突撃 革星機関
翌日―――午前六時。
「・・・・マジか」
そんな時間に起きた篝は、がっしりとラーズを抱き締めている自分に唖然としていた。
「んみゅう・・・・かがりしゃん・・・?」
リンカーなのに寝ぼけているラーズにほとほと呆れつつ、篝は立ちあがる。
「ちょっと出かけっぞ」
「どこへ・・・?」
―――午前九時五十五分。
「・・・・で?」
セラは、非常に苛立っていた。
「どうしてあのバカはまだ来ないの!?」
『もうすぐ十時だぞ・・・』
旧クローラル学園校舎校門前にて、事務所面々が集合していた。
(篝君・・・)
ノリアは、もうすぐ集合時間だというのに来ない篝の事を心配していた。
「全く、何をやっているんだ・・・」
「まあいいじゃない。時間だけはちゃんと守る子だから」
「アイリスは何故ここにいる・・・?」
「お見送り」
そうして、篝が来ない事で騒いでいると、バイクの音が聞こえてくる。
凄まじい勢いで迫ってくるその音の来る方向を見ると、そこには明らかに全力疾走しているバイクに跨った篝と後ろに座るラーズがやってきていた。
そのまま、校門前で車体を捻って停止した篝。
「わ、悪い、遅くなった・・・!」
本当に急いできたのだろう。篝はかなり息をあげており、ラーズは目を回してグロッキーになっていた。
そんな二人の様子に、一同は呆れかえっていた。
「全く、こんな時に遅刻寸前とか何考えてるわけ」
「だからもう謝っただろ、いつまで擦る気だその話題」
「あんたの一生が終わるまでよ」
移動はクルエの運転するオフロード車。篝はバイクである。
「一応、間に合ったからいいもの、今まで何をやってたんだ?」
「それは後のお楽しみという事で、今は勘弁してくれ」
「言いなさいよ」
「後のお楽しみって言っただろ」
そうして、車を走らせること三十分。彼らは目的地に到着する。
そこは、かつて文明が崩壊する前に存在し、今は人の住むことは出来ない廃墟と化した街。誰もいない街であるが故に、様々な危険な実験に使われることもしばしばあるという。だから革星機関がこっそりと何かをしてもおかしくはない。なのだが―――
「これはどういう事だ?」
そこにいたのは革星機関などではなかった。どこかの企業の調査チームと思わしき恰好をした者たちばかりだ。
「おかしい、昨日確認した時は、確かに奴らの構成員だったのに・・・」
「どういう事・・・?」
物陰に隠れながら、一同は訝しんで様子を見守っていた。
「・・・・スターロードカンパニー」
そんな中で、ステラがそんな名前を呟く。
「先輩?」
『知ってんのか?』
「まあ、昔ね・・・」
ステラの表情は険しい。その様子に、誰も何も言わない。
「架空の調査会社って言った所か」
篝一人を除いて。
「え、知ってたの?」
「どっからどう見ても偽物だろ。ってか、普通に男も交じって作業してる時点でおかしいと思え、比率がそっちが多いのは明らかに異常だろ」
「男の人件費がすごく低いからじゃないの?」
「にしては多すぎる。それにこいつを見てみろ」
そう言って、篝は何時の真にか設置していたカメラの映像をみんなに見せる。
そこに映っているのは一人の男の写真。
「首に何かついてるだろ?」
「これ・・・首輪?」
「おそらく何かしらの装置だろう。単純な話、爆弾か何か」
「ば、ばくだ―――んむぐ!?」
叫びかけたセラの口を抑える。
「それに挙動不審だ。おそらく企業の制服着せて誤魔化しながら引き込んでいるんだろ。それに・・・」
篝は画像を変える。そこには、巨大な棺のような箱、黒いビニール袋、あとは何かと巨大なトラック。
「全部人が入りそうじゃねえか?」
「捕まえて運ぶ手段は色々ってことだね」
ステラは呆れたようにつぶやく。
「この様子だと、かなりの人数が誘拐されてるねぇ・・・」
