霊光花
お互いのことを打ち明けたが、暗すぎてなんとも言えない雰囲気になっている。
暫くお互い何も話せないでいたがエナが口を開いた。
「アスカルも波乱万丈な人生を送っておるのう」
「俺には家族が居たからエナに比べたら救われた方だけどな」
俺はまだ玲奈や親父が居た分救われたかもしれないが、エナは最終的には一人ぼっちになってるからな……。
「そのエナの髪を結んでるリボンってその……フィーナって子から貰ったものなのか?」
「これのことか。確かにフィーナから貰ったものだ。すっかりボロボロになってしまったがの……」
エナは髪を結んでいる黒いリボンを触りながらそう言った。
ボロボロになっても着けているということは、それだけフィーナちゃんが好きなのだろう。
ただ、フィーナちゃんもアランさんも話を聞いた限り寿命で亡くなっているだろう。
神魔大戦は街の図書館の本で見たくらいだけどもう三百年は前の話だからな。
エナにとってのアランさんやフィーナちゃんは、俺にとっての親父と玲奈みたいな感じだろうか?
「吾輩とアスカルは似ているようで似ておらんのう。アスカルは親を殺され、吾輩は捨てられた。孤児院では吾輩は輪の中に入り、アスカルは孤独。最後は互いにその逆になってしまったがの」
確かに似てない。むしろ真逆なまである。
だからこそ、エナに惹かれたのかもしれない。遺伝子が違うほど惹かれるって聞くからな!
まあ、冗談はさておき、エナの言った通り似てるようで似てないんだな。俺達は。
そう考えると、自然と笑みが溢れていた。
ていうかエナって一体何歳なんだろうか?
神魔大戦の時に生きてたってなると三百歳は越えてそうなんだが……。
「答えたくないなら答えなくてもいいんだけど……。エナって何歳なんだ?」
女性に年齢を聞くのは失礼だと知りながら、恐る恐る聞いてみることにした。
エナは少し考える仕草をすると確信が無いように答える。
「多分三百は超えておるであろうな。細かい歳は分からぬ」
「それって中身はお婆ちゃ――」
俺がそう言うと顔の横に凄まじい勢いで握った拳が繰り出される。当たったらただじゃ済まない強さだ。
「いくらアスカルでも言って良いことと悪いことがあるぞ?」
「……ごめんなさい」
エナは綺麗な笑顔でそう言ったが、目は笑っていなかった。後の一言が余計だったな。
「中身はあれでも見た目は十一歳から変わっておらぬからな」
これ元の世界だったら事案になるやつだ。多分街の中を歩いているだけで変な目で見られる。
「吾輩と一緒に居る限り、世間からはロリコン扱いじゃのう」
エナは俺をからかうような笑みを浮かべてそう言った。
「まぁ待て、俺はまだ十七だ。八歳差なら…………駄目な気がする……」
八歳差とはいえ、高校生が小学生と一緒に居るとか今の世の中だと高校生が変態にしか聞こえねぇ。
こっちの世界の価値観は分からないから何とも言えないが、エナと一緒にいるところをクラスメイトに目撃されたくないな……。
「それより、これからも呼ぶ名前は偽名のままのほうがよいのか?」
「あぁ、偽名のほうで呼んでくれると助かる」
これから行動する上で、恐らく本名は当分使うことは無さそうだしな。
それからもエナとお互いのことを話していて、そこそこ時間は経ったかと思ったが外はまだ暗く、夜は明けない。
空には大きな満月が光り輝いており、地上は薄暗く照らされていた。
「満月か……。少し散歩をせぬか?」
「まぁ…いいけど。魔物がいるんじゃないのか?」
「吾輩がアスカルを背負って飛べばよかろう」
そう言うとエナは俺の袖を引っ張り、早速外へと出ようとする。
夜目が効くのはこういうときに有り難いな。エナも吸血鬼だから夜目が効くのだろうか?
