ジャッジアクティブ
―――即断即決。
「くたばれェ!!!」
開幕、篝は一番前にいた女の顔面を蹴り飛ばした。
「「「な!?」」」
そのまま有無を言わさずすぐ傍の敵を顔面を狙って殴り飛ばす。しかし、どうにも手応えが妙だった。
「あ?」
なんか、ダメージが、少ない。
というより先ほどの蹴りへと移行する為に跳んだ時もどうにも飛距離が足りなかった気がする。
「お、お前!」
そこへスタンバトンに明らかな過剰電流を流して襲い掛かる戦姫がいた。篝は回避に出るがどこか感覚がずれているような感覚を覚えたので、男の時の感覚で回避した。
そして、同じ感覚でその顔面を殴り抜く。
「やっぱり、素の身体能力のままか」
その感触で、篝は確信に至る。身体能力が素のままなのだ。
『正解。全く、ボクはとんでもない奴に出会ったようだね』
「アネット?」
そこで、今篝が使っているリンカーの意思とも言うべき女―――アネット・アルチモアが篝の声をかける。
『君、一体なんなんだ?どうして男なのにリンカーを使えるんだよ』
「そういう体質としか言いようがねえよ」
『まあいいや、助けを求められた以上、手を伸ばすのが人情ってものさ』
アネットはそう言うと、他人には見えない事を良い事に、篝の背後に回る。
『改めて、ボクは『ジャッジアクティブ』。アネット・アルチモアという人間の意思を宿すカテゴリーIのリンカーだ。知らないかもしれないけど、本来リコレクトリンカーはパーソナルリンカーと併用して使うのが基本だけど、どうやら君はリコレクトリンカーと直接繋がって変身するタイプの戦姫みたいだね』
アネットが喋るのを他所に、他の女たちが篝に襲い掛かる。
篝はそれを捌き、躱す。
『さっきの言葉から察するに、他のリンカーだと普通の戦姫と同じように身体能力が上がるのかな?』
「まあな。けど、攻撃が通用するだけありがたい」
一人の戦姫の繰り出したハンマーの一撃を躱し、そのまま回転して側面へと移動すると、鮮やかな手腕でその女を投げ飛ばす。
『Wow、手慣れてるねぇ』
その手腕に感心するアネット。だが、そこへ炸裂する電撃に、篝はすぐさま飛び退く。さらにそこへ打ち込まれる何かが篝の身体を掠め、血を僅かに飛び散らせる。
「づっ!?」
「一体、どういう仕組みなのか知りませんが、貴方はここで確実に、排除しなければならないようね」
二階にいる女が、周囲にある鉄製のものを自身の能力で引き寄せ浮かべていた。
おそらく、電磁力による射出。
「クソッ、あの速さは見えないッ!」
『じゃあ見えるようにしてあげようか?』
「は?」
二階にいる女が、その鉄屑の弾丸を放つ―――その様子が見えた。
(なんだ!?)
突然、周囲の動きが遅くなった気がした。目に映る全ての光景が、スローモーションになり、あらゆる事象がゆっくりと減速する。
だが、同時に篝自身の身体が酷く重くなる―――否、
(思考を加速してんのか!?)
『せいか~い』
鉄屑が放たれる。いわゆるレールガンとして放たれたそれは、弾丸もかくやという勢いで放たれた。
だが、その挙動が見えたのなら、回避は出来る。
「な!?」
「ぶねえ!?」
『威力、速度ともに拳銃と変わんないね』
二階にいる女は、攻撃を躱された事に青筋を立てていた。
「男を庇うロクデナシがっ!」
そう独り言をつぶやく他所で、篝は再び襲い掛かってきていた女一人をある方向に投げる。そこには、離れた場所にいるブルーノに襲い掛かろうとしていた女が一人おり、篝がその女に向かって投げたので、二人もつれるように倒れる。
「おお、すごい、篝って投げキャラなんだね」
「投げキャラって格ゲーかよ」
(というかこいつ、立ち回り上手いな)
今気付いたことだが、ブルーノは篝が戦っている間、自分が人質に取られないように移動を続けていた。追いかけにくいように、尚且つ篝がすぐに手出しできる距離にいられるように、絶妙な位置取りを続けていた。
そういった観察眼でも鍛えてきたのだろうか、とにかくそのお陰で篝は戦いやすかった。
「危なくなったら声出せよ」
「うん!」
「調子に―――」
その時、あの電撃を使う戦姫が余所見をする篝の背後から強襲を駆ける。
「乗るな―――」
「芸がない!」
しかし、篝が繰り出したのは、踵で顎を打ち据える逆サマーソルトであった。
「ごっ・・・!?」
「一芸極めんのもいいが一芸過ぎんのもダメだろ」
顎という急所への一撃は、その意識を刈り取るには十分であり、しかしその一発は、電磁砲の戦姫に攻撃の隙を与える事となる。
「これで、終わりよ」
それが放たれる直前、突如として篝を隠すように鉄骨の上にかぶせるような布が篝を隠した。
(何が!?)
