向いていない自覚はある
時間通りに突撃したはずなのに、何故俺は警察に来るのが遅いと罵られながら廊下を走っているんだろう。
しかも何故彼らは殆どが涙目で、あそこから逃げるように俺を追っているんだろう。
「ああクソ酷い目に遭った! 今までの中でも最高に最悪だ! お前が狙うのもわからんではないがもうちょっとどうにかならんのか主に俺達の精神的被害について!」
「何が!?」
瑠璃さんに叫ばれても何が何だか。
「ああいうねちっこいの駄目だ! 俺本当ああいうの駄目だな! 苦手! 基本的に野山駆け回って近所の兄ちゃん達と楽しく過ごしてたタイプなもんだからマジで無理だああいうの! 俺キツい!」
「いやアレは無理だよ羽衣! 俺だって鳥肌止まんなかったもん! 鳥肌っていうか恐怖っていうか悪寒が今もフルスロットルだし!」
「杉綿に同意。俺としてはまあまあアウトな犯罪者とか事情がある犯罪者って例もあるから耐性ある方だと思ってたけど、あそこまでイッちゃってるのはマジ無理。キモイ」
「わはははは変化! お前結構言うな! でも私も同意だアレは厳しい! 正直空元気みたいな乾いた笑いしか出ないくらいにはキッツイぞアレ!」
「白獅子でもそうなるよねー……僕も怪盗塩犬が来てくれた事がここまで幸せだなんて思わなかったもん。あの空間、完全に幸せの反対側のアレコレを集約して煮詰めてドロドロになってる感じだったし」
何か追いかけてくる後ろで色々言ってるみたいだけど、俺としては必死に逃げている状況なので何もわからない。
というか本当に何があったんだ。
……うう、ターゲット……。
今日狙っていたお国殺しは、撫子家の家宝かもしれないという話だった。
だから狙った。
「それとあの男は性質上……というかあの性格上、絶対に記録を自主的に残してると思うんですよねぇ。記録を参照するだけで気分が悪くなるようなアレソレを見て悦に浸ってるでしょうからぁ、ぜひとも探して警察に見せてくださいね」
そんな感じの出だしでベルギアさんに軽く説明されたが、その内容は何とも酷いものだった。
いじめは駄目だし、いじめられた側はその恨みを忘れないという。
そしていじめた側は軽い気持ちでの、それこそちょっとした遊び気分でやるんだとか。
……だからって、なあ。
酷い目に遭ったから酷い事をやり返すだとか、死ぬような目に遭わされたから死ぬしかない状況下まで追いつめるとかはどうなんだろう。
事情を考えれば、そしてそれだけの気持ちを抱くような事をされたというならば一方的に否定は出来ない。
だからといって、肯定など出来るはずもない行為だけれど。
……だって、他の人まで巻き込まれてる。
根尾の性格からすると、恨みを持っている相手については事細かに覚えているのだろう。
だから相手の遺髪から作ったダイヤで飾りを作ったり、相手の遺骨を土台にした彫り物細工を作ったりが出来る。
何ならそれらに向かって、元となった人の名前で呼びかけながら何をされたかを話しかけたりするらしい。
「まったくもうお前ってば本当斜め後ろの席になったが最後って感じの席だったよね! 突然アイツ嫌じゃない? うざくない? とか言って人を貶したりしてさ! そんなんだから遺骨を燭台飾りに使われるんだよまったくもう! 僕はお前に根性焼きされた事を絶対に忘れないからな!」
大体こういう感じで話しかけるそうだが、想像するだけで狂気が凄い。
一刻も早く警察に逮捕してもらって社会から隔離したいタイプの存在だ。
事情があるとかどうとかそれ以前の、道徳的な問題の気もしてくる始末。
……あ、もしかして瑠璃さん達もそんな根尾節にやられたとか……?
これだけの取り乱し様を見るとあり得る気がしてきた。
というか思い返せばそういう感じの事を言っている。
……モダン大吉の時もそうだったけど、俺って本当に気付くのが遅い……!
