ひと段落
―――廃墟の街から脱出してからしばらく後。
篝たちはオードリーを呼び出して回収した戦利品を鑑定してもらっていた
「ほうほうほほーう。これはまた上物ばっかり。しかも今回は破損無しな上にブラック化してないときた。これならかなりの高値で売れるよ」
「本当ですか!」
オードリーの言葉にロロは無邪気にはしゃぐ。
「だったら一部設備の修繕に使いたい。あとでリストを纏めて渡すから、揃えてくれないか?」
「お安い御用だよ」
クルエの提案に快く頷くオードリー。元々あまり稼げて無かったことに加えて老朽化でところどころにガタが来てしまっている。その為、月に何度か見回りをして修繕箇所を見つけてはなけなしの資金で修繕していたのだが、ここに来てこの収入。ありがたい事この上無い。
「今夜はご馳走ですね」
「焼肉にでも行く?」
この大金を前に、一同が浮かれる中、篝だけは浮かない顔で何か考え事をしていた。
「篝さん、どうかしましたか?」
それに気付いたラーズが篝に声をかける。それに対して、篝は大きな反応を示すことなく話し始める。
「結局、革星機関はリブラを起動させるだけしてそれ以上何をするでもなく消えちまいやがった。委員長からの連絡であのクソッたれは逃げたって言うし、奴らが一体何をしたかったのか気になってな」
「そんな気にすることか?」
その篝の言葉を、ラーズの反対側で聞いていたユウゴがそう反応する。だが、篝はそのユウゴの反応に首を振った。
「リブラを起動する事で何か利点があった筈だ。それが分かんなくてもやもやしてんだよ」
「今考えても仕方ないことだろ?」
「このクローラルがとんでもない事になるかもしれないだろ。ただでさえ男街だとかの隠れやすい所が多いんだ。下手な理由で外の女連中に突撃されたらたまったもんじゃないだろ」
そんな篝たちの会話を聞いていたのか、クルエが諭すように声をかけてくる。
「お前の心配ごとも分かる。だが、私たちに出来る事も限られている。今は奴らの企みを阻止できたことを喜ぼう」
「・・・・それもそうだな」
篝は聞き分け良く頷いた。ステラもまた同意するようにうなずいていた。
「うんうん、聞き分けよくて先輩は嬉しいよぉ。だから私のこともちゃんとしっかり先輩って呼んでくれると嬉しいなぁ、と」
「そう呼ばれたきゃもっと真面目に働け」
「酷ぉい」
「お前は先達を敬え」
などと騒ぎ出す篝たちの様子に、他の者たちは笑みを浮かべる。
「さてさて、査定も済んだことだし、あとはこれをどうさばくか考えないとね」
「そう言えば、無傷のリンカーはどうやって売買しているんですか?リコレクトリンカーは基本的にリンカー管理局で管理されている筈ですが・・・」
「簡単だよ。闇オークションで売り払うんだ」
「まあ、エキストラである以上、どっか知らねえ犯罪者どもの戦力増強に加担するか」
「なんかいやねそれ・・・」
ノリアの質問に快く答えたオードリーの返答に、ユウゴやセラがげんなりとする。
実際、無傷のリコレクトリンカーの取引など犯罪まっしぐらの所業。壊れているならまだしも使用も可能でしかも使い手も選ぶために、武器というよりコレクション性が強い。
だから世界各国あらゆるコレクターが探し求める事が多い。が、同時にリコレクトリンカーの能力によってはただの戦姫が一騎当千の力を得ることもある。何しろ、リコレクトリンカーを使う最大の利点はコードスキルとリコレクトスキルを同時に使えることだ。だから世界中のあらゆる戦姫たちが自分に見合ったリンカーを探し求めている。
「別にどうでもいいだろ」
そんな話の中で椅子に座った篝は頭の後ろに手を組んでそうぼやく。
「よくないですよ。もし強力なリンカーをもった人と出くわしたらどうするんですか?」
「その時は倒すか逃げるかの二択だろ。どうせこんな家業してるんだ。そう言った奴とぶつかるのは当たり前。だったら、倒していくか逃げて勝つかのどっちかだろ」
「いや倒すのはともかく逃げて勝つってどういう事だよ?」