外では森の草木が風に吹かれて揺れており、葉の擦れる音や虫の鳴き声が聞こえる。
それはまるで自然が音楽を奏でているようです非常に心地良い。
エナは外に出ると俺を背負う前に魔術を使った。
「〈隠蔽〉」
エナが魔術を使ったみたいだったが特に何も起きなかった。身体に変化も無い。
「何をしたんだ?」
「吾輩とアスカルを他から認識出来なくしただけだ」
認識出来なくするだけなら光学迷彩と対して変わらない気もするが…、光学迷彩は完全に認識できないようにするわけじゃないから魔物には意味が無かったのかもしれないな。
「俺と始めて会ったときも散歩してたみたいだけど、ずっと同じ場所で同じ景色って飽きないか?」
「散歩は特に目的も無く出歩くものだ。吾輩はこの心地良い夜風が好きなのもあるのう」
エナはゆっくりと飛びながら移動しており、前から吹く風が心地良い。
何度も見た光景だが森は非常に広い。
「さっきから真っ直ぐ行ってるけどいいのか?」
「アスカルに見せたいものがあるのだ。きっと目を奪われるぞ」
エナは俺に早く見て欲しいのか飛んでいる速度が少し速くなった気がした。
エナが俺に見せたいものか……。一体なんだろう?
辺り一面木が生い茂っていて、何があるのか想像が出来ない。
エナは結界によって森の外には出られないから森の中に見せたいものがあるのは確かだろう。
「そろそろ着くぞ」
エナはそう言うと高度を下げ始める。
前方に木の生えていない明るく、少し開けた場所が見える。
その一歩手前の場所に降りて、木々の間を歩いて開けた場所に出た。
その開けた場所は綺麗な花畑だった。
そこに咲いている花は月のように白く光り輝いており、光の粒子が宙を待っている。
俺とエナはその花を踏まないようにしながら歩く。
その度に森の中や平原ではほとんど見かけなかった蝶々は二人の周りを飛び回り、歓迎しているかのようだ。
「こんなに綺麗な場所が森の中にあったんだな」
「たまたま見つけただけじゃがの。それにこの花が光るのは満月の夜だけじゃ」
満月……確か俺が夜の平原で見たときも満月だったな。
俺は腰を落とし、光り輝く花に触れると光の粒子が宙に舞う。
その光は暖かく、この花畑全体を包み込んでいるようだ。
魔物は一体もおらず、幻想的な光景はこの空間が別の世界だと感じさせるには十分だった。
「この花は何て言う名前なんだ?」
「吾輩も知らんのだ。ここでしか見たこともないからのう」
どうやらエナも知らないようだ。
俺も街の図書館でいろんな本を読んできたが、この花は見たことがない。
俺とエナはその景色を目に焼き付け、十分堪能して家に戻ることにした。
空も少し明るくなってきており、もうすぐで日も昇りそうだ。
「……霊光花。精霊が宿る花」
花畑には去っていく二人に見つからないように男が姿を現し、花の名前を呟く。
黒服を身に纏ったその姿は暗闇から突然現れるかのように木の陰から二人を見つめる。
「魔族の前にすら姿を現さない精霊。全く……僕も見てみたいものだ」
男は浅く被っていた帽子を少し深く被り、真紅の瞳で二人の飛んでいった方向をじっと見つめる。
二人の姿はもう見えず、霊光花の輝きは徐々に失われつつあった。
「突然、僕を呼び出したから何事かと思って来たけど……。中々面白いことが起きているじゃないか」
男以外は誰も居ない筈の花畑で、まるですぐ傍に誰かがいるように話す。
「そうか……。もう、三百年も経ったのか」
男はそう呟くと、二人の飛んでいった反対の方向へと歩き出し、暗闇の中へと消えていった。
俺は何か聞こえたような気がして、後ろの花畑の方を振り向いたが誰も居ない。あるのは白い花だけだ。
「今花畑の方から何か聞こえなかったか?」
「そうか? 吾輩は何も聞こえなかったぞ?」
エナは何も聞こえなかったと答える。俺の空耳だろう。いつも脳内で一人会話をしている所為かもしれない。
エナの家へと戻っているうちに遠くの山からは朝日が覗き、空に飛んでいる二人を照らしていた。




