(一)最後の一体
◆ 最後の一体
地上へ出ていた古代兵器をすべて破壊したあとも、ネアは遠くへ意識を向けたまま動かなかった。
兵器の残骸ではない。
その先にある地面を見ている。
「まだ一体、残っているんだな」
セトが尋ねた。
「ええ」
「どこだ」
「北東です。かなり深い場所にあります」
ネアは片手を上げた。
長い袖と羽衣の縁に、銀色の光が走る。
周囲の原光が細い筋となり、山の向こうへ伸びていった。
その先には、山と山に挟まれた広い窪地がある。
古代兵器の発掘が始まる以前は、木もほとんど生えていない荒れ地だったという。
「動いているのか」
「地上へは出ていません。ただ、原光は吸い続けています」
「なら、今のうちに掘り出して壊せばいい」
シアが言った。
「できるのであれば、その方がいいでしょうね」
「できないのか」
「大きすぎます」
ネアの視線は窪地の方角から動かなかった。
「これまで破壊した兵器とは、比べものになりません」
◆ 山の下の輪郭
翌朝、セトたちはローディア王国の国軍とともに窪地へ向かった。
近づくにつれ、地面に走る亀裂が増えていく。
細いひびではない。
場所によっては、人が落ちれば自力では上がれないほど深く、幅も広い。
亀裂の奥には、土や岩とは異なる黒い面が見えていた。
国軍の隊長が、亀裂の縁へ立つ。
「これが全部、兵器の外殻なのか」
「おそらく」
ネアが答える。
古代兵器の大半は、まだ山と地面の下に埋まっていた。
露出しているのは、上面の一部にすぎない。
それでも、端から端までは一目で見渡せなかった。
これまで倒してきた兵器なら、その全体が収まるほどの広さがある。
別の亀裂から、白い光が漏れている。
光は一定ではない。
弱くなったかと思えば、地の底で何かが脈打つように強くなる。
そのたびに周囲の草がしおれ、土の中から湿り気が失われていく。
「まだ出ていないのに、これだけ吸っているのか」
セトが言った。
「地上へ出れば、さらに多くの原光を必要とするでしょう」
「出てくる前に止める」
シアが亀裂の中をのぞき込む。
「ここから壊せないか」
「中枢の位置が分かりません」
ネアは目を閉じた。
「外殻の内側で原光が複雑に動いています。流れを追おうとしても、途中でいくつにも分かれています」
「全部壊せば、そのうち中枢に当たる」
「その前に地上へ出ます」
◆ これまでの方法
国軍は窪地の周囲に大砲を並べられる場所を探していた。
地図の上では、砲台を置ける広さがある。
だが、その地面の下にも古代兵器が埋まっている。
砲台を築いた場所そのものが、兵器の起動とともに持ち上げられる可能性があった。
「前と同じ方法は使えないのか」
隊長が尋ねた。
「極炎で外殻を裂く。絶光で再生を止める。中枢が見えたところを、こちらで破壊する」
「無理だ」
シアが即答した。
「まだ試していないだろう」
「見れば分かる」
シアは地面の亀裂を指した。
「これまでの兵器なら、一度裂けば内側へ届いた。これは外側だけで何層あるのか分からない」
「極炎の最大出力でもか」
「一枚や二枚なら裂ける。だが、中枢へ届く前にセトが持たない」
セトも、地面の下にある原光の流れを探った。
兵器全体の構造までは見えない。
それでも、これまでの兵器とは規模が違うことは分かる。
切らなければならない範囲が広い。
再生を止めなければならない範囲も広い。
二本の精霊剣を同時に扱える時間の中で、中枢まで到達できるとは思えなかった。
「絶光で兵器全体を止められないのか」
隊長がネアへ尋ねた。
「範囲が広すぎます」
「一部なら」
「止められます。ただし、止めた場所を避け、別の部分から再生するでしょう」
「ならば、絶光を動かしながら――」
「その間、極炎を十分に振るうことができません」
セトが答えた。
二本を持つことはできる。
だが、この巨大な兵器を相手に、両方を最大限に使い続けることはできない。
これまでのやり方を、そのまま規模だけ大きくすることは不可能だった。
※第18話「原光の止まる場所」は全六回です。
続きます。
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