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エーテル・グレイス  作者: クロビー
序章 アルストラ王国編
28/72

街中の戦闘

 図書館を出た後、昼飯を食べようといつもの飯屋に向かっていると周りに違和感を覚え、立ち止まって周りを見る。

 日中だというのに周りは静かどころか、人の気配すら無かった。自分だけ別の空間にいるような錯覚を受ける。


 立ち止まっていても仕方がないので、飯屋へ行こうと歩き出すと、突然風が俺目掛けて飛んできた。

 咄嗟のことでなんとか回避したものの、顔に切り傷ができて血が垂れる。


「今のを避けるか……」


 声がしたほうを向くと建物の陰からローブを羽織り、不敵な笑みを浮かべるフードを被った男が現れた。


 さっきの攻撃はこいつがしてきたのだろう。魔術を使ったってことは魔術師といったところか。

 ロロナ=ザイートとか言う城の魔術師もだが、魔術師というのはみんなローブを羽織っているのか? そんなに好きなの?


 まあ……、今はそんなことはどうでもいい。敵意を向けられてる状況で、そんな冗談を言うつもりはない。


「何者だ」

「お前に教える名前はねぇよ」


 何者かどころか、目的なども何一つ教える気は無さそうだ。


 応戦してもいいのだが、ここは街中だ。いくら人がいないとは言え、下手に魔術を使うと建物が壊れる可能性もある。


 なら……ここは逃げの一手だ。


「〈閃光〉!」


 俺の魔法陣を中心に光が弾け、男の視界を奪う。


 攻撃系魔法は範囲をきちんと調整しないと術者自身も巻き込むことがあるのだが、ちゃんと成功したみたいだ。エナの訓練のお陰だろう。


 男の視界を奪っている間に超能力で身体能力を向上させ、ギルド区へと向かう。

 ここは男を撒くのではなく、ギルド街へと向かうのを優先すべきだと判断したからだ。


 ギルド街なら冒険者が多く、いくらあの男が強かろうと簡単には追ってこれないはずだ。


 走っている間に、冒険者なら巻き込んでもいいと思っている自分に少し苛立ちを覚える。


 今までこういったことに負い目を感じることはあまり無かったのだが、この世界の人々と触れて少し変わったのだろうか?