しかし瑠璃さん達には申し訳ないが、彼については知ってもらわなければならなかったのだ。
危険という意味では当然だが、実は既に彼の同級生……というか彼に対する加害者だった人達は既に全滅状態にあるらしい。
が、根尾が居ては無関係の人が社会復帰不可能になるんだとか。
「あの男はですねぇ、どうも加害者だった人達を雇っている仕事場も憎しみの対象みたいでしてぇ。坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、ってヤツですかねぇ。とにかくそういう事で、ただそこに所属していただけの無関係な方まで一緒に失業したりしてるんですよぉ。そこまではまだ良いんですがぁ、問題は新しい仕事が見つからないよう根尾が手回ししちゃってる部分ですねぇ」
ベルギアさん曰く、そういう事だった。
何でもそこに所属していた人間を雇うな、みたいな事を権力と金を使って周辺に伝えているらしく、巻き添えを食らって失業すると再就職が出来ない状況下に陥る人が多いそう。
合併吸収とは言いつつも実際は食い潰すようなものらしく、その手腕で会社自体は大きくなるし顧客からすれば満足行く仕事らしいが、元からその会社に勤めていた人達はほんの一割が残れるかどうか、という具合だそうな。
無関係な立場、それこそ顧客側からすれば根尾に吸収された方が良い物を得られるが、しかし巻き込まれた側としては堪ったもんじゃないだろう。
……ベルギアさんも、そうやって失業して再就職が出来なくてお金に困ってる人がよく死んだ顔で質屋に来るのを見てるらしいし。
時間が経過する程、そういう人達の悲惨さは増すんです。
ベルギアさんはそう言って溜め息を零していた。
だから今回、俺はここへ来たんだ。
……お国殺しが俺の家の家宝かどうかはわからないし、仮にそうだったとしてもすぐにどこかへ流される物でも無い。
その為、緊急性がある方が優先される事もある。
が、今回はこちらの方が緊急性と危険性が高いと判断された。
……だけど、こうも追われてると……!
逃げ足は速い方だと自負しているのにどうにも撒けない。
めちゃくちゃ追いつかれそうになってて本当危険。
根尾による明るい闇を直接ぶつけられたのだろう彼らが泣きそうだったりもう既に泣いてたりしながら、そんなヤツと関わる事になった原因とも言える俺を追うのはわかるけれども、だからってそんないつも以上の熱量を出さないでも良いじゃないか。
……そんなに怖かったのかな。
多分そんなに怖かったんだろう、と思う。
人は必死になると通常以上の力を出せると言うが、ここで発揮しないで欲しかった。
「本っ当に駄犬だな貴様は!」
「え、うおわあっ!?」
声がしたと思ったら、空いている窓の向こう側から手が生えてこちらの胸倉を掴み、外へと引きずり出された。
突然の事に、俺を追っていた警察達が立ち止まったりぶつかったりで見事な雪崩を起こしてる。
「って、モダン大吉!」
「黙っていろ駄犬。判断力が高い警察が居る前で居場所をバラすような声を立てるな。音も殺せ」
さもなくば落とす、という言葉は口パクだった。
無音で殺されるという恐怖からコクコク頷く。
この男、ナチュラルに怖いから困るのだ。
……最初は被害者だと思ってたけど、あの時からわりとそうでも無かったのかな……。
自由を奪われていた人生を送って来ていたはずだが、自由になった途端に超怖い。
いや、自由じゃない段階から苦手なタイプではあったけれど。
……アレだな、どうでも良い格下扱いから気に食わない敵って扱いになったからダイレクトに敵意が刺さるというか……。
敵扱いされるいわれは無いはずだけれど、狐仮面に助けられている身という自覚はあるし、恐らくそこが彼の地雷部分。
そう考えれば、全力で地雷を踏みつけた上でダンスしてるのはこちらの気もした。
「…………」
胸倉を掴んだまま、モダン大吉はワイヤーのような物のスイッチを入れてキリキリと巻き上げられ、屋根の上まで移動する。
どうやら鉤爪のような物があるワイヤーらしく、自動で巻き上げるタイプの釣り竿みたいな作りになっているらしい。
……それにしたって成人男性二人分の体重を相手に……。
まあ釣り竿というのは結構な重量相手でも頑張ってる気がするし、マグロだってアレ大きいのは結構な重量だったはずなので、それを一本釣りする人も居ると考えればそのくらいの耐久性はあって当然……なんだろうか。わからん。
屋根の上に着地してこちらの胸倉から手を離したモダン大吉は手によるジェスチャーで向こうに行くぞと告げ、低いとはいえヒールがあるブーツなのに足音を立てず素早く走る。
完全に無音とはいかないがこちらもそれについていくと、モダン大吉は向こう側に到着すると同時に縁部分を掴み、ひょいっと跳んだ。
驚きに覗き込めば、真下の窓が開いている。
……あ、俺のところに来る前に開けた……もしくはここから向こうに来たのか?