それによって、狙いをつけられなくなる。すぐさまその原因を探し、その布をもっているのが、先ほどまで逃げ回っていた男であると認識した瞬間―――女はキレた。
(男が、私たちに、逆らうな!)
放たれた電磁砲の鉄屑―――だが、ブルーノはその軌道が分かっているかのようにその場からすぐに離れた。よって、その鉄屑は、ブルーノに当たる事は無かった。一発も。
「は?」
(はず、した・・・?わた、しが・・・?)
その衝撃は、きっと理解する事は難しいだろう。だが、絶対の自信を持つ攻撃方法が、圧倒的格下に当たらなかったとあれば、その衝撃は凄まじいものだろう。
(あり、えない・・・私が、外すことなど・・・!)
「ボケっとすんな情けない」
その声が聞こえた時には、延髄に蹴りが叩き込まれていた。
篝たちがいたのは建設途中の建物の中、二階にいた電磁砲の戦姫はその建設途中の二階の足場にいたのだ。そこへ、ブルーノによって視界が遮られた間に篝はパルクールよろしく戦姫の背後に回るように建物を登り、背後を取って延髄蹴りを叩き込んだのだ。
それによって、その戦姫は文字通り地に落ちた。
「後片付けだ!」
「な、なんなのよコイツ!?」
篝が飛び降り、残っている戦姫を叩きにかかる。
(身体能力が素のままな以上、工夫が必要だ)
拳での効果は薄い。ならば、人という体重を支える為に人体の中で最も力のある脚を使う。しかし、ただ振るうだけでは足りない。
篝は地面に着地し、まず正面にいた警棒を持つ戦姫に迫る。それを見て、すぐに迎撃態勢に入って警棒を振り上げるが、懐に入った篝はまず警棒が振り下ろされると同時に背後へと回し、その膝裏を蹴り込んで膝をつかせた後、自らの身体を一回転させ、その側頭部に遠心力をたっぷり加えた蹴りを叩き込んだ。
「ぐが!?」
(やはり蹴りなら威力十分!)
脚力は腕力の3~4倍。その両足で全体重を支えているのだから当然だ。更に戦乙女流の修行で鍛え抜かれた篝の脚であれば、例え素の身体能力だとしても十二分にダメージを与えられる。
ならば戦える。
『・・・ふぅん』
アネットのどこか不満そうな声が聞こえたが、今は戦闘に集中する。
「初めての試みだが、やってみるか」
少し片足を浮かし、両手は額の高さまで上げるような構えを取る。その構えを前に、敵集団は思わずたじろぐ。そんな様子の彼女たちに、篝はにやりと笑みを浮かべる。
「実験台になれ。戦乙女流決闘術―――」
そして繰り出すのは戦乙女流の足技のフルコース。
最初に繰り出すのは力いっぱいの回し蹴り。
『隕刻・流星』
「ぐぼぉ!?」
飛び掛かり気味に勢いのある回転をつけた回し蹴りにより、一人吹っ飛びノックアウト。
続けて、二人目に対しては懐に飛び込む様に潜り込み、足裏で一気にその顎を打ち上げる。
『咲跡・朝顔』
続けて、二人並んでいる所へ素早く移動し、その勢いで片方を蹴り倒し、その横にいる女に回し蹴りを叩き込んで倒す。
「調子に乗るなよ!」
その後ろから、一人、ナイフで襲い掛かるがいとも容易く受け流され、地面に転がされる。
そして、その転がされて仰向けになった顔面を容赦なく踏みつける。
「ぐぼお!?」
『うわあ容赦ない・・・』
「残す方が拙いだろ、次―――」
「どいて!」
篝が次へ行こうとした時、鋭い声と共に、淡い発光と共に一人の戦姫が手を振り上げていた。
(コードスキル、あの構えと色からして―――)
そしてその手を思いっきり地面に叩きつける。それと同時に篝はその場から前へと飛び出した。直後に、地面が盛り上がった。
「やはり物質操作系か!」
「なんで!?」
