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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第4話 魔剣の噂

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(一)火の聖剣

◆ 強い剣


 村に滞在して数日。


 セトの脇腹の痛みが治まり始めた頃、二人は宿屋の食堂で旅の商人と向かい合っていた。


「強い剣を探している?」


「ああ」


「できれば、火に関係するものがいい」


 シアが付け加える。


 商人は二人を見比べた。


「買いたいのか?」


「見るだけだ」


「触れられるなら触る」


「勝手に条件を増やすな」


 セトが止めると、シアは不満そうに黙った。


 先代イフリートを殺したものは、その力を奪った可能性が高い。


 黒刃は触れた精霊術を崩すことはできても、奪った力を蓄えておくことはできない。


 それとは違い、力を奪い、自分の中へ残しておける何かがあるのかもしれない。


 それが剣だとは限らない。


 だが、強い武器の噂を追うという方針に、今のところ代案はなかった。


 商人は顎へ手を当てた。


「火に関係する強い剣なら、一つ知っている。ここから北へ行ったところに