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エーテル・グレイス  作者: クロビー
序章 アルストラ王国編
27/72

魔法と超能力

 家に着いた頃には太陽が半分覗いており、森もかなり明るくなっている。


「アスカルはこれからどうするのだ? 吾輩は少し眠たいから寝るつもりだが」

「俺は一度街に戻るよ。夜中にずっと居ないとなると心配されていそうだし」

「ではまた昼に会うとしよう」


 エナはそう言うと眠たそうにしながら家の中へと入っていった。


 俺は森の中を歩いて平原へと出る。

 森の中はエナに運んでもらうことが多かったので途中で迷いそうになったが、なんとか森を抜けることができた。


 街の近くの小川があるところまで来ると街の門が見えた。

 朝早いというのに門は既に開いており、商人の馬車が門を通って外へと出ている。


 俺は門を通って街の広場へと来た。

 時計の針は午前六時を指しており、まだ人通りはそう多くない。店や屋台もまだ営業していないところがほとんどで、ギルドもまだ開いていなかった。


 宿は既に開いているみたいだったので自分の部屋に一旦帰ることにした。

 森の中を歩いて来て、服に土や葉が付着して少し汚れているので服を着替えておきたい。


 俺が宿に入るとカレンさんはカウンターで小さな寝息を立てて寝ていた。相変わらず綺麗だ。


 こんなに朝早くに起こすのは悪いかなと思いつつも、鍵がないと部屋に入れないので起こすことにした。


「カレンさーん、起きてくださーい」

「う〜ん……こんな早くから誰……?」


 カレンさんはそう言って顔を上げて目を擦るが、まだ目はほとんど開いていない。


 普段の口調を聞いているとしっかりとしている人に見えるが、どうも俺は気の抜けているカレンさんを見ることが多い気がする。


「俺です。アスカル=トキサカです」


「アスカルくんか〜……ってアスカルくん!? ごめんなさい。こんなだらしない姿見せちゃって」


 カレンさんは俺に気づくと体を起こし、大きく伸びをする。その際に大きな胸が強調されて目のやり場に困る。


「昨日の夕方に出かけたと思えば帰ってこないから心配したけど……、その必要はなかったみたいだね」


 俺の顔を見て何をしていたのか察したらしい。

 カレンさんは何も聞いてこないけど、それとなく助言してくれるのは西園寺先生と同じで大人っぽく感じる。


「割とシェリアさんに背中を押された気がしますけどね」


「それでいいんじゃない? 最終的にどうするか決めたのはアスカルくん自身なんだから」


 そう言いながらカレンさんは鍵を取り出そうとする。


「そういうものなんですかね……」


 いつもの調子で言おうとしたが、声が少し暗くなった気がした。


 人に頼るのは悪いことではない思うし、それを否定するわけではないが、人に頼ることは自分が未熟なのではないかと感じてしまうのだ。


「そういうものよ。後でシェリアちゃんにお礼を言っておきなさいね」


 カレンさんはいつもの明るい口調でそう言った。

 この人は酒さえ入っていなければまともな人だというのを忘れてはいけないな。


「そうするよ。カレンさんもありがとう」


 カレンさんにお礼を言って俺は鍵を受け取って、自分の部屋へと向かった。


 図書館で調べたいことがあるのだが、八時開館なので約二時間暇だ。

 ギルドに行くにしてもあと一時間はあるし、そもそもギルドにもシェリアさんくらいしか用がないので図書館に行く際に寄るつもりだ。


 それまでは寝てもいいのだが今はエナから少しだけ教わった魔法というのをこの部屋の中でできるものをしたい。

 なので服を着替えて早速試すことにした。


「光よ輝け〈トーチ〉」


 手のひらに光の粒子が幾つも集まって塊となったものが現れた。

 元々部屋が明るいので分かりにくいが、少しだけ部屋の中を明るく照らしている。

 カーテンを閉めておくべきだったかもしれないな。

 魔法なんて見られたら騒ぎになってしまうかもしれないし。


 そんなこんなで魔法に熱中していたらあっという間に時計の針が八時を過ぎていた。

 図書館とギルドはもう開いているはずなので、シェリアさんにお礼を言うべく、まずはギルドへと向かうことにした。


 何故楽しい時間というのはこうも時間が経つのが早いのだろうか…。


 それにしても魔法や魔術といった、やっていて楽しいことがあってよかった。

 この世界にも娯楽はあるのだが、金が余っているわけではないので買おうとは思わない。


 冒険者は誰でもなれるというメリットがあるが、命の危険が伴うし、実力がなければ稼げないというデメリットが痛い。


 ドアを閉めて、階段を下りていく。一階からはカレンさんの声ともう一人、男の声が聞こえてきた。

 俺は鍵を渡そうとカレンさんに声をかける。人と話している人って話しかけにくいんだよなぁ。


「カレンさん、鍵を預けたいんですが……」

「お、ちょうどいいところに来たね」


 カレンさんは先程まで話していた男と会話を打ち切って俺から鍵を受け取る。


「ちょうどいいって何がです?」


 俺がそう言うとカレンさんと話していた男がカレンさんに背中を押される。


「今日からこの人も働くから、私がいないときはこの人に鍵を渡してね」

「え!? まだ働くと決めたわけじゃ――」

「それじゃあ、後はよろしく〜」


 カレンさんはそう言うと宿を出て何処かへ行ってしまった。自由な人だ。


「はぁ……。相変わらず人使いが荒いなぁ……」


 男は去っていくカレンさんを見て、呆れたようにため息をつく。

 そしていつもカレンさんがいる場所に座った。

 カレンさんが頼むってことは信用できる人なのだろう。


 ギルドに行こうとして宿屋を出ると、ギルドの入り口にシェリアさんがいた。