躱された事に驚く暇も無く、その土のコードスキルを発動した女は篝の蹴りですぐさま沈められた。
ここまで倒されると、流石に残っている連中は思わずたじろぐ。
その隙を見逃さず、篝は駆け出す。
「ひっ」
狙われた女が小さく悲鳴を上げるが、篝は気にせず、蹴りを放つ。だが、突如として割り込んできた巨体の手によって防がれる。
「あ?」
「何一人に好きなようにやらされてんだい」
それは、丸々と太った体形の戦姫だ。篝の蹴りが直撃したのは野太く、力強さを感じさせるその手だった。そして、その女は篝の手を掴むと、勢いよく振り回し始める。
「うおあ!?」
そのまま振り回され、あたり一面を幾度となく叩きつけられる。
「うご!?」
幸いと言って良いのか、戦姫の身体ならば地面に叩きつけられようがコンクリの壁に激突しようがダメージは一切ない。
しかし、振り回されまくれば目を回してしまう。
「吹っ飛びなァ!!!」
それが分かっていて十分に振り回した後、その女は篝を投げ飛ばした。―――投げ飛ばした、筈だった。
「は?」
投げ飛ばす為に掴んだ足を離したと思ったら、逆にその手を掴まれている事に気付く。それによって、篝は吹っ飛ぶことなくとどまっていた。
そのまま地面に着地すると同時に、一呼吸した後、篝はその女の鳩尾に蹴りを叩き込んだ。
『咲跡・桔梗』
続けて、左頬に右足の回し蹴り。
『菖蒲』
それによって、身体が横を向くので、そのまま回って相手の脛に、弧を描くように叩き込む後ろ回し蹴り。
『月見草』
脛を蹴られて、膝が折れる。それでもなお倒れまいと踏ん張るので、今度は飛び上がってその肩に踵落としを叩き込む。
『隕刻・下弦』
隕刻は空中で繰り出す蹴り、咲跡は、地面についた状態で放つ蹴りである。その踵落としによって、その女はとうとう膝をつく。
「デカいのは良い。パワーも十分―――だけど」
続けて、背中を蹴り上げ膝を浮かし、内腿を蹴り、無理矢理立たせる。
「ぐぎっ、ご、の、調子に―――」
そこまで来て、ようやく反撃に出ようとするが、既に篝は止めの態勢に入っていた。
「戦乙女流決闘術『咲跡・―――」
「―――な、ぁ・・・ッ!?」
放つは強烈な後ろ蹴りだ。その一撃で、その巨体が吹っ飛ぶ。
「―――彼岸花』!」
その巨体の女は、蹴り飛ばされた勢いのまま、壁を一つ二つぶち抜いて吹っ飛んでいった。
その惨状を前に、誰もが言葉を失う中、それを成し遂げた本人だけは体についた埃を払い、余裕をもってそこに立つ。
「・・・図体だけでノロマ。その辺り反省しやがれ」
そう吹っ飛ばした女へアドバイスをした後、篝は残った連中へと視線を向ける。
「次だ」
その言葉を聞いた瞬間、彼女たちは脇目も振らずに逃げていった。
「なんだよまだまだ試したい事あったのに」
『いやぁ、自分より強い相手に立ち向かう度胸なんてないでしょあの子たちに』
「それもそうか。にしてもやっぱ足だけだときついな。こだわりがあるならともかく、やっぱ拳も組み入れていかねえとな」
敵がいなくなったので、篝はブルーノの方へと向かう。
「怪我はないか?」
「うん、大丈夫」
ブルーノに特別怪我は見られない。その事に安堵していると、ブルーノが興味深そうに篝を見ていた。
「・・・なんだよ?」
「・・・本当に女になってる」
「あ?ああ、どういう訳かな。俺もこういう事に気付いたの二ヶ月くらい前だ」
そう言って、篝はふと下の方を見る。そんな篝の様子にブルーノは首をかしげ、釣られるように下を見た。
その次の瞬間、篝が飛び上がり、ブルーノの頭上スレスレにボレーキックを放ち、ブルーノの後ろにいた透明化していた女を蹴り飛ばした。
