天秤 起動
―――篝たちがスカーを相手取っている間に、ステラたちは野球場へと足を踏み入れていた。
ゲニウスがゲートのフェンスをぶち破って入ったそこは、本来であれば開閉機能があった筈の天井は既に朽ちてなくなっており、昼間の陽光が絶え間なく差し込んでいる。
その中央に、ジュラルミンケースが一つ。
『あれか!?』
「だが、あのケースだけか?」
クルエが思わず眉をひそめる。
この廃墟の街の入口にいた誘拐された人質たち以外にもかなりの数の人質がいた筈だ。それなのに、そこにあるのはケース一つのみ。
これは一体どういう事なのだろうか―――。
と、思った瞬間、グラウンド中に突如として数多の怪物たちが出現する。
「なんだ!?」
「こいつら、全部ブラックリンカーだよ」
ステラが天井窓から身を乗り出す。そこに出現したのは、エーテルで肉体を構成しているブラックリンカーだった。
『なんでこんな大量に・・・』
「考えてる暇はないよ。こいつら、あのケースを守るように陣取ってる」
「誰かに操られているのか!?」
「そう考えるのが妥当だね」
ロロ以外の全員が車を降りる。ユウゴの操るゲニウスもまた、その鋼鉄の手で拳を作り構える。
「あの、皆さん!」
臨戦態勢に入った全員に、ロロが車内から声をかける。
「あのケース、既に高密度のエーテルを内包しています!」
「どういうこと?」
「誘拐されていた人たちにつけられていた首輪は、エーテルを吸い取って別の場所へ送る機能があったようなんです。何かしらのコードスキルで見えないチューブのようなものとあのケースが繋がっていて、一方的にエーテルが流れ込むようになっています!」
「そんな、あの距離で・・・!?」
「もちろん射程距離があります。あそこにいた人たちの首輪では分かりませんでしたが、ここの地下にあの首輪と同じ反応がたくさんあって、あのケースは遠隔で内部のエーテル状況を感知するセンサーが内臓されているんです!」
「それが分かるだけでも上場だ」
クルエが鎖を創り出す。
「ここにいる奴らを蹴散らして、あれの起動を止めるぞ!」
その言葉に応じて、全員が武器を構えた。
「―――序曲は成った」
―――そこに、あの眼帯の少女はいた。
「踊れ、傀儡よ。回れ、運命よ。我らは奴隷。運命に翻弄されるしかない人形」
その指揮棒を振るい、今、この廃墟の街全体で暴れ回るブラックリンカーの怪物たちを呼び起こし、導く。
「さあ、あとは天秤の傾くままに―――」
「ガアアアアアアアアッ!!!」
セラがその拳を力任せに振り下ろす。スカーがそれを紙一重で躱し、セラの胴体に回し蹴りを叩き込む。
「グウ!?」
蹴飛ばされたセラ。その吹っ飛んだ先に回り込んだ篝が彼女を受け止める。
「ウゥウアアァア!!!」
その状態でセラが地面に足をつけると、即座に篝を持ち上げ、スカーへと投げ飛ばす。
「隙だらけだ」
対してスカーはカードを砲弾となった篝の進路上にばら撒く。
「止められるとでも?」
対して篝が取り出したのは盾。ラーズの能力で作り出した事前に用意しておいた自作の盾である。
その盾で、カードの爆発から身を守り、そのまま突進する。
しかしスカーはそれを回避、篝はそのまま通り過ぎてしまう。だが、今度はポールを作り出しては地面に突き刺し、そのまま回転して再びスカーへと突撃。
「なっ」
その勢いでスカーに両足蹴りを叩き込み、吹っ飛ばす。
「ウガァアアアアア!!!」
その吹っ飛んだスカーへ向かってセラが反対側から強襲。だがスカーは身を捻って紙一重でセラの攻撃を回避し、壁にどうにか着地してみせる。
一方、攻撃が空振ったセラは篝がバレーのレシーブの要領で足場となる事で受け止められ、そのまま弾かれるように再びスカーを追撃する。
だが、その道中にはスカーがばら撒いたあの爆発するカードがある。だが、セラは直撃せずに炸裂するそれらを凄まじいフットワークで回避し、スカーに一気に襲い掛かる。
対して、スカーの笑みは崩れず。むしろ一層深い笑みとなり、その人差し指と中指の間にカードを挟んでいた。
「ッ!?」
それに気付いたセラだが、構わず拳を振り抜く。そして返ってきたのは固い金属音。
(ザンゲキッ!)
