそれを見にな」
「バイクを見る為にわざわざこんな所に来たんですか?」
「悪いか。それにアンヌメンシスには前々から来たかったんだ。ここは身近に来れる科学の最先端だからな」
何故か呆れられている。解せぬ。
「クソッ、ラーズはいないし、金も携帯もスられるし、帰る手段も無いし知らない土地だし何ももってねえし何も出来ない何もない・・・」
「暗っ!?ていうか急転直下で落ち込みすぎ!」
「ま、まあまあ、別に歩いて帰れる距離ではあるから・・・」
「連れがいねえんだよ!大事な大事な相棒がどっかで迷子になってんの!探さねえと帰れないんだよ!」
それは篝の心からの叫びであった。
「連れ?まだいるの?」
「ああ、リンカー・・・ラーズって言ってこれぐらいの女が一人な。かなり目立つ容姿だから、たぶん探せば見つかるだろうが」
「じゃあ探さないとね」
そう言って、ミリーゼが拳を振り上げる。
「篝のご主人様を見つけにいこー!」
「「「おー!」」」
「いや逆なんだがな。ってかいいのかよ。俺なんかに付き合って」
「皇国の言葉で袖振り合うも他生の縁、と言いますから」
と、ベルリアがにこりと篝に微笑んで見せる。
「ここで会ったのも何かの縁。力にならせてください」
「まあ・・・いいか」
篝はため息交じりに苦笑を零す。
「じゃあ頼むぜ」
数時間後―――
「なんでどこにもいねえんだアイツはァ!?」
行ける限りの所を探した。しかし、銀の髪の人形のように美しい少女の事を誰も見てはいなかった。
「嘘だろあいつの容姿で誰の眼にも止まらねえってありえるのか・・・」
「銀髪、ロリっ娘に加えて縦ロールなんて見た目で誰も知らないなんてありえないでしょ・・・」
篝、ミリーゼの二人が全開で打ちひしがれる中、他四人も顔を悩ませていた。
「この見た目で誰も知らないなんて・・・」
そこにあるのはラーズの似顔絵。書いたのはエリーゼだ。
「本当にこの容姿で合ってるのかい?」
「ああ、間違いない。そっくり過ぎてビビったほどだ。ちょっと本人の癖が出過ぎているが」
間違いなくラーズの顔がそこに描かれている訳なのだが、その似顔絵を見せても誰も知らないという。
「クソ、あいつは元々リンカーだから、何かの拍子に構成体が解けて動けなくなったのか?でもあいつの本体ゴライアスだし、動けなくなってるってことは無い筈だが・・・まさかゴライアスで次元潜伏してんのか!?」
「何その設定てんこ盛りの面白そうな話、聞かせて聞かせて!」
「属性重視派かお前は!?」
ミリーゼの勢いをいなしつつ、篝は頭を抱える。ここまで探してラーズのらの字も見かけないのは流石に異常だ。
何かあったとしか言いようがない。
「クソ、せめて誰かと連絡する手段でもあれば・・・」
「あのー」
そこで、ベルリアが声をかけてくる。
「私の携帯、使いますか?」
「・・・・・・・・・」
目からうろこが落ちた。
『何をやっているんだ貴様はァ!?』
「本当にすいません!」
電話越しに、クルエから凄まじい怒号をぶつけられた篝は平伏する以外、やる事が無かった。
『バイクを見に言ったらラーズとはぐれて財布も携帯も盗まれただと!?一体どんな油断をすればそんな事になるんだ!?』
「いや、ほんと、寝不足だったというか、出目が悪かったというか、楽しみ過ぎたというか・・・」
『全く、ここ最近のお前はトラブルばかり持ち出して・・・』
ぐうの音も出ないとはこのことだ。
「なんとか迎えに来てもらう事は・・・」
『そうしてやりたいのはやまやまだが、実はこっちでブラックリンカーが現れてな、すぐにはいけない』
「マジか・・・」
『すまないが、一晩どうにか凌いでくれ。あとの問題はラーズの方だな』
「ラーズは必ず探し出す。それは絶対だ」
『はあ・・・迎えに行ってもその様子じゃ見つかるまで帰れそうにないな・・・』
