ジオ学園秩序委員会
「え、襲われた?」
昨日の事を事務所で話すと、一同は目を見開いて驚いた。
「大丈夫だったの?」
ノリアが不安そうに尋ねると、篝たちはなんでもないと答える。
「まあ、その時は篝たちのお陰ですぐに片付いたから良かったんだけどな」
「それで、これが例の連中のもっていたものですか?」
机の上に置かれたのは昨日襲ってきた連中が持っていたガスマスク。
独特な形状をしているフルフェイス型。目元が見えないタイプのもので、その構造は、有毒ガスを防ぐためでなく、一種のトレードマークの意味合いしか持っていないようなものだった。
「一体何なのよこれ・・・」
「そんなのこっちが知りてえよ」
セラが気味悪そうにガスマスクを持ち上げて見せる。
そんな訳で、クローラルなんでも事務所は、その謎の襲撃者の話題で持ち切りだった。
「で」
そんな中で、篝は先ほどから黙ったままのステラとクルエの方へ視線を向ける。
「何でそんな顔してんだよ」
ステラは顔を青ざめさせ、クルエは普段より一際険しい顔を浮かべてそのガスマスクを見ていた。
「・・・お前たち、この件には関わるな」
クルエが、突然そう言い出す。それに困惑する一同。
「そりゃ無理だな」
だが篝がそう返す。
「何?」
「俺の予想が正しけりゃ、たぶん目をつけられたぜ、俺ら」
その篝の言葉に、クルエが奥歯を噛みしめたように見えた。
「すぐに警察に突き出したとはいえ、おそらくあれだけじゃない。組織単位で動いていると考えるのが普通だ。んでもってここから本題」
篝がセラの持つガスマスクを指差して言う。
「連中は今、人攫いをやっている」
「「「・・・!?」」」
当然、全員が目を見張った。その中で、ステラだけが、いつもとは全く違う雰囲気で、
「・・・根拠は?」
と尋ねた。普段からは信じられない威圧するような空気だ。その空気に、ノリアも、ユウゴも、ロロも、セラも、クルエでさえ何もいう事が出来ない。対して、篝だけはなんでもないように答える。
「奴らが研究材料と言っていた。何かしらの実験に人体が必要だったというだけの話しだ。そして、今の時代、女より男の方が捕まえやすい。男女の違いがあっても同じ『人間』であることには変わりないからな」
「おい篝!?なんでそれ昨日の時点で言わなかった!?」
「だから昨晩、俺も見回りしてた。結果、似た格好したスリーマンセルを二組見つけた」
篝のその報告に、一同はさらなる衝撃を受ける。
「つい最近までいなかった連中が、突然この辺りに現れた。ここを拠点とする俺たちには由々しき事態だ。零細である俺たちがここで活動していく為には、こういった事は初動から叩き潰していかないと拙い。でなけりゃ、あっという間に喰われるぞ」
「・・・・」
「先輩」
どこか、というか酷く嫌そうな顔をするステラを見て、篝は怖気づきもせず言う。
「すぐに動くべきだ。でないと、あんなクソみたいな奴らにここに暮らす奴らが食い潰される」
篝はステラに向かってそう進言する。ここの所長は彼女だ。だから決定権は彼女にある。
そうして、尋ねられたステラは、目を閉じて長い事考える。そして、ため息を吐いた。
「分かった。断っても、アイリスさんを引っ張ってくるつもりでしょ?」
「良く分かったな」
「マジだったんかい」
ユウゴのツッコミを他所に、ステラは自分の座る椅子の背もたれに寄りかかる。
「はあ・・・また現れたんだねぇ・・・何が目的なんだろ・・・」
「人を攫って人体実験というのは確実だろうが・・・」
「待て待て待て、その前にあいつらの正体教えろ。そうでなきゃ、どう対処していいのか分からない」
少なくとも名前ぐらいは知っておきたい。
それに答えたのはクルエだった。
「この新生文明歴が始まって以来、世界各地で活動し、違法な実験、非人道的な行い等により、全世界特別指名手配組織に任命されている唯一の組織が存在する。その組織の長の正体も分からず、この百年、その実態を捉えきれていない程に、謎に包まれた集団だ。ただ、分かっているのは、そいつらは掃き溜めのゴミにも劣る存在だという事だ」
腕を組んで、苦虫を噛み潰したかのような表情で、クルエはその組織の名を告げる。
「その組織の名は『革星機関』。もしそいつらを見かけても、迂闊に手を出すな。死よりも辛い目に合うことを肝に銘じておけ」