エーテルを拳に集中させていたため、ダメージは無い。しかし、遠距離でしか使えないと思っていたカードが、このような使い方が出来るとなると、接近戦でも油断は出来ない。
それでも、セラは進撃を敢行。スカーも迎撃に入る。
凄まじい攻防によって舞い上がる粉塵。激しく攻撃を繰り出すセラに対して、スカーはいなしながら隙を見て反撃を繰り出す。
しかし、対人戦闘に慣れているであろうスカーに対して、まだ学生であるセラでは劣勢に立たされるのが道理。
それを支えるのが、ゴライアスと共に移動するラーズである。
ラーズは常にセラとスカーの攻撃がぎりぎり当たらない絶妙な距離を保ちつつ、スカーから繰り出されるセラへと直撃する攻撃を常にラーズが複製の能力で作ったエーテル障壁で防ぎ続ける。
それによって、辛うじてセラへの攻撃のダメージをカットしている。だが、
(そのやり方は、主人のエーテルラインに大きく負荷をかけることだろう)
戦姫は戦闘にエーテルを使えば、心臓の鼓動が加速するようにエーテルライン内をエーテルが加速する。
それが個人ごとの限界値を超えるとエーテルラインの痕が光の線となって体に浮き上がる現象がオーバーヒート。この状態になると、エーテル切れの時とは違った疲労感が出てくる。
「ぐっ・・・」
既に、篝の身体に光の線が浮きあがり始めている。細かい連続した能力の使用と戦闘によるエーテルの回転によって、必要以上の負荷が篝のエーテルラインに走っているのだ。
(クソっ、スキルを使い慣れてないし、他のリンカーがどれほどのもんか知らねえから基準が分からないんだが、ラーズのスキル、燃費悪すぎだろっ・・・!)
そもそも、無から有を生み出すラーズの『複製』はある意味規格外だ。だからエーテルも多く消費するし循環も加速している。
(エーテルラインが加速する条件は、コードスキルを必要以上の出力で発動させること。全力疾走するのと同じで、ライン内のエーテル流が加速して、ライン自体が熱を持ち始める。こうなると、熱中症に近い症状が出てくる。早々にケリをつけねえと―――)
その時、スカーの蹴りがセラの脇腹に直撃する。
「グッ!?」
「あ!?」
ミス、というより、ラーズでも対応できないほどにスカーの攻撃が鋭くなっていく。こうなるとセラも防御に回らざるを得ない。徐々に完封されてしまう。
「セラ、飛べ!」
対して篝が飛ばすのは逃げの一手。辛うじて理性の残るセラは思いっきり背後へ飛んだ。
「逃げるのか?」
「ウルサイ!」
スカーの挑発も聞かず、セラは辛うじて距離を取る。そしてスカーの背後から篝が殴りかかる。
スカーはすぐさま振り替えってカードをばらまき、至近距離で炸裂させる。
既にスカーのすぐ傍まで近付いていた篝は、まさかの距離で爆発を喰らう。
だが―――
「だろうな!」
篝は構わず拳を振り抜き、スカーのどてっ腹にアッパー気味に拳を打ち込む。
「ハハハッ!イかれているなぁ!」
「黙れイカれポンチ!」
今度は篝がスカーと殴り合う。セラの時とは違って大きく動くことなく、激しく攻防を繰り返す。
その間に、スカーから距離を取ったセラはその場に蹲っていた。そこへラーズが駆け寄る。