 一昨日もこんなことがあった気がするな。せっかくだし今お礼を言っておこう。


「おはよう、シェリアさん」

「あはよう、アスカルくん」

「一昨日はありがとうございました」

「気にしないでいいわよ。大したことしてないし、あれは私の癖みたいなものだから」


 シェリアさんは謙遜する。


 癖……というよりは性格なんだろうなぁ。子供の相手とか得意そうだし、見た目を除けばお姉さんみたいだ。


「アスカルくんは何処に行ってるの?」

「図書館に行くところです。調べたいことがあるので」

「よく図書館行ってるけど、それだけ本が好きなのね。それじゃあ、行ってらっしゃい」

「はい、行ってきます」


 シェリアさんに別れを告げて、図書館へと向かう。


 図書館に行くのは本が好きというよりは、知りたいことが多いからだ。

 見知らぬ土地で生きていこうと思ったら、その世界の常識を知らないといけない。この世界に限らず、生きていく上で無知は危険だ。

 俺が何も知らずに夜の平原に行って死にかけたように。


 今日、図書館に行く目的は吸血鬼について現代ではどういう認識をされているか調べるためだ。


 人に聞くのもいいのだが、もし今でも敵視されているなら俺が怪しまれる可能性もあるし、逆に今は関心が無くて、情報を得られないという可能性もある。


 俺はいつもの図書館へと歩き出した。

 街では既に開店している店が多く、人通りも増えている。


 図書館に行く途中で魔術学院の近くを通る。今はちょうど生徒が登校している時間のようで、ちょくちょく見かけた。


 俺と同じくらいの子や歳上そうな子も学院に通っているので、街の人に「学院はどうしたの?」と声をかけられる。

 サボっているように見えるのだろう。複雑な気分だ。


 身長が百七十センチあるから一応誤魔化せてはいるが、それだけ俺が学生っぽく見えるのだろうか?

 いや間違ってはないし、むしろ合ってるけど。


 街の人に積極的に挨拶をしている子もいれば、消極的な子もいる。

 文化は違えど、どこの世界でも人は同じようなものらしい。


 そんなことを思いながら図書館へと足を運んだ。

 図書館はまだ利用者はほとんどおらず、静寂を破るのは時折本のページを捲る音だけだ。


 本棚に沿って移動し、神魔大戦に関することが記載されている本を手に取る。

 ページを捲っていき、吸血鬼に関して載っているページを開く。


 最初のほうはエナが言っていた吸血鬼の特徴も書かれており、読み進めていくごとに知らないことが書かれていた。




 吸血鬼、三大希少種族の一種族。

 絶大な力を誇り、当時は魔族に加担する人類に仇なす存在だと言われていたが、今ではどちらにも属しておらず人類の敵ではなかったという意見も見られる。

 実際に吸血鬼によって被害を受けたという資料は見られず、魔物を操って人々を襲っていたという見方が一般的とされている。

 当時もほとんど姿は見られなかったが、神魔大戦終結直後に目撃された以降は影も形も無い。

 最後に目撃されたのは神魔大戦終結直後だ。その吸血鬼は正体を隠して孤児院の子供に成りすましていたが、ある日その正体が露見したという。

 目撃者によれば、魔物が突然現れた際にその少女が正体を現し、魔物を倒してしまったと言われている。

 その後、討伐隊によってその吸血鬼は討伐された。

 その吸血鬼の行動や複数人目撃者がいたことから当時は騒がれ、そのことが人類の敵ではなかったと言われるようになったのではないかと多くの学者は語っている。

 その吸血鬼が最後の目撃された者であり、以降その姿を見た者はおらず、過去の資料も少ないことから今では人々からの関心は薄れている。




 この本には吸血鬼のことはあまり詳しく載ってはいなかったが、今の俺にはこの程度で十分だ。


 どうやら今では吸血鬼は悪く思われていない……というより、関心が薄いようだ。

 それに最後に目撃されたとされてる吸血鬼はエナだろうな。

 エナが話した過去と一致している。

 討伐されたことになっているみたいだが。

 そこはアランさんの配慮だろうか?


 次のページは吸血鬼のことではなく、魔法のことが書かれていた。

 街で聞かないからてっきり知られていないのかと思ったが、どうやら認識はされているらしい。


 気になって読み進めていくと驚くべきことが書かれていた。


 魔法は三大希少種族である吸血鬼・精霊・龍とエルフしか使うことができず、人間や亜人は使うことができない。


 これはエナからは説明が無かったことだし、俺に魔法の訓練もさせたことから知らなかったのだろう。

 一部の種族にしか使われないではなく、正しくは一部の種族にしか使えない……か。


 俺は魔法を使えた。今日も一人で使っていたはずだ。

 だがこの本には人間が使えるとは書かれていない。


 異世界人なら使える可能性もあるが、それならばこの本に記載されていてもおかしくはない。

 なんせ、過去にも"勇者"という異世界人がいたのだから。異世界人だから使えるという可能性は低いだろう。


 俺は悩んだ結果、超能力者は使えるのではないかという考えに至った。

 だがそうすると、今まで特に疑問を持っていなかった超能力について気になって仕方がなかった。


 超能力で魔法陣が破壊できるのは、超能力を使ったからだ。

 だが超能力者だから魔法を使えるとなると、疑問を持つのは当たり前だった。

 この世界のものではないはずなのに、まるでこの世界のものかのように思えたからだ。


 本を閉じ、他の本に超能力のことが書かれていないかと探してみたが、そんなものはあるわけがない。時計の針は真上を指し、昼が来たことを告げていた。

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