まるで見てきたと言わんばかりに忠告するクルエに、一同はただ頷くことしか出来なかった。
「『革星機関』・・・」
その中で篝はその言葉を咀嚼するようにつぶやく。その様子を、ラーズは傍らで見上げていた。
「とりあえず、まずはあいつらがどんな風に動いているのか考えよっか。ロロちゃん、ドローン飛ばして」
「分かりました」
ステラの指示に従い、ロロがPCを起動して遠隔でドローンを起動。屋上に設置したドローン格納庫から一斉にドローンを発進させる。
その作業を傍らに、篝は右手の裾を弄りながら考える。
「気になることがある」
「気になること?」
篝が呟いた言葉に、ノリアが聞き返す。
「奴らは幅広く活動していた。隣のエルセティーでも誘拐事件起こしてたし、まず人を集めるのには間違いはない筈だ。問題はその用途。それが分かれば、場所もおおよそ絞り込めそうなんだが・・・」
「大量に人が必要な奴って・・・薬の人体実験とか?」
「ありきたりだな。だが、それが一番打倒か・・・」
ユウゴがなんとなしに言ってみた言葉に対して、篝はとりあえずそれを前提とすることにした。
今は判断材料が足りない。情報が足りない以上は集めるしかない。
篝は携帯端末を取り出す。
「この辺りで、そんなことが出来る施設といやあ、ゼルメルト博士のいる病院ぐらいなもんだが、昨日の時点では確認出来なかったし、他にそういう事の出来る施設・・・なんか知らない?」
その端末で周囲一帯の地図を開いてみるが、やはり分からないのでクルエたちに尋ねる篝。
「そんな事が出来る施設、私は知らないぞ」
「私も知らないかなぁ・・・」
そう、二人が答えた時だった。
「あ!?」
ロロが唐突に声を挙げた。
「見つかったのか?」
「はい!四番ドローン、旧市街地で例のガスマスクをつけた集団がいます」
ステラが立ち上がる。
「行くよ」
ユウゴとロロを置いて、現場へと急行するクローラルなんでも事務所一行。
戦姫の身体能力をフル活用してパルクールで移動する彼女らの速度は、下手な自動車より遥かに速い。目的地まで一直線で進むことが出来る事も考えると、その凄まじさも一入だろう。
そんな彼らが全力で移動すれば、目的地であるクローラル旧市街地へとたどり着く事も用意であり、
「見つけた」
そこに、数人いる『革星機関』のメンバーを発見した。
その周囲には、白い繭のようなものがいくつも転がっていた。
「あれは・・・!?」
「ロロちゃんの言った通り・・・!」
既にその惨状はロロを通して共有されている。そしてその中で真っ先に飛び出したのは篝だ。
「あ、待て・・・!」
クルエの制止も聞かず、篝はまだこちらに気付いていない連中の一人に流星のような飛び蹴りをかました。
「ぐはあ!?」
その女の腹が潰れ、地面に沈む。
舞い上がる土埃の中、篝は繭を運ぼうとしていた革星機関の連中に視線を向ける。そのすぐ傍に、ラーズが降り立つ。
「お前ら、それどうするつもりだ?」
足蹴にしていた機関員から降りて、篝が連中にそう尋ねる。対して機関員たちは顔を見合わせると、すぐに篝の方を向き直った。
「これは珍しい。ここには女はいないものと思っていました」
機関員たちのうちの一人が物珍しそうな仕草と声音で話しかけてきた。
「おい、こっちの質問に答えろ。そいつらをどうするつもりかって聞いてるんだ」
「どうするも何も、こいつらは我々の崇高なる目的の為の供物となるのだ。人類の更なる飛躍の為に、役に立てる栄誉を与えてやったのだ。感謝してもしきれないだろう」
「OK、もういい」
その機関員の言葉に、篝が首に手を回し、そのままこきり、こきりと鳴らした。
「お前ら全員―――」
次の瞬間、篝は地面を踏み砕いて駆け出す。
「篝さん!?」
ラーズが叫ぶも、既に篝はその機関員との距離を詰めていた。
「はや―――」
そして、反応する間も無く、篝はその機関員の顔面にその足をめり込ませて、そのまま踏みつけ、地面へと叩き落とす。
「・・・叩き潰す」
凄まじい眼光で機関員を睨みつける篝の尋常ではない様子に、ラーズはもちろん、様子をみていたステラたちも異常に気付く。
「篝君・・・?」
ノリアがどこか怯えた様子で、今の篝を見る。