「チャゴス・・・・!?」
「気付いてねえとでも思ったか馬鹿が」
ブルーノは唖然としたままその透明化していた女が吹っ飛んでいく姿を眺めた。
「あ、ありがとう・・・」
「いきなりで悪かったな」
今度こそ、終わった事を確認してリンカーを解除しようとした。ところで―――
「―――ブルーノ君から離れろぉ!」
「は?」
「え!?」
建物の二階から何やら小柄な影が飛び出してきた。
その手には、何やらピンクっぽい配色の四角いハンマーが握られていた。
「ええい!」
「せい」
「え?」
そのまま落下、ハンマーを振り下ろされたので、篝はとりあえず落ちてきた女の子を、ハンマーの勢いと共にその場で回転させ、地面に着地させた。
「・・・・あれ?」
困惑する少女の頭に、篝はぽん、と手を置いた。
「で?こいつお前の知り合いか?」
「え、ああ、うん、僕の後輩」
「・・・は!」
我に返った少女は、すぐさま篝の手を振り払うと、そのハンマーを篝に向けて可愛らしく威嚇してくる。
明るい杏色の髪に少女らしい顔立ちの小柄な少女だ。全体的にピンクの配色が目立つ装束を着ており、それの色合いもまた可愛らしさを強調している。
「ぶ、ブルーノ君には手出しさせないんだから!」
そんな少女に対して、篝は困ったように頭を掻く。
「動かないでください」
しかしその背後から突きつけられる尖ったものの感触に篝は動きを止める。
「貴方は包囲されています。下手な事はしないでください」
そう脅してくるのは、どこか目の前の少女と似ている声。しかし、そんな状況にあっても篝は焦った様子は無く、しかし刺激しないよう下手な動きはせず、
「あと二人いるだろ」
と、指摘してみせた。
その言葉に、目の前の少女は―――
「べ、べつに、四人じゃないヨ?た、たっくさんいるんだモンネ!キミは、完全に包囲されているんだヨ!」
「お姉ちゃん、バレバレだよ」
「嘘下手かよ」
ものすごく目を泳がせていた。
そんな彼女の様子に、篝は呆れる他無く、しかし建物の二階にある気配に動きがある事に気付き、そちらに視線を向ける。
そこにいるのは、どこかおどおどとした気弱な印象を受ける、苺色の髪の少女であった。
しかし、その膝はがたがたに震えており、というか全身ががたがたしており、貧血なのか血色の足りない肌は更に青褪め、今すぐにでもぶっ倒れてしまいそうなほど体調が悪そうに見えた。
だが、その小柄ながらも震える体を奮い立たせているのか、きっと篝を睨みつけ、叫ぶ。
「ぶ、ブルーノくんはわたさなびっ(ガリッ」
「「「あ」」」
今、ものすごく鳴ってはならない音が聞こえた気がした。
「~~~~~~~っ!!!?!?」
「ぶ、部長―――!!」
「だ、大丈夫ですか!?」
「思いっきり舌噛んだだろ・・・」
「だ、大丈夫かいリザ!?」
もう色々と台無しであり、篝の事など忘れて、三人がすぐさまあの苺色の髪の少女の元へと駆け寄っていく。
「やれやれ・・・」
『アハハ、面白い子たちだね』
「もう、リズもみんなも何やっているんですか」
「全くだ」
・・・・・・・・
「うおぉ!?誰だお前!?」
何故かすぐ傍にいた黒髪の挑発の少女。小柄ながらも足元まで届きそうな黒の挑発と、透き通るような青色の瞳を持つその少女は、驚く篝を見て、にこりと笑った。
「こんにちは」
どこか、儚さを感じる少女の笑顔に、篝はひきつった笑みを引っ込められなかった。
(と、とりあえず、終わったってことでいい、のか・・・?)
篝は、そう願わずにはいられなかった。
新たな土地、新たな出会い、新たな力。