「そういう訳だ。ロロ、お前のコードスキルであの首輪外せ」
「え」
今回、誰も学園に残れないので、後方支援担当であるロロを守りやすいように一緒に連れて生きているのである。
「わ、私がですか?」
「外すのは良いが、それなりに混乱が起きないか?誘拐された連中に被害が出るかもしれない」
「だからその為の仕込みを今朝やってきた」
「「「は?」」」
篝がいきなり言い出したことに、全員が唖然とする。
「し、仕込みって・・・一体何を・・・」
「待てば分かる」
篝は時計を見ていた。
「大丈夫ですよ」
不安がっているであろう一同に、ラーズは笑顔で答える。
「きっと来てくれます」
そう断言してみせるラーズ。それに、一同は首を傾げる。
だが、ステラは頷いてみせた。
「分かった。ロロちゃん、やって」
「え、でも・・・」
「大丈夫、篝くんを信じよう」
ステラは安心させるように、笑顔で言って見せる。
それに、ロロは頷く。
「分かりました」
ロロが、持ってきたノートパソコンを開く。
そして、眼鏡の位置を正し、そのキーボードに触れる。
「始めます―――」
ロロはキーボードを―――叩かない。
「―――接続開始」
ロロ・クウロー。
クローラルなんでも事務所における電子機械の専門家。
コードスキルは『電脳没入』。
自身の精神を電脳世界へ突入させ、自身の肉体を中心に周囲にある電子機械に干渉する事が出来る。
ただし、対象を支配できるかどうかは本人のエーテル能力次第。
ロロの周囲に、青白いエーテル粒子が迸る。
幸い、その光は向こう側には見えていない。
「この程度なら―――」
ロロのコードスキルの発動条件は、自身の手元にそれなりの性能を持つ電子機器がある事。それを通して電脳世界に突入し、その世界を通して、他の電子機器に遠隔で干渉できる。
本来、自身から離れるほどエーテルによる効力が弱まるのが普通なら、ロロのような特殊なエーテルを有している場合、その射程距離は大きく伸びる事がある。
ロロの場合、電脳世界限定ではあるが、本来の射程を大きく伸ばす事が可能であり、その範囲はおおよそ1Kmに及ぶ。戦姫としては破格とも言うべき射程距離である。
「これは・・・」
「どうした?」
ふとロロが怪訝そうな表情をしたのでクルエが尋ねる。
「いえ、なんでもありません・・・・」
しかし、ロロは微動だにしないまま、コードスキルを行使し続ける。
「首輪、外します」
ロロがそう呟く。すると、一瞬、ロロの目元に光の線が走ったかと思えば、物陰の向こうから何やら物音が響いた。
見てみれば、そこでは首に首輪をつけられていた男たちの首から首輪が外れていた。
『よし、これで・・・』
「でも、首輪が外れたら・・・」
当然、騒ぎが起こる。
「は、外れた・・・外れたぞぉ!」
「逃げろ、逃げろぉ!」
「待てぇ!動くなぁ供物どもぉ!」
「我々の役に立てる栄誉を、蔑ろにするもりかぁ!」
逃げ惑う誘拐された人たち、それに襲い掛かろうとする革星機関の構成員。
このままでは、必ず死傷者が出てしまうだろう。
「ちょ、どうすんのよ!?このままじゃ死人でるわよ!?」
セラが焦ったように声を挙げる。しかし篝はどこまでも冷静だった。
「大丈夫」
「何がよ!?」
「もう来た」
「全員、そこを動くなァ!」
響く、何者かの声。
見ればそこにいるのは何かの集団。その腕章にあるのは―――『盾と手錠を加えた犬』。
「警察の―――『ドーベルマンガーダー』!?」
警察組織において、武力制圧を目的とした実戦部隊『ドーベルマンガーダー』。その部隊が、一体何故来ているのか。
『警察って、こっちには来ないんじゃないのか?』
「ああ、警察は基本、こっち方面に来ることはない。警察も見捨てた無法地帯だからな。だが、証拠と証明が出来れば、ああいった武装部隊をこっちに寄越させることは可能だ」