ともかく、俺もそれについて行き窓枠を踏み台にして廊下に着地する。
「……貴様は逃げるしか能が無い癖に手段が阿呆としか思えん程少ないな」
「いきなり何だ!」
「事実を言っているだけだろうが吠えるな犬」
ハァー、とモダン大吉は心底嫌そうな顔をする。
仮面越しだというのにありありとわかる表情にイラッとした。
「まず靴。音を吸収して相殺するような靴を用意しろ。貴様は逃げる時になりふり構わないから素早く逃げられるが、その分足音だのを気にしなさ過ぎる。勿論歩き方によって音が響くかどうかを分けられる代物の方が錯乱にも使えるだろうがな」
「うっ」
思い当たる節があり過ぎて心に刺さる。
確かに走る事自体に必死になり過ぎて、そういうのを気にした事は無かった。
大体は走り回っていればわりと撒けたし、限られたフィールドで逃げる時は狐仮面が助けてくれたし。
……あ、こういうのもモダン大吉を苛立たせる原因か……。
迷惑を掛けるな、とは再三言われているが、こういう無自覚な部分もモダン大吉の地雷を踏み抜いているのだろう。
そんなモダン大吉は顎を動かして行き先を告げ、歩き始める。
「それと手品が使えるなら全力で利用しろ。猫だましのような部類の手品を使って撹乱、離脱! 偉そうな事を言う前に自力でああいった状況から脱せるようになれ!」
「…………お前結構教えてくれるよな、そういうの」
「貴様が俺の腸を煮えくり返す程に無知蒙昧だからだが?」
本気の怒り顔を向けられた。
青筋が浮かんでるし口元が引きつってるし尋常じゃない圧が全身を刺すようだった。
「俺は貴様の手伝いをしたくない。俺は誰かを助けたいという気持ちも無い。わかるな? 俺にあるのは狐仮面への敬愛。そして薊様への崇拝と信仰だ。他に俺がこの活動をする理由は無い」
言い、モダン大吉はふんと鼻を鳴らす。
「わかったら貴様一人でどうにか出来るようになれ。嫌々ながらも駄犬の介護をしなければならない俺の気持ちがわかるか? 狐仮面と一緒に居られるならともかく、貴様がミスを犯せば俺か狐仮面のどちらかがフォローに回るからと別行動になるし……ああ忌々しい」
隠れる必要は無いという事なのか、モダン大吉はカツカツとヒールの音を響かせて歩きながらそう溜め息を吐いた。
「……ここだな」
「あ」
モダン大吉が当然のように鍵開けアイテムを使って開けて中に入った部屋は、ベルギアさんから聞かされていた取り引き部屋だった。
明らかに非合法なアレコレを根尾が依頼する時に使用する部屋だそうで、ここに色々な書類がある可能性も高いんだとか。
「俺は右の棚を探す。貴様は左の棚を探せ」
「え、協力してくれるのか?」
「俺はこれ以上狐仮面の手を煩わせたくない。そして貴様が素早く見つけられるとも思ってない。意味はわかるな?」
「お前本当に歩み寄る気が無いな……」
「あると思っているなら貴様の脳内は夢見る少女よりもお花畑だ」
またもや鼻で笑われた。
・
少し時間が掛かったが、どうにか棚にある証拠類を確保する事が出来た。
「大体この辺……というか多いな証拠書類!」
「遅い」
「まあ見逃しが無いようしっかり確認するのは良い事よね」
「うわ狐仮面!?」
ハァイ、と狐仮面は真っ赤な口紅が引かれた唇の端を吊り上げてひらりと手を振る。
集中し過ぎていたのか、狐仮面が来た事にまったくもって気付けなかった。
しかもモダン大吉に至っては見つけた物をテーブルに山積みにした上でソファに座って寛いでるし。
「いつの間に……」
「二分前くらいかしら。狐もそうだけど、ネズミも結構鼻が良いからこのくらいはすぐ追えるのよ」
にっこり微笑まれたけれど、ネズミとは一体。
最初の時にフクロウ使ってたし、ネズミも使役してるとかだろうか。
もしや前に見た、薊さんのところに居るネズミの如く毛艶が良くていい感じに太っていたネズミもやはり狐仮面の?
「で、はいコレ」
「え……うわわっ!?」
横向きで投げられたからどうにか無事キャッチ出来たが、曲がりなりにも刃物である銃剣を投げないで欲しい。
曲がりなりにもっていうか、この銃剣は曲がってないけれど。
「……また世話になってしまった」
「世話をする為にこの活動してるから気にしなくてもいいのよ?」
小首を傾げて当然のように言われても、そんな狐仮面の隣に居るモダン大吉の歯軋りがとんでもなくヤバいので甘え続けるのはちょっと。
油断した瞬間に喉笛噛み千切りに来そうで怖い。
「月夜ばかりと思うなよ……」
怖い。
底冷えするような低い声での呟きが本当怖い。
狐仮面は聞こえたみたいなのに困ったような苦笑するだけで止めようとはしてないし。
……狐仮面が言えば止まるだろうけど、その場合はモダン大吉にまた燃料が投下されるだけだもんなあ……。
それをわかった上での苦笑なのか、手に負えないという意味での苦笑なのか、どっちだろう。
「じゃ、私たちは目的を達成したし、あとは警察がここに来てこれらを認識したのを確認さえすれば即座に離脱が可能だから、ここらでお暇しようかしら。怪盗塩犬、一応聞くけれどそのくらいの動きは一人でも出来る?」
「色々世話になっている自覚も危うい自覚もあるが幼児扱いは勘弁してくれ!」
どうせプライドらしいものは元々無いけれど、それでも辛いものがある。
「大丈夫、って事で良いのね?」
「ああ。逃げるのは得意だ。探す事と確保する事と限られたフィールド内で逃げ隠れするのが苦手なだけで」
「怪盗として致命的じゃないかしら、ソレ」
「…………世話になる」
渋い顔になっている自覚はありつつ顔を逸らしてそう告げれば、まあそれがわかってるから手伝ってるんだけど、と狐仮面は苦笑した。
「逃げる事が出来るなら、目的を達成している以上は問題無いわね」
ソファの背もたれ部分に座っていた狐仮面は飛び降りるように着地し、モダン大吉も無言のままそれに続くように立ち上がる。
「それじゃ、ヘマしちゃ駄目よ?」
「ここまで尽力してやったというのに無様を晒すなよ駄犬」
「お前は俺に失礼過ぎるだろうが狸!」
窓から外へと離脱しつつの捨て台詞に思わず叫び返したが、二つの影は素早い動きで既に豆粒程の大きさになっていた。
モダン大吉の方はブーツとはいえ低めのヒールなのでそこまで違和感も無いが、狐仮面の方はあんな高下駄でよくあれだけのスピードを出せるものだ。
「ここか怪盗塩犬ゥ!」
「うおわっ!?」
背後の扉が勢いよく開いて瑠璃さんの叫びが響いた。
モダン大吉による煽りに返す為窓枠から身を乗り出していた俺は、うっかり驚きと音に対して反射的に頭を低くし、上半身を丸めるようにして、そのままくるんと窓枠の向こうに身が落ちる。
……いやあっぶな!
落ち切る前、咄嗟の動きで壁を蹴り飛ばして勢いを横へと移し、体勢を整えて着地する。
そのまま俺は間髪入れず走り出した。
……あの部屋に瑠璃さんが来たなら多分もう大丈夫!
証拠品は机の上に置いてあるし、モダン大吉がこれみよがしに大事そうなページを開いて置いていたのでどうにかなるだろう。
俺が持っていた分はモダン大吉にへと言い返す為にソファへと放り投げたが、その乱雑さから警察も手掛かりがどうとかこうとかでちゃんと確認するはず。
確認すれば後は証拠確保でどうにでもなる、はずだ。
……正直いってこの活動し始めてから元々社畜染みてた瑠璃さん達がより一層忙しそうだけど、うん、今だけだから……!