 まぁ、今まで人間として駄目だったものが普通になっただけな気もするが。


 必死に走って十字路に出ようとする瞬間に嫌な予感がし、足を止めると目の前に雷が落ちた。


「おいおい、あんまり逃げないでくれよ」


 後ろから男の声がする。どうやら追いつかれてしまったみたいだ。

 あの男が身体能力強化の魔術を使ったなら追いつかれるのは仕方がないのだろうが、思ったより早い。


 もう一度〈閃光〉を使っても逃げるのも手だが、不意打ちが二度も通用するとは思えない。


 これ以上は逃げることはできないだろうと判断し、倉庫から刀を取り出して構えた瞬間、魔法陣に囲まれた。


 男が魔法陣を一度に三つも展開したことに少々驚いたが、初めて見るわけではないので冷静に対処する。


 魔法陣を破壊することもできたが、三つ同時となると流石に無理だ。そもそも一度に一つ破壊するのが限界なので防御することを選んだ。


「〈籠壁〉!」

「〈爆炎〉」


 二人はほぼ同時にそう言いうと〈籠壁〉と〈爆炎〉はほぼ同時に発動し、俺は炎に包まれる。


 なんとか防御が間に合って攻撃を防ぐことができたが、三回目の攻撃によって魔術の結界にヒビが入り、ガラスを割ったかのように崩れた。


 攻撃を防ぎきり、男に向って魔術で攻撃しようとしたが男が魔術を使う方が早く、魔術をキャンセル。

 急いで防御系の魔術に切り替える。

 魔術の実力で圧倒的に負けていて、攻撃の隙を与えてくれない。


 その後も防戦一方で、一向に攻撃の機会が得られない。

 超能力のお陰で魔力が底を尽きることは無いし、体の傷も治すことができているが、俺の集中力がずっと保つわけではない。


 その一方で、男は一向に疲れた様子を見せず、常に魔術を使い続けている。

 一体どれだけ魔力を持っているのか想像が出来ない上にとんでもない集中力だ。完全に俺を殺しにきている。


 仕方がない。超能力を使おう。こんなところで野垂れ死にするわけにはいかない。


 男は躱されることがないよう、必ず二つ以上の魔術を使っている。そのほとんどが、前後や左右といった挟む形だ。

 それなら、一つでも魔法陣を破壊すれば回避して攻撃を与える隙が出来るはず。


 男が魔術を使ってきたところで、目の前に現れた魔法陣を破壊。地面を蹴って、男に向かって一直線に走る。

 前に出たことで、後方の魔法陣から出てきた炎は俺には届かない。


 左手で〈雷撃〉を使い、わざと男の左側に当たるか当たらないかの際どい場所を狙う。


「おっと」


 男は地面を蹴って右に移動し、雷を避ける。

 その一瞬の隙を突くように、一気に距離を詰めて刀を振るう。

 だが、刀身はあと一歩のところで男の体には届かず、服に傷をつけただけだった。


 俺は急いで後方に跳び、体勢を立て直す。

 次の瞬間、俺が先程居た場所は爆音と共に炎に包まれた。

 その炎は燃え広がることはなく、すぐさま消えた。


 普通の人間相手ならいざ知らず、魔術師相手に深追いは禁物だな。

 なるべく相手に読まれにくい動きをしないと、いつ深手を負ってもおかしくない。


 再び男が魔術を使ってきたので、それを防ぎ続ける。

 これでは最初に戻っただけだ。

 だが、男に傷を負わせることは出来なかったものの、こちらから攻撃することは出来た。

 男の魔術を捌きながら、もう一度近づく。


 正面切っての戦闘は元々苦手だ。このままだとこちらが先に力尽きてしまう。


 男は魔術を連発しながら、一歩ずつ近づいてくる。それに合わせて、俺は一歩ずつ後ろに下がる。これ以上距離を詰められると、俺の魔術の展開速度では間に合わない。


 男はこのままでは埒があかないと思ったのか、足を速めた。


(今だーーっ!)


 戦闘中にこっそりと地面に仕掛けておいた魔法陣を起動させる。〈爆炎〉は男を呑み込むように、その炎が男の周りに広がる。

 男の視界が遮られている隙に、壁を蹴って男の後方へと移動する。あとは炎が消えると同時にあの男を倒すだけだ。

 俺は柄を握り締め、わずか数秒で男との距離を縮める。


 刀を振り降ろそうとした瞬間、男を包んでいた炎が消え、十字路のほうを向いていたはずの男と目が合った。


「しまっ――」


 刀を振り下ろすのをやめ、体を捻って躱そうとするも間に合わず、俺の体は壁に叩きつけられた。


 風穴が空いたのではと思うほどの痛みが全身を襲う。

 超能力である程度痛みが消えるとはいえ、完全に消えるわけではなく、体が言うことを聞かない。


 男は地面に仰向けに倒れている俺を好奇を含んだ視線で見下ろす。


「ったくよぉ……。さっさとやられてくんねぇかな」


 男はそう言うと、俺に向って魔術を放とうとする。

 俺は少しでも抵抗しようと、倉庫からナイフを取り出し、男に向けて投擲した。

 だがナイフは男には当たらず、数メートル先の地面に落ちた。


「おいおい、せっかくの隠し球も当てなきゃ意味がないぜ」


 男は俺に魔術を使おうとする。

 だがそれは何処からともなく飛んできた両剣によって防がれる。

 両剣は男の腕を掠めると地面に突き刺さった。


「チッ、どこの誰だ」


「貴方に名乗る気は無い……と言っておきましょうか」


 男が見えない相手に問いかけると上の方から声がした。

 声の人物は建物の上に立っていて、俺と男を一瞥すると俺の前に飛び降りて来た。


「今すぐこの場から消えてください。戦うというならばお相手しますよ?」

「チッ……めんどくせぇ。消えればいいんだろ?」


 男はそう言うと、地面に浮かんだ魔法陣から出てきた闇に包まれて何処かに消えた。


 まだ体に痛みは残っているが、ある程度は動けるため、立ち上がって助けてくれた人物にお礼を言う。


「ありがとう。助かった」


 そう言うと、その人は地面に刺さった両剣を抜いて俺を見る。

 身長は俺より少し低いくらいで髪は青色。服は白色の服を着ており、眼鏡をかけている。年齢は俺と同じくらいの青年といった感じだ。


「礼には及びません。ただ、貴方に死なれてもらっては僕が困りますので」


 死なれたら困る? 一体どういうことだろうか? 初めて会うはずだし……。


 この世界に来てからというものいろいろなことに巻き込まれ過ぎている気がする。

 でも、今回は巻き込まれたわけじゃなくて狙われたものだな。あの男は俺を殺す気だったわけだし。


「結界は既に解けていますし、他の者の気配はありません。ひとまず安心していいでしょう。僕はこれで失礼します」


 そう言うと、青年は何処かへ行ってしまった。

 路地から先に見える十字路には、いつの間にか人通りが出来ており、いつもの風景が広がっている。


 服の汚れは魔術でどうにか出来るため、人前に出ても問題はないだろうが……。

 肋骨が何本か逝ってるな……。超能力で治すことは出来るとはいえ、そこそこ時間が掛かりそうだ。


 路地裏とはいえ、先には十字路が広がっている。そのため、人目につく可能性は十分にあると思い、小さな物陰で俺は治療という名の改変を行った。


 どのくらい時間が経ったのかは分からない。動き回った所為か図書館を出たときよりも腹が減っていた。

 腹が減ってはなんとやらだ。足早に飯屋へと向かった。

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