「大丈夫ですか!?」
「ハア・・・ハア・・・だイじょウ・・・ブ・・・」
自身のコードスキルをゆっくりと解除しているセラは、ラーズに向かってそう言う。
「クソ、なんなのよあいつ・・・!」
狂化していても攻めきれないどころか反撃されて完封される始末。その戦闘力の高さにセラは舌を巻く。
それと同時に、そんなスカーとまともに殴り合えている篝の事もまた、セラは羨まし気に見ている。
「がふっ!?」
「ぐおっ!?」
スカーの攻撃が当たると、篝の攻撃もまた同時に当たる。
「篝さん・・・・!?」
その戦い方に、ラーズは驚く。
「どうして避けないんですか・・・!?」
「避けたら当たらないでしょ・・・」
「え・・・?」
セラは、篝の意図とその覚悟を理解していた。
「相手は犯罪組織の一員、それも幹部。こっちは零細事務所の一職員でしかも学生。だったら戦闘経験はあちらの方が遥かに上。だったらこっちは、捨て身の覚悟で挑むしかない。私じゃ出来ない。でも、あいつなら、その力量差を気持ちで埋められる・・・」
攻撃を貰う覚悟で攻める篝の姿から、確実相手を仕留めるという気概が感じられる。
何かを成し遂げられる力と、揺るがない覚悟を持っている彼女を、セラは羨ましく思う。
「遠い・・・」
悔しくてたまらない思いの中、セラはそれだけを零した。
一方、篝と凄まじい殴り合いを繰り広げているスカーはと言うと。
(おかしいだろう)
篝の仕掛けている絡繰りに舌を巻いていた。
(もう何度も致命打となる攻撃を加えているのに、一向に攻撃が衰えていく気配がない)
鳩尾を打った。頬を殴り返される。
脇を叩いた。脇腹を抉り返される。
肝臓を蹴った。その足に肘を叩き込まれる。
明らかに急所を叩いているのに効果がまるで見られない。
(爆発も何度か直撃している筈、エーテルを集中させて防いだか?)
などと考えているが、どうにも違和感がスカーの思考を侵食していく。
(攻撃を貰う覚悟で攻撃してくるのは良い。だが、こうまでダメージが見られないのはおかしい)
ダメージは同程度貰っている。それなのに、確実にこちらのダメージが深いと思ってしまう。
一体、どんな絡繰りを以て、ダメージを軽減しているのか。
スカーは、興味を持って踏み込んだ攻撃を繰り出した。
飛び上がっての回転を加えたボレーキックだ。こめかみを狙ったその一撃は、吸い込まれるように篝の側頭部へと向かっていく。
だが、篝の表情は―――笑った。
「―――っ!?」
戦乙女流決闘術『流』
相手の攻撃の方向を曲げてしまう柔の技。それを以て、スカーの蹴りの威力は捻じ曲げられ、態勢を崩して無防備な状態になる。
(誘われたか)
天井を向く事となったスカーの視界。そこには拳を振りかぶるゴライアスの姿があった。
『命令受諾 鉄拳制裁 実行』
「ギガナックル!」
ラーズが手を振り下ろすと同時に、ゴライアスの剛腕がスカーに向かって振り下ろされた。
凄まじいまでに粉塵が舞い上がり、辺り一面の視界を潰す。
「やった・・・!」
その様子を見て、セラはそう呟く。だが、ラーズの表情は優れない。
(篝さんが、手を離した・・・?)
スカーは、篝が『流』を使ったことによって無防備な状態にあるだけじゃなく、篝に足を持たれてすぐさまその場からは逃げられない状態にあった。
だが、攻撃が直撃する直前、篝がスカーの足を慌てて離したのを、ラーズはゴライアスを通してみていた。
それが証拠か、どこからともなく拍手が響く。音は、二階から聞こえてきた。そこにスカーがピンピンして立っていた。
「よもや俺相手にここまでついてくるとは、流石としか言いようがないな」
「クソが・・・」
粉塵が晴れた場所に立っている篝、そのスカーを掴んでいた左手は、どういう訳か血塗れになっていた。
「篝さん!?」
「何かが弾けた・・・コードスキルか・・・!」
「ネタバレはまだ無しだ。一つの楽しみにとっておいてくれ」
(クソっ、ここまでやってようやっと使わせるまでか・・・)
そもそも、戦姫の戦い方は基本的にコードスキルが中心。だが一方で、戦闘では何の役にも立たないものやタネが割れると対策されやすい能力も存在する為、その場合は逆にここぞという時やあえて誤認させるような使い方をすることもある。
スカーが取っているのは後者。この場合、警戒するべきはコードスキルの正体。
(戦闘には使えない能力ならそれでいい。だがもし、窮地に立たされた時に逆転できる能力なら・・・)
その可能性は篝の手で既に示されている。
「俺の能力を探っているのか?」
「教えてくれてもいいんだぜ?」
「そう逸るな。まだまだ楽しい時間を過ごそうじゃないか」
「悪いが、急用があるんでね。お前のような無理難題押し付けてくる大人の相手をしている暇はないんだ」
「おいおい、確かに俺は悪者だが、そんな言い方は―――」
そこで、ふとスカーの言葉が途切れる。
直後、スカーが爆発した。
「ぐぅっ!?」
正確には、スカーの腰―――武器に使っているカードが入っているホルダーからだった。
「手癖は悪い方でな。さっき仕込ませてもらった」
攻撃を貰う覚悟で攻撃をしている最中、篝は複製したスカーのカードを、スカーがカードを取り出しているホルダーに仕込んだのだ。
「ぐっ・・・使い方をどうやって・・・」
「昨日散々見せてくれたからな。一見、ただのトランプカードだが、表面には二重のダイヤル陣が仕込まれていて、内側のダイヤルは爆撃と斬撃、盾の選択、外側は起爆時間、斬撃の射程、盾のサイズを変更できる。実際、術式がどれだけ難しいものかわかっちゃいないが、一種のコードスキルとしても誤魔化しが利くレベルだろ」
その篝の解説を聞いて、スカーはより一層笑みを浮かべる。
「素晴らしい・・・俺の術式をそこまで解析していたとは・・・やはりお前への興味は尽きないよ」
「失せろスカポンタン。二度と俺の前に―――」
この時点で、スカーは篝へと注意を引かれていた。
術式の看破、それを利用した罠、そしてそれらを実行する胆力。そして存在感。それら全てがスカーが彼を無視できず、そして他の興味が失せる要因を作る。
それによって生じた隙は、スカーの不意を突くには十分。
セラは既に天井にいる。
「―――姿を見せんじゃねえ」
その篝の言葉が終わる前に、セラの天井からの一撃がスカーを襲う。
―――だが、スカーはそれを躱した。
「「「ッ!?」」」
それに篝、セラ、ラーズの三人は目を見開いた。
セラの拳が地面に直撃する寸前でセラの首を掴んで持ち上げてみせる。
「そろそろ、お前には退場してもらおう。コバエは飛んでいるだけで目障りだからな」
「待て!」
ラーズが駆け出し、それにゴライアスが追従する。だが、スカーの手が閃いたように掻き消えたかと思えば、爆撃がラーズとゴライアスに襲い掛かる。
「きゃぁああああ!?」
「ラーズ!」
形成がひっくり返される。
「篝、俺たちと共に行こう。お前の力は、やはり俺たち革星機関の下で振るわれるべきだ」
(クソがッ、セラのあれ避けれんのかよッ)
「その表情を見るに万策尽きたんだろう。俺を相手に子供の身で良く戦った。恥じる事はない」
(ラーズはまだ動けるか、だがスカーはもう警戒を乱さない)
「だが、先を目指すならやはり俺たちと行くべきだ。お前はこれから、世界を変える存在になる。俺たちがその手助けをしてやる」
(今の俺じゃあ、奥義を確実に当てられるとは思えない。レッドフードは既に見せた。ならばあえて同じ手を使うか?確実に崩すのが前提だが)
「俺の手を取れ。お前が復讐を成したいというのなら、その標的も教えてやろう。お前の行く道筋を、俺たちが教えてやる」
(だがコードスキルを見せてねえ野郎に、手の内の割れてる手札をもう一度使うのは悪手だ。どうする。他の奥義で仕留められるか、もしくはコードスキルを引っ張り出せるか)
「さあ、俺たちと共に来い、篝」
スカーが、片手でセラの首を締め上げながら、もう片方の手を篝へと向ける。
対して篝は、苦虫を噛み潰した表情でスカーを睨みつけらながら、頭でもう一度組み立てた作戦でスカーに挑もうと構える。
だが、その時、篝の視界にきらりと光が目に入った。目をしかめて、光が飛んできた方を見ると、そこにはラーズの姿があった。ラーズは、篝に向かって、硝子の破片を使って篝へと光を送っていた。
それを見て、篝は―――ふっと体の力を抜いた。
その行為に、スカーは首を傾げた。
そしてセラを掴み上げる手に鞭が巻き付く。
「な・・・」
次の瞬間、スカーは壁に叩きつけられ、続けて紫色の炎の手がスカーを掴んで拘束する。
「ぐっ、これは・・・!?」
「革星機関幹部『スカー』、器物破損、傷害、殺人、その他諸々の容疑で逮捕する」
「観念して」
ドーベルマンガーダーのリーダーである鞭を使う女と、秩序委員会委員長シン。その二人が、どういう訳かこの場に来ていた。
「まさか、俺との戦闘があくまで時間稼ぎだったとはな・・・」
「仕留めるつもりじゃなきゃお前留まらないだろ。悪いが昨日の戦闘で彼我の戦力差は理解してる。だから、お前を仕留められる奴に、お前を仕留めてもらう事にした」
今朝の時点で、軽く情報は流していた。自分がスカーを足止めするから、逃げられる前に来てほしい、と。
その言葉を信じてくれたかどうかは分からないが、シンはやってきてくれた。
つまり、シンを信じた篝の博打が成功したという事である。
(ただ警察の方も来てくれるとは思わなかったがな・・・)
と、ドーベルマンガーダーのリーダーの方を向いた時、視線が合ってしまう。
「・・・何やら乗せられたようで釈然としないが、悪名高い革星機関のメンバー、それも幹部を捕えられた。今はそれで良しとするが、違法であるエキストラである以上、貴様らも覚悟しておけ。子供だろうと容赦はしない」
リーダーの女は、極めて厳しくいくスタンスでスカーへと視線を戻して、篝たちに向かってそう警告する。
(はは・・・この足で逃げれっかな・・・)
篝は激しく咳き込んでいるセラの方を見る。首に少し痣が出来ているが、命に別状はなさそうだ。
ラーズの方も、シンたちが来た時点で次元潜伏で姿を隠している。まず見つかる事はないだろう。
(とりあえず、スカーに関してはこれで一安心。あとは―――)
「ドーベルマンガーダーの『クラリス・ウォッチ』、秩序委員会の『シン・イルタジオ』、か・・・俺は悲しいよ。まさか、お前が先に頼るのがこいつらだったとはな」
ふと、スカーは拘束された状態でそのようにぼやく。
(こいつ、なんでまだ余裕を・・・)
「喋らないで」
シンが威嚇のつもりで炎の手の力を強めた。
「理不尽な法に従うしかない無能な警察と、自分こそがルールだと勘違いしている憐れな子供・・・随分と酷い人選をするじゃないか」
「おい、こいつの首一回絞めて落とした方がいいんじゃないか?一言一言が癪に障るんだが」
「私に言うな」
いきなり話を振られて困惑するドーベルマンガーダーの女、クラリス。一方、スカーは本気で傷ついたような表情で話し続ける。
「おいおい、せめて話ぐらいは」
「うるせえええええ!!!」
いきなり篝が怒鳴り出す。
「今お前の話を聞いてる余裕はねえんだ!リブラどうにかしねえといけねえんだよ!お前らが仕掛けたクソみたいな計画ぶっ壊さなきゃいけねえんだ!だから無駄話に付き合ってる暇はない!」