「横取り漁夫の利逃げるが勝ち」
「恨み買うだろそれ!?」
「勝てるように強くなればいい。負けても逃げても、生きてりゃいつか勝てるからさ」
篝が傍に立つラーズの頭に手を置く。
「わっ」
「一人じゃねえんだ。だったらどこまでも強くなれるさ。そうだろ、相棒」
「っ!はい、もちろんです!」
その答えに、その場にいる一同が頷く。
そして篝は、そう言う言葉とは裏腹にその脳裏に思い浮かべる。
(革星機関・・・そしてスカー。その名前は覚えた。これから先、機会があれば必ずその息の根を止める・・・必ずだ)
決意を胸に拳を握り締める。母の仇を見据えて。
「・・・そういえば」
そこでふと、思い出したようにロロが呟く。
「篝先輩の髪、どうして伸びたんでしょうか?」
それは、オードリー以外の全ての者が思った疑問だった。
「知らん」
そして答えを持っている筈の男は、そう断言した。
「まあ普通に考えて篝のコードスキルの影響だろう。髪が伸びるだけじゃ、まだなんとも言えないが」
コードスキルにも種類がある。
『身体強化型』『物質生成型』『地形操作型』など多岐に渡る。
セラの『狂化』は『身体強化型』、クルエの『鎖』は『物質生成型』、ノリアは『現象発生型』、そしてステラは『環境操作型』である。
細かく分類するときりがないので、『強化型』『現象型』『生成型』『変身型』『概念型』と大まかに分類されている。
篝の変化を見る限り、『強化型』か『変身型』のどちらかだろうが、未だに能力の全容は把握できていない。分かっていることと言えば、洗脳などの精神攻撃に対する耐性ぐらいなものだ。
何しろ、篝自身が、一度もコードスキルを使ったことすらないから分からないのだ。
(だが一番気になるのは篝のエーテルの色・・・本来、篝のエーテルの色は『金色』じゃなく『水色』だ)
その辺りもまた気になるところだが、クルエはその事実は一旦棚に上げる事にした。
「まあ一ヶ月前に初めて戦姫になれるってわかったばっかりだからな。分からないのも無理はない」
「へえ、コードスキルかぁ。確かに普通の戦姫なら、五歳からリンカーを貰って最初に教育されるのがコードスキルの制御方法だからね。大体は親のコードスキルから推測可能だけれど、彼の親はわからないから分かりようがないか」
「コードスキルの基本的な制御も親から教えられることがほとんどだ。その上で教師が本人の希望に従って伸ばす。まだまださわりの部分だが、篝自身のコードスキルとラーズの能力を組み合わせれば、更に強い力に開花するだろう。アイリスにその辺りの指導を徹底してもらうと良い」
「言われんでもそうする」
革星機関は強大な組織だ。それに対抗する為にはやはり強くなるしかない。ならば、より一層鍛錬に打ち込まなければならない。
「課題は山積みだな」
「一つずつ片付けていきましょう。ラーズも手伝いますから」
曖昧だった敵の姿が見えてくる。しかし、まだ手の届く場所にはいない。だから少しずつ積み上げて、届く場所まで迫っていく。
焦る必要はない。七年前より肉体は強靭になった。戦い方を教わった。生きていく為の知識を習った。未だ、スタートラインから走り出したばかりだけれど、篝は自分が進んでいる事を確信している。
その心の奥に怒りの炎を滾らせながら、篝は立ちあがる。
「アイリスの所に行ってくる―――もっと、強くなりたい」
普遍的で、平凡で、当たり前な願いを口にしながら。
風が吹いている。
人気のない森の中で、アイリスは一人、小岩に腰をかけて空を見上げていた。
「・・・そろそろ五つ目の奥義も解禁時ね」
現実離れした美貌は、例え無表情であってもその美しさを損なわれる事はない。しかし、その表情は曇りがかった空模様のような雰囲気を醸し出していた。
「・・・ねえ、あなたは今、どこにいるの?」
それは一体、誰に向けての言葉か。それを知るものは、本人以外、いないだろう。
「・・・会いたいわ、灯」
次回、新章突入!