「いつもはいい加減な態度の篝が、あれほどまで・・・」
「・・・・っ」
クルエは危なげな篝を心配そうに見ており、セラは篝の気迫に圧倒されていた。
「篝くん・・・」
ステラもまた、そんな篝をじっと見ていた。
そして場面は戻って篝と組織員たちの対峙へ。
「貴様ぁ・・・我々の邪魔をすると―――」
「やかましいッ!」
何か喚こうとした組織員の一人を、篝はその鉄拳で以て殴り飛ばす。
その直後、他の機関員が腕から骨のようなものを突き出して篝に襲い掛かる。
「一撃確殺・・・」
しかし、その骨の槍は篝の身体を貫くことなく、その皮膚の前に止まる。
「な!?」
戦乙女流決闘術『火威』
そしてそのまま腰からの捻りを加えた拳をその首に叩き込む。
戦乙女流決闘術『祓石火』
めきり、という嫌な音と共に、吹っ飛ぶ骨を操る組織員。
「三人・・・!」
その背後から二人、歪な剣を持った女と雷を纏った女が一斉に襲い掛かる。
だが、その横からまとめて、巨大な拳が殴り飛ばした。ラーズとゴライアスだ。
「ラーズ・・・」
「一人で暴れないでください!」
ラーズが篝に向かってそう叱る。それに篝は少し面を食らったような表情になるが、すぐに額を叩いて頷く。
「悪い、熱くなってた」
「・・・・」
気まずそうにする篝を見て、ラーズは先日の篝の話しを思い出す。
(もしかして・・・)
機関員たちが篝たちを取り囲む。
「ラーズ、ゴライアスで穴開けられるか?」
篝がラーズにそう指示を出した時、屋根の上から一人飛び降りる。
「その必要は―――」
飛び降りたのはノリア。その手の戦槌を掲げ、一気に振り下ろす。
そうして放たれた衝撃波が地面を伝って揺れとなり、機関員の一部を弾き飛ばす。
「「「うわあ!?」」」
その隙を見逃さず、篝が浮きあがった機関員三人を叩き伏せる。
「くぅっ・・・!」
「こいつら、強い・・・」
「余所見をしている場合か」
その篝の強さを前に、たじろぐ機関員たちの背後から、いつの間にか立っていたクルエが奇襲する。
元刑事とは思えない程、反社会的な装束を身に纏ったクルエの能力は『鎖』。その身からエーテルで構成された鎖を生成し、それを自在に操ることが、彼女のコードスキルである。
その鎖で以て、一瞬で大半の機関員を制圧する。
「出遅れた・・・っ!」
遅れて降りてきたセラは手柄を取り損ねた事を悔しがっている様子だ。
「他の奴は・・・」
「終わったよ」
敵を探すセラだったが、気付けばステラがまとめて残りの連中を叩き伏せていた。小柄ながら凄まじい強さである。
「これで全員か?」
と、クルエがそう言いながら機関員の一人の胸倉を掴んで持ち上げる。
「尋問して誘拐した奴の居場所を吐かせる」
「俺は手加減できそうにないからその辺りは任せる」
「自分が冷静じゃない事を客観的に見れているようで良かったよ」
「ああ」
篝がどうにも冷静さを欠いている様子は誰の目に見ても明らかだ。
それを自覚している様子だが、それを抑えきれていない辺り、何かしらの理由でキレているのは明らかだ。
その理由を、彼女たちは知らない。
ただ、一つ言えることがある。
「ただし」
篝がセラの方を向く。
「ん?」
同時に、その手に作ったのは野球ボール。
「え、何・・・」
その野球ボールをほぼノーモーションで投擲。それに驚いたセラは思わず回避。
「わ!?」
「ぶべえ!?」
そしていつの間にか背後にいた機関員の顔面に致命打。その機関員はその場に沈んだ。
「周囲の警戒はやっておく」
と、篝は言ってのける。しかし、いきなりそんな事をすれば一体どうなるか。
「ふんっ!」
「うお!?」
答え、容赦ない目潰しが飛んでくる。
「待て、悪かった。いきなりボール投げたのは悪かった!」
「うるさい死ね!危うく鼻っ柱折れる所だった!」
「やめてください!」
「せ、セラちゃん落ち着いてぇ!」
始まったセラによる篝への攻撃を阻止するべくノリアとラーズが割り込む。そんなわちゃわちゃとした様子に、クルエとステラはぽかんと見守るほかなかった。
「・・・何をやっているんだあいつらは・・・」
「あはは・・・まあ、誘拐は阻止できたから、良しとしようよ、先生」
そう言って、ステラは誘拐された人が包まれているだろう繭へと近付く。
(この繭、何かのコードスキルによるものかな・・・?)
触れて、中を確認するべく引き裂こうとして、
『皆さん!』
ロロから連絡が入る。
「まだ他にいる?」
『違います!エルセティー方面から、中隊規模の集団がやってきています!』
「っ!?」
ロロからの報告に、彼らは目を見開いた。
同時に、何かを捉えたのか、ラーズが自身の背に伸びる道路の方へ体を向けた。
『黒を基調とした共通の制服に、腕章のマークから・・・』
春の日差しの元、規律正しい動きでやってくる一団が見えた。
その、ここクローラルにおいては異様な光景に、篝たちは警戒を強める。
だが、すぐにその集団が、自分たちと近い年齢の集団であることに気付く。
『ジオ学園です!』
ここ学園都市プトレマイオスが何故『学園都市』と呼ばれているのか。
この世界において学校は戦姫育成機関であり、それ故に世界中どの学校でも必ず『エーテル科』というカリキュラムが組み込まれているが、ことここプトレマイオスにおいては国内高水準の戦姫育成を行っている。その為、全国各地から、学園に入学する生徒は後を絶たない。
そして、何より特徴的なのが複数の学校が存在する事。その最たる学園が三つ存在する。
一つ、様々な科学技術による計算と実験によって最適解を導き出す『アンヌメンシス科学院』
一つ、格式高く、気品や規律を重んじ、宗教などの幅広い分野を学ばせる『聖リースロッテ学園』
一つ、全ての学園の中で最も『自由』であり最も『大規模』の『ジオ学園』。
以上、三校がここプトレマイオスにおける最大派閥。
そして、現在、篝たちの前にいるのはその三大学園の一つ『ジオ学園』。その混沌を粛清するべく結成された超武闘派集団。
名を、『秩序委員会』。
プトレマイオス生粋のエリート戦姫集団である。
「なんでこんな所に秩序委員会の連中が・・・」
「・・・」
秩序委員会の到来は完全に予想外。そもそも、こことは間反対の北に位置するはずのジオが何故ここにやってきたのかさっぱり分からない。
そんな訳で、革星組織を拘束している篝たちクローラルなんでも事務所の面々の前に秩序委員会の一団が立った。
図らずも対峙という形となり、警戒を緩めない篝たち。そんな彼らの様子を分かっているのかどうかは分からないが、一人、気色の違う少女が前に出た。銀髪のツインテール、褐色肌、武器は無い。しかし容姿と目付きから気の強そうな印象を持つ少女だ。
(徒手空拳か・・・)
と、篝がその少女を分析していると、その少女がこちらを見ながら声を挙げる。
「そこのお前たち、倒れているのは革星機関の構成員だな」
話しかけられ、警戒する一同の中、篝が先陣を切って応じる。
「だったらどうした?」
「そいつらをこちらに渡してもらおう」
「なんでだ?こいつらとお前らには何の関係がある?」
「それを知る必要はない」
銀髪の少女は高圧的に答える。それにセラがかちんと来たのか文句を言おうとして篝に口を抑えられる。
「むぐっ!?」
「悪いが、これからこいつら尋問して誘拐された人たちの居場所を聞き出さなきゃいけねえんだ。目的も明かさねえ連中に、おいそれと渡すわけにはいかねえな。せめて名前を名乗れ。名乗りもしねえ連中に通す義理をこっちは持ち合わせていない」
篝は毅然とした態度でそう言い返す。
(と言いたいところだが・・・)
しかし内心では分が悪いことを自覚していた。
同じ学生とはいえ、ステラやノリアがアクトレス免許を持っているように、学生でもアクトレスになる事が出来る。そしてそれは、命懸けの戦いとなるブラックリンカーとの交戦許可を得るのと同義であり、戦闘を許された『プロ』なのである。
(んでもって学生の間でアクトレスの試験に受かるってのはその時点で高位の戦姫として見られるのと同義。毎年の平均合格率10パーセントと言われる試験に受かるってのはそういう事だ。そして、秩序委員会の実働メンバーは全員がその合格者・・・即ち、戦姫としてエリートの部類に入る。対してこっちはアクトレス三人とエキストラ二人。数の上でも実力的にもかなり戦力差がある・・・どうしよ)
篝は内心焦っていた。
しかし、既に廃校となったとは言え、ここはクローラル学園の敷地内。他学園に荒らされる訳にはいかない。
『それはごもっともですね』
その時、突如として何者かの声がスピーカー越しから聞こえてきた。
それを聞いて、篝は即座にある事に気付いた。
「ロロ、ドローンクラッキングされてるぞ」
『え!?』
指摘されたロロがインカム越しに慌てる様子が見るように分かる。
『あ!?』
そうしてロロの驚く声が聞こえた直後に、秩序委員会の先頭に突如として半透明の少女が現れる。
ホログラム映像だ。
『こんにちは、クローラルなんでも事務所の皆さん、私は秩序委員会で行政官を務めさせております、『ルウ・ファンデミア』と申します』
ホログラム越しに挨拶してくるのはやたらとシルエットがボンキュッボンとした少女。その自信満々な表情は、顔が良いが見ててイラっとする類だと、篝は感じた。
「その行政官サマが一体全体こんな廃墟同然の所にやってきたんだ?」
『ここで革星機関の活動を確認したとの情報を得まして、すぐさま対処すべきと判断してここに来ました。ですので、すぐにそちらの構成員を引き渡していただきたいのです』
と、極めて笑顔でそんな要求をしてきた。
『もちろん、誘拐された方々の捜索もこちらで請け負いましょう。安心してください。男であろうと傷一つつけずに救出してあげましょう』
まるで自信満々に自分たちの実力を信じているような言動だ。しかし、数も使っている設備も向こうの方が上だ。少なくとも、人海戦術が使える事は利点だ。
だが、篝に言わせるのであれば、
(絶対手柄狙いだな・・・)
間違いなく犯罪組織を捉えたという手柄欲しさの行動としか思えなかった。
「どう思う?」
篝の後ろでステラがクルエに尋ねる。
「普通に考えて、彼女たちに任せるのが妥当だ。こっちには数も設備もない。だが、大人の立場から言わせてもらえば、子供だけでやらせるのは正直忍びない」
「というかこれって、普通に警察案件じゃ・・・」
「警察が男の救出に手を貸すとは思えないな」
ノリアの発言にクルエは苦々しく答える。
そうしている間に、痺れを切らしたのか銀髪の少女が篝たちを指差してきた。
「何を相談しているのか知らないが、さっさとそいつらを渡せ。怪我をしないうちにな」
「むぐっ・・・ぷはっ、ふざけんじゃないわむぐぅ!?」
「大人しくしてろ話がややこしくなる!」
「彼女たちの態度は気に入りませんが、このまま交戦に入ると双方に甚大が被害が出るかと・・・」
「・・・」
普通に考えれば、彼女たちに任せた方が一番安全だ。だが、ここはクローラルの縄張であり、そこを好き勝手にされるとなると良い気はしない。何より―――
(ここはステラとクルエが必死に守ってきた場所だ・・・!)
そんな場所を、他所の連中に土足で踏み入れられて黙っていられない。
「・・・・こいつらの事は好きにすればいい」
「ん?」
「だがここは俺たちの縄張だ。土足で足踏み入れて、詫び一つねえお前らにどうぞよろしくお願いしますと言えるほど、俺たちは人が出来てねえんだよ」
「あのー・・・篝くん?」
ステラが何やら嫌な予感を感じて篝に声をかけるが無視して篝はホログラムを睨みつける。
『つまりこちらの要求はのめないと?』
「ここから出ていけと言ってるんだ」
それを聞いて、ルウはため息をついた。
『はあ・・・無益な戦いは避けたい所なんですが、これでは仕方ありませんね』
「やるの?」
『ええ、あくまで反抗するというのなら、仕方ありません。一つ痛い目を見てもらいましょう』
そう、ルウが呟いた時、ふと建物の屋上から飛び降りる影が一つ。
「「「っ!?」」」
それに気付いたクローラルなんでも事務所の面々は目を見開く。
その飛び降りた影というのは革星機関の機関員。だが、妙な違和感を篝は感じ取っていた。
(僅かに腕部分にある変な痕・・・間違いなく粘着性のある何か。繭を作った奴か!?)