「証拠って・・・お前いつの間に・・・あ、朝・・・」
「残念ながら、俺が会ったのは警察じゃないぞ。俺はあくまで証拠を渡して判断を委ねただけだ」
「判断を委ねた?誰によ?」
「・・・・あー、そういう事?」
篝の言い分に、セラは訝しむ間に、ステラはやってきた集団を見て合点がいった。
ドーベルマンガーダーの後ろに、見覚えのある紋章の集団もいたからだ。
ジオ学園の秩序委員会だ。
「秩序委員会の誰かに、その証拠を渡したってことだね」
三時間三十分前―――午前七時ジオ学園にて。
「突然、尋ねきたと思えば・・・」
イオが呆れた様子で尋ねてきた篝を睨みつけていた。篝は、男の姿だと何かと不都合なので、戦姫形態のまま尋ねてきていた。
「こんなものを渡して手伝って欲しい、とか・・・お前、昨日自分が何を言ったのか忘れたのか?」
「撤回すっから手伝ってくれ」
「誰が手伝うか!セラのことならともかく、こっちだって忙しいんだ!」
「そこをなんとか。今度セラとの面会セッティングすっから」
「それで釣れるか!?謝罪なら自分でどうにかして謝る!」
「チッ」
「おい今舌打ちしたか?」
らちが明かない言い争いは、膠着状態となる。
「なら何すれば手伝ってくれるんだ・・・」
「自惚れるなエキストラ。お前たちのことぐらいとっくに調べはついている。一度私たちを拒否した以上、それなりの誠意というものがある筈だ」
「誠意とは?」
「そうだな・・・うん、全裸で土下座するなら考えてやらんでもない」
と、イオはふんぞり返って言って見せる。
流石に人前で脱ぐというのは人として遺憾ともしがたない屈辱であるだろう。
そして、その羞恥に女である以上、耐えられる筈がない。イオはそう思っていた。
「分かった」
「分かったならさっさと帰るんだな。・・・・今なんて言った?」
「篝さん、やめてください。いくらその姿とは言えそこまでする必要はありません!」
篝は何の躊躇もなく、ヴァリアブルスキンの装束を脱ぎ始めていた。
「待て待て待て待てやめろやめろォ!?まるで私が脅して脱がせてるみたいじゃないか!?」
「そう言う自覚がもっと前にすることだが。悪いが一度要求された以上最後までやってやるぞ」
「どこにプライド燃え上がらせてるんですか!?やめてください!肩が!腿が!鼠径部が!乳房が!陰○が!」
「頼む私が悪かった!服を脱ぐのをやめてくれ!」
突如として始まるストリップショー。それを全力で阻止する相棒と交渉相手。篝はプライドを捨てて素っ裸となり土下座を敢行すべく脱ぐのをやめない。変態だ。
そしてそこへ通りすがりの委員長。
「・・・何してるの?」
「ヒッ!?委員長・・・!?」
「なるほど、事情は分かった」
シンは篝の話しを聞いて、その証拠品を受け取った。
「・・・・こんなものを渡してくるという事は、意味は分かって言っているのよね?」
シンは、篝を見上げる。身長が低い故に、仕方のない事だが、それでもその眼差しを向けられている篝は、身体の芯から冷えるような錯覚を覚える。
だが、篝はその眼差しを正面から受け止める。
「嗚呼、俺は本気だ。本気で、仲間を守りたい」
「そう・・・」
シンが踵を返す。
「イオ、準備して」
「いいんですか?」
「ええ、それに、彼女に恩を売っておくのも良い」
シンは、篝に背を向けて、その『証拠品』を持った手で振る。
「貸し一つよ」
「ああ、ありがとう」
「早く戻りなさい。すぐに向かう」
そうして、篝はすぐさまクローラルへと戻る帰路についた。
―――その途中、事故に出くわしてその対処をしてしまうのだが、それは別の話である。
「なんとか証拠品が通ったようで良かった・・・」
「それにしても、よく警察を動かせる証拠品なんてものを見つけ出せたな・・・」
クルエが感心したように篝を褒める。だが、