クルエの呆れるような声で、どういう表情をしているのか手に取るように分かる。伊達に彼女の授業を一年受けてきてはいない。
『アイリスに連絡しておく。彼女の方が自由に動けるからな。あとで補習してやるから、きっちり二人揃って帰ってこい』
「分かった。必ず受けに行く」
『はあ・・・それじゃあ、気を付けて』
その言葉を最後に、クルエとの通話が切れる。
「・・・と言う訳で、どっか泊まれるとこねえか?」
と、篝は早速、ゲーム同好会の面々に尋ねた。というか、彼ら以外に頼れる者たちがいなかった。
「ふっふーん、そ・れ・な・ら」
と、そこで前に出たのはやっぱりミリーゼ。
「私たちの部室に来なよ!」
『さてさて、そろそろボクのことを思い出していただけたかな』
「始めっから忘れてねえから安心しろ」
ミリーゼたちに案内される道中、篝はクロスヘアピンのリンカー『ジャッジアクティブ』こと『アネット・アルチモア』の声に耳を傾けていた。
『全く、本当にとんでもない奴に拾われちゃったよ。いつも通り知識だけ授けるつもりだったのに』
「そりゃあ、身体能力が強化されねえリンカーなんて誰も使わねえだろうよ」
『じゃあさっさと君の相棒とやらを見つけて、ボクをさっさと捨てることだね』
「やめろその言い方、まるで俺が女遊びするクズじゃねえか」
「あのー」
そこで声をかけてくるのはいつの間にか篝のすぐ傍にいたベルリアだった。
「うおぉお!?なんでお前そんな気配ないの!?」
「あ、ごめんなさい、長年の癖で・・・」
「どんな癖だ!?」
今気付いたが、このベルリアという少女、足音が一切出ないように歩いているのだ。
一体、どういう生活をしていればこんな足音無しの生活が出来るのだろうか。
「それで、何か用か?」
「リンカーとお話し出来るんですね?」
「あ?普通は違うのか?」
「言葉を話せるリンカーなんて、私初めて見ました」
『まあ、ブラック化したリンカーなんてほとんどがケダモノだからね。その辺り格が違うんだよ』
「でもお前カテゴリーIとか言ってなかったか?」
『カテゴリーなんて人が決めた物差しのようなものさ。使い方なんて、使い手次第だよ』
「それもそうか」
篝は視線をベルリアの向こう側へと向ける。そこには、アネットであろう女が当たり前のように歩いている。
だが、ベルリアは篝の視線を追っても首を傾げるばかり。アネットの姿は、篝にしか見えていない。
「・・・まあ、今俺が頼れるのはお前だ。これからよろしく頼むぜ」
『ふん、短い付き合いである事を祈るよ』
そうして、辿り着いたのは―――アンヌメンシス科学院の敷地。
「・・・・」
その景色を前に、篝は絶句していた。
そこにあるのは、一つの『基地』のようなものだったからだ。
立ち並ぶは十数階建ての建物が規則正しく立ち並び、あらゆる場所に高い科学力で作られているであろう機械があちらこちらに点在、さらには何機ものロボットがその学園中を駆けずり回っている。
そこにいる生徒たちもまた、その科学力の恩恵を一身に受けて何やら難解な言葉を話し回っている。
しかし―――
「ふっふーん、ここが未来の最先端を学ぶ科学の学園」
「ここで研究しているのは、この先人類が辿り着くまでに百年はかかる未来の科学」
「計算と実験、演算と検証、あらゆる手段によってあらゆる問題の最適解を導くこと。それこそがこの学園の理念」
新たな場所にて、篝は目の当たりにする。自分がいたクローラルとは比べものにならない、科学の学園を。
「ようこそ、アンヌメンシス科学院へ」
そこが、見知らぬ土地であるにも関わらず、篝は―――
「・・・・天国かここは!?」
『何が!?』
―――子供のように目を輝かせていた。
ロボット、それは男の子の夢。