距離はもちろんのこと、出遅れたのも確か。このまま行けば、秩序委員会は不意打ちを喰らってしまうだろう。
「人類の進化の為に―――」
その機関員の手に、繭を作ったであろう粘着性の糸が生成される―――
「―――『暴血活性』」
瞬間、銀髪の少女の手足が、突如として燃え出す。
そして、その点火と同時に飛び上がり、落ちてきた機関員に対して、その赤黒く燃える鉄拳を叩き込んだ。
「ぶべぇ!?」
そのまま顔面を殴られたその機関員は吹っ飛ばされて離れた場所に落下。そのまま沈黙する。
「不意打ち程度で隙をつけると思ったか」
銀髪の少女は、そうしてその機関員を見下し、炎を消した。
(戦い慣れてるな・・・)
ジオ学園はその校風故にかなり滅茶苦茶だと聞いている。そんな環境で秩序を保つために奔走しているという事は、それだけ揉まれているという事なのだろう。
(ステラやクルエなら何も問題はなさそうだが、さてどうしてもんか・・・)
「・・・・だ」
しかし、その少女に気を取られて、篝は見落とした。
すぐ横で、その光景を見ていたセラの様子がおかしい事に。
「・・・つだ」
セラの眼差しは、その銀髪の少女へと向けられていた。同時に、その脳裏にある光景がフラッシュバックする。
飛び散る血飛沫、倒れる人影、上がる歓声―――そして、幼い少女の悲鳴。
それはセラの遠い昔の記憶。しかし、はっきり覚えているコト。その最後に映るのは、赤黒い炎の手足。
「―――あいつだ」
視界が、ぱちぱちする。
「・・・・ゥ」
身体が熱くなる。思考は既に弾けた。理性はぐずぐずに崩れ、全身の血が沸騰して加速する。
セラのコードスキルは『狂化』。その名の通り、理性を吹っ飛ばして体のリミッターをぶっ壊す能力である。
「―――アアアアアアアァアアァアアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
「「「!?」」」
突然絶叫したセラ。それに、その場にいる者たちが全員驚く。
その間に、セラが地面を粉砕して銀髪の少女に向かって突撃する。
「セラ!?」
「何を・・・!?」
篝たちの声が聞こえていないのか、セラはそのまま銀髪の少女の元へと急接近。対して銀髪の少女は驚いた表情のまま、その場を飛び退いて躱す。
「何を・・・!?」
「イオ!?」
イオ、と呼ばれた銀髪の少女はセラの突然の攻撃に面を喰らっていた。しかし、セラはもはや血走った目でイオをその視界にとらえる。その目からは、青い光が炎のように立ち昇っていた。
その姿に、イオは目を見開く。
「お前は・・・!?」
「―――アァアアアァアアアア!!!」
セラがイオを追撃する。
「セラ、どうした!?」
『皆さん!周囲を警戒してください!』
篝がセラの元へ向かおうとすると、突如としてロロの声が響く。
『今の騒ぎを聞きつけたのか、革星機関が一斉に集まってきています!』
「マジかよ・・・!?」
見回せば、確かに革星機関の連中がまとめて襲い掛かってきていた。
同時に、イオを襲うセラによって市街地がどんどん破壊されていく。
「チッ、ロロ、皆に敵の位置情報を共有、可能な限りサポート!ユウゴも手伝ってくれ!」
『はい!』
『任せろ!』
「ステラ先輩とクルエ先生は革星組織の相手!ノリアは秩序委員会を相手、ラーズを援護につける!」
「篝君は!?」
篝は暴れるセラへと視線を向ける。
「あのバカを止める!」
混乱が収まらないまま、三つ巴の戦いが始まる。
理性が外れる、それは何を擲ってでも成し遂げたい時