「ねえよ」
篝は短くそう答えた。
「・・・・・は?」
「ねえよ。そんなもの」
篝が言いだしたとんでもない事に、場の空気が凍り出す。
「・・・篝、今、なんて・・・・」
「でっちあげた、証拠を」
殴 殴 殴
「証拠偽造罪で逮捕する・・・ッ!!」
「先生、先生はもう刑事じゃないですよぉ!」
それはもうメタメタにされた篝は地面に投げ捨てられ、ラーズが慌てるのを他所にして、ステラたちは革星組織に襲い掛かるドーベルマンガーダーと秩序委員会の様子を見る。
場は完全に乱戦状態。しかし、少し妙な事がある。
「ドーベルマンガーダーが敵の制圧に集中して、秩序委員会が誘拐された人たちを保護している?」
役割分担と言えば聞こえはいいが、未だに男性排除運動の影響が残る現代において、ステラたちの目から見てもその行動は異様だ。
「人質には構うな!革星機関だけ狙え!」
おそらくはリーダーであろう女が、その手の鞭を振るいながらそう指示を飛ばす。
一方、秩序委員会は誘拐された人質の救出に回っている。戦闘にはドーベルマンガーダーが取りこぼした者を対処している程度。
「さっさと行け!早く!」
その中にはイオの姿もあった。
その姿に、セラがぞわりとした感情を揺らがせたのを感じて、篝がその肩を掴む。
「っ・・・分かってる」
「なら良し。それじゃあ、混乱に乗じて乗り込むぞ」
「このまま任せても良いと思うけど・・・」
「あれ見てそういえるか?」
篝が指差す先、そこに突如として現れたのは、巨大な土塊の化け物。
「「「なにあれ」」」
「明らかにコードスキルだろ。だがあんな規模で能力を行使できるものなのか?」
「直接接触していれば、その範囲を伸ばす事は不可能じゃない。エーテルの効果範囲は持ち主から数メートル程度だが、物体を通す場合、その射程は体積に変化する頃がある。その物体の密度によっても大きく変化はするが・・・」
土塊の化け物が暴れる。
「どうやらゆっくりと授業をしている様子は無さそうだ」
乱戦状態となっている戦場へ、その土塊の化け物が接近していく。このままでは、敵味方問わず、その怪物は戦姫たちを蹂躙することだろう。
だが、そうなる事は無かった。
「―――『魔人の手』」
突如として地面から伸びた紫色の炎の手が、その土塊の化け物を地面へと叩き潰した。
怪物は悲鳴を上げる間もなく沈黙し、その土塊の身体が崩れ、そこから正体である革星機関の構成員が現れる。
その構成員を、その炎の手が掴み上げる。
その下にいるのは、一人の少女。
「シン・・・」
秩序委員会委員長シン・イルタジオ。
そのコードスキルは広く伝わっている。
曰く、『彼女には炎の悪魔が宿っている』。
その『惨劇』は見ての通り。
「ぎゃああぁああぁああああああ!!?」
「あつ・・・くない?あ、が、おごぉおお!!?」
「ひぃぃいい―――ぷべ」
紫の炎のうねりが、次々と革星組織のみを狙って叩き潰す。
凄まじいエーテル総量、そしてコードスキルの威力、どれをとっても高次元にして異次元。学生の身でありながら、常軌を逸したその力は、まさしく炎の嵐のようだ。
そんな破壊を前に、篝たちは。
「とりあえず突っ切るぞ」
「ここを!?」
「どうせゲニウスは隠せない。だったら混乱に乗じて火事場泥棒しに来た連中とそれを追いかけるアクトレスの体で目的地に向かうぞ」
「もうこうなった以上、うだうだ考えるのは時間の無駄だね。よし、篝くん、ユウゴくん、セラちゃん、やっておしまい!」
「・・・え、待って、私も!?」
「当たり前だろお前もエキストラだ」
そう言って、篝はセラの腕を掴んでゲニウスの機体へと飛び乗る。
「ユウゴ、行け!」
『どうなっても知らねえぞ!?』
ゲニウスが足の履帯を回転させ、走り出す。
「ん?なにあれ!?」