「お前の仇を教えると言ったら?」
スカーが切ってきた札はそれだった。
篝が今、最も求めてやまない人物。篝の育ての親を殺し、今ものうのうと生きている人物が革星機関にいる。
その正体を、スカーは教えると言っているのだ。
「誰なんだ?」
篝はあっさり食いついた。
「俺たちと一緒に来るって言うんなら、教えて・・・」
「じゃあこの話は終わりだ。じゃな」
「おい」
そしてあっさり諦めて去っていく。
「少しは俺の話を聞いてもいいんじゃいか?」
「・・・・・・はあ」
なおも食いついてくるスカーに、篝は盛大に溜息を吐いた。
「昨日言わなかったか。お前はもう用済みだってな」
「冗談かと思ってたが・・・」
「いると分かるだけで十分。幹部一人から情報一つ。それだけで値千金、あとの情報はこってり絞られてくれ。俺はいらねえ」
「昨日のお前からは執念を感じたんだがな?」
「よし時間の無駄だな。行くぞセラ」
篝はもうそれ以上聞くつもりはないと、さっさと背を向けて去っていく。
「いいの・・・?」
そんな篝に、セラは訝し気に尋ねるが、篝は首を振って走り出す。
「いいんだよ」
そのまま篝たちは走り去っていく。
「やれやれ、振られてしまったな」
「貴様は自分の心配でもしたらどうだ?」
クラリスがスカーへと詰め寄る。
「これからたっぷりと革星機関の事を吐いてもらう」
そのクラリスの言葉に、スカーがくっくっく、と笑い声を漏らす。
それに、クラリスとシンの二人は首を傾げる。
「何が可笑しい?」
「おっと、これはすまない。残念だがお前たちに組織の事を喋る事は出来そうになくてな」
「なんだと?」
スカーは、余裕を乱す事のない表情のまま、二人に視線を向ける。
「もう、リブラの起動準備は済んでいるからな」
廊下を走り抜け、次元潜伏から抜けてきたラーズと共に、篝とセラは先に向かったステラたちの元へと向かう。
「それにしてもなんなのあいつ!?なんであんな奴がいんのよ!」
「腐っても組織の幹部だ。相手になっただけ幸運だったと思え」
「ラーズたちだけで、カテゴリーIVリンカーの相手が務まりますでしょうか?」
「やるっきゃないんだ。それに今ここにはドーベルマンガーダーに秩序委員会もいる。被害を抑えれば増援も来るだろ。むしろそうなってくれた方がありがたい。混乱に乗じて逃げられるからな」
「どこまでも最低ね」
「俺たちエキストラだぞ?」
なんて軽口を叩きながら、道を間違えたか観客席へと向かう階段を駆け上がる篝たち。
しかしその最中で、突然、息が詰まりそうになる圧迫感が通り過ぎるのを感じ取った。
「「「!?」」」
エーテルだ。それもかなり高密度のもの。一種の気迫とでも言うような感覚に、篝たちは思わず足を止める。
「今のは・・・」
「急ぐぞ!」
篝に従ってセラは背筋に走る悪寒を振り払いながら再び走り出す。
そうして乗り込んだ観客席で、セラは凍り付いた。
そこにあるのは、巨大な天秤――――天秤の形をした怪物だった。
巨大な十字の体と、左右に伸びる棒状の腕ともいうべき先端から垂れさがる巨大な半球の皿。
体の形はシンプル。だが、その簡素な体から放たれる目を逸らしたくなる威圧感を前に、セラの足が動かなくなる。
完全、という言葉が頭を過る。
傷つけるという事を考えることすら憚られるほどの神々しさを放つ物体が、そこにいる。
今すぐにでも、膝を屈したくなる。
それほどまでに、恐ろしく、神々しい。
(だめ、動けない・・・)
戦わなければならない。それなのに、体が言う事を聞かない。
どうして、と考える事すら、おこがましいという様に、思考が潰されていく。
だというのに、何故だろう。
(どうして・・・・)
何故、彼だけは―――
「オラァ!!!」
―――まともに動けるのだろうか。
ドゴォォォォン!!!
炸裂したのは両足によるミサイルキック。その一撃が、リブラを大きく傾ける。
「なんだか知らねえが、ぶっ壊すぞ!」
対カテゴリーIVリンカー『リブラ』戦―――篝の先制攻撃を以て、開幕。
神をも恐れぬ一撃。