この町を中心にああいうヤバいヤツやあくどいヤツが居なくなって平和になれば、こんな活動を続ける理由も無くなる。
それまでは申し訳ないけれど、お付き合いしてもらおう。
・
ベルギアさんの待つ質屋に駆け込み、着替えて畳の上でぐったりと力を抜く。
出してもらった玄米茶が美味しい。
「ふぅん」
お国殺しという名の銃剣をまじまじと見ていたベルギアさんは、銃剣を番台の上に置いて扇子を手に取り、開く。
「撫子家とは無関係の品でしたねえ」
「えっ、そうなんですか!?」
「上書きというわけでもない家紋しかありませんしぃ、どこかから流れて来たんだと思いますよぉ」
扇子をパチリと閉じて置いたベルギアさんは、湯気を立てている湯飲みを手に取り、中に入っているココアを飲んでこくりと喉を動かす。
ほう、と息を吐く姿は色っぽい美女のようだ。
恰好が格好なので男性なのは見ればわかるけれど、雰囲気がそう思わせるものだった。
「実際、こういうのは結構あるんです。何せとんでもない秘密が隠されていると噂のお宝ですからねぇ」
「それがどうして偽物発生に?」
「どんな病気も治ると言われるユニコーンの角。大昔の話ですが、大陸の方ではイッカクの角をユニコーンの角と言い張って売ったりしてたんですよぉ。それはもう、高い値段になったでしょうねぇ。何せ実在しないはずの幻獣、または聖獣と呼ばれるユニコーンの角なんですから」
「希少価値か……」
呟けば、その通りだと言わんばかりのにっこりした笑みを向けられた。
成る程とってもわかりやすい。
……まったく別の品でも、それっぽく見えるなら押し通せるって事か。
何が本物かわからない状況下だから出来る行い。
本物だと言い張れば、それを信じる人も居る。
「ちょっと前では乱藤四郎という短刀が随分お安い値段でオークションに出されたりもしてましたねぇ。ゲームによる話題性が理由で、金儲け出来ると企んだんでしょう。ああ、勿論そこで売りに出された短刀は偽物でしたよぉ」
しかし、と再び扇子を手に持ったベルギアさんは扇子を開き、口元を隠してうっそりと笑う。
「そのオークションに入金した、見分けの付かない馬鹿者も一定数居たわけです。本物であるはずがない、とわかっている方も居たのかどうかは私の知るところではありません。ただ事実として、それっぽい形をした信憑性の薄い物にお金を払って買おうとする酔狂な人も居るのは事実、という事ですよぉ」
これもソレですねえ、とベルギアさんはパチンと扇子を閉じ、その先で番台の上へと置かれた銃剣を指し示す。
「撫子家とは無関係であれど、関係があるという可能性を示唆されれば……もしかしてを期待して買う者も居るという事です。もしくは手に入れる、ですかねぇ」
それは買う以外の手段を用いた、という意味だろうか。
「ま、要するには宝くじを買うようなものですねぇ。簡単に言えば」
「ロマンあるジャンルが途端にロマンも何もない物に!」
「基本的にロマンって大体が有料ですよねぇ」
ケラケラ笑って言われたが、ソレを言ったらロマンも何も無いような気がする。
確かに美術館もわりと有料だし何かしようとしたらお金掛かるし宝くじも買うものだけれど。
「しかしまあ、違うとわかったのは一歩前進ですよぉ。ヤバいヤツも一人減るわけですしぃ」
「それはそうですが」
「とはいえ、よく無事でしたねぇ火和良さん。今回は怪我くらいするかと思ってたんですけどぉ」
「負傷の帰還を求められていた……?」
「じゃなくてぇ」
扇子が開き、ベルギアさんの口元を隠す。
「警察である雛菊瑠璃。その部隊に新しく配属された方が居るんですよぉ」
「え、追ってきたメンバーは皆見覚えのある顔でしたよ?」
怪盗塩犬としても、そして薊さんのところで働いてた時、更には火和良として食事に行く時に見かけた覚えのある顔ばかりだったはずだが。
新顔なんて居ただろうか。
「じゃあ別行動だったんですかねぇ……かなり武闘派な中国人らしいので、一度体勢崩されると復活が遅い火和良さんは不利かと思ってたんですよぉ。逃げる事こそ出来ても、そこから巻き返せるタイプじゃありませんしね」
「正直に言えば良いってもんじゃないんですよ!」
俺の周りに居る人はどうしてこう正直過ぎて心を貫いてくる発言が多いんだ。
あとそういう重要情報は先に教えておいて欲しかった。
ベルギアが陳霞について言わなかったのは不確定要素多い中でも乗り越えられないと今後やってけないだろうな、という優しいスパルタ精神によるもの。あと怪我くらいするかもだけど火和良さんなら何が何でも逃げられるでしょうしぃ、という信頼。