最初に気付いた一人が声を挙げ、それにつられて多くの人間がゲニウスへと視線を向ける。
だが、だからと言ってもう彼らは止まらない。
「どけどけぇ!轢き殺すぞぉ!」
「やめてよそんな事言うの!」
『セラ、今の俺たちはエキストラだ。野蛮に行かないと怪しまれるぞ』
「いやよ!」
「おうおうどうした新入りぃ?まさかビビってんのかあぁん?」
「誰がビビってるですって!?いいわよやってやるわよ!」
「へへ、ちょれぇ」
そのまま篝とセラを乗せたゲニウスは乱戦の中の横断を強行。
「っ!?下手に前に出るな!」
「気にしないで、人質の救出を優先して」
ドーベルマンガーダーのリーダーとシンが、それに気付いて、部下たちを回避させる。当然残るのは革星機関の構成員たち。
「なんだ貴様らぁ!?」
「こっから先へ行かせん!」
『邪魔だァ!!!』
「「「ぐはぁああぁあああ!!?」」」
しかし人型ロボットでありエーテルを纏うゲニウスの前では車に撥ねられるも同然、前に出た革星機関は全て軒並み吹っ飛ばされる。
「まぁてぇ~!」
その後ろから追いかけるのはクルエの運転するオフロード車。窓からステラが身を乗り出し、気の抜けた声で追いかけていく。
その姿を見て、シンは目を見開いてみていた。
「ステラ・・・」
そこへルウから通信が入る。
『追いかけますか?』
「っ・・・ええ、ここを片付けたらすぐに追いかけるわ。今はここにいる人質を一人も残さず救出する事が先決よ」
『分かりました』
ルウが通信を切る。それを確認したシンは、目元を拭ってステラが去っていた方向を少しの間見送った。
その一方で、ドーベルマンガーダーのリーダーである鞭を操る女は、運転席に座るクルエを見て驚いていた。
「先輩!?」
「すまん、ここを任せる!」
一方のクルエはそれだけを残して走り去っていってしまう。
「なんでこんな所に・・・」
「隊長、どうしますか!?」
「・・・この場にいる革星機関を速やかに掃討し次第、奴らを追いかけ、残りの機関員を逮捕する。ペースを上げろ」
「了解」
指示を出し、隊長と呼ばれた女は再び鞭を振るう。
「・・・ご武運を」
そうして、突き進んでいく、クローラルなんでも事務所一同。
「この先、廃棄された野球場のドームがあります!」
『あれか・・・!』
ロロの案内の元、途中の機関員たちを蹴散らしながら進んだ先、そこにある野球ドームの出入口に突入する。
だが、その直前に篝はセラと共に、ゲニウスから降り立った。
「先、行ってるよ」
そうして、彼らはドームへと駆け抜けていく。
その様子を見届け、篝たちは周囲に布陣する機関員たちを見回す。
「全く、なんであんたと一緒じゃなきゃいけないの」
「悪い、あとで焼肉奢るからさ」
「盗んできた金じゃないでしょうね?」
機関員がじりりと詰めてくる。
対して二人も構える。
「セラ、事前の打ち合わせの通りにやるぞ」
「不本意だけど、任せなさい」
セラが、コードスキルを発動する。
「―――『狂血覚醒』」
セラの目に、スパークのような光が迸る。
セラが自身のコードスキルを制御できる出力は二割まで。ただし、ある程度理性を放棄した場合、セラは四割までその出力を上げる事が出来る。そこが、彼女自身が自ら戻ってこれる限界値である。
「グ・・・ルルルゥ・・・!!」
セラが唸り出す。間違いなく理性がトびかけている状態だ。だが、それでも辛うじて残った理性が、彼女をその場に踏み止まらせていた。
「さて、それじゃあ―――」
「邪魔者には退場してもらうとしよう」
その時、再びラーズを連れ去った空間の扉が、セラを捉えてどこかへと飛ばしてしまう。同時に、他の革星機関も全て消え失せてしまう。
「またお前か」
物陰から、戦姫形態のスカーが現れる。
「昨日ぶりだな、篝。傷はもういいのか?」
「あの程度、どうってことはねえよ。お前こそ、また同じ手口か。しかも仲間ごと消し飛ばしやがって」
「もう邪魔はされたくないからな。それに、お前なら来てくれると信じていた」
「お前らはリブラを使って何をするつもりなんだ?」
篝はスカーを睨みつけながら尋ねる。
「リブラ・・・十二個存在する強力な力を秘めたゾディアックシリーズの一つだが、その強力さに反して起動した例は実は多く存在する」
「・・・・適合者か」
「そう、カテゴリーIVと言えど、リンカーはリンカー。自らに適合し、扱える者がいて初めて真価を発揮するものだ。だが、カテゴリーIVリンカーに適合する戦姫というものはそうはいない」
スカーと篝は円を描くように距離を保ちつつ歩き続ける。
「だが、起動するだけなら、それに見合うエーテルを集める事で、一時的な起動が可能だ。人力で風車を回すようなものだ」
「その為に、この街にいる人間を攫い続けていたのか?」
「俺たちの崇高なる目的の役に立てるんだ。本望だろう?」
「けっ、どうせお前の言うルールに従うだけの側の人間だから毛嫌いしてるってだけだろ。自分だけがお高くとまってるつもりかカスが」
「酷い言いぐさだな。だがそう思われても仕方がない。これも必要なことなんだ」
「まあ、お前らがリブラ使って何するのか知らねえし、知る気もねえ。止めるのは確定だからな」
篝が手袋の裾を引っ張る。
「まあ、とりあえず、教えてもらったついでにこっちも一つ教えてやる」
「なんだ?」
篝の言葉にスカーが耳を傾けた。その直後―――スカーに向かってセラが襲い掛かる。
ドゴォ!
「な!?」
間一髪、スカーはセラの振り下ろした拳を躱した。空振った拳はそのままコンクリートの床を砕いてクレーターを作ってしまう。
「セラのコードスキル『狂化』は身体能力はもちろんのこと、感覚もまた出力に応じて向上する。だからお前らが使う空間の能力を察知してから回避する事も可能なんだ」
「ガァアアアアアア!!!」
「あと、完全暴走状態だとまともな思考が出来ないだけじゃなくて、その際の出力も使いこなせないから実質弱体化しているようなものなんだ。だから、出力百の暴走状態に比べて出力四十の半制御状態の方が実は総合的に強いんだよ」
セラが地面に叩きつけたスカーに追撃しようとする。だが、スカーはすぐさま立ち上がってセラを蹴っ飛ばして距離を取る。
「驚いたな。まさか避けられていたとは・・・」
「グルル・・・コロス、コロス・・・!」
「はいはい落ち着け狂犬状態。ステイ、ステイだぞ」
「ハヤクシロ!オサエラレナイ!」
「分かったから」
今すぐにでもスカーに飛び掛かりそうなセラをなだめつつ、篝は笑みをもってスカーを見る。
「ラーズ」
「はい!」
篝が呼べば、今の今まで姿が見えなかったゴライアスが空中から色が溶けるように現れ、ラーズもまたその姿を現す。
「俺の予想する限り、この対象をどっかに飛ばす能力は、あくまでこの場の別空間に閉じ込めるだけで、どっか遠くに飛ばす能力じゃないんだろ。一時的な隔離には便利だろうが、何かしら破る方法が分かれば、突破する事は容易い・・・違うか?」
「さてな」
スカーが取り出したトランプをその手の上で弄ぶ。
(おそらく奴のコードスキルは『収納と展開』。何かしらの別空間を常時持っていて、そこに好きなものを自由に出し入れできる能力なんだろ。あのカード、身体の中じゃなく、いつの間にかそこにあるってことが多いからな・・・そしてそれは人間も対象。今はそういう事にしておこう)
そんなスカーからの攻撃が飛んでくることを警戒しながらそう結論付ける篝。
「そんなに俺と二人になるのが嫌か?」
「ああ、嫌だね。だって俺お前が嫌いだから」
そう言って、篝は悪人がするような笑みを浮かべる。
「嫌いな奴に嫌がらせするのって楽しいぞ」
だって自分勝手なのだもの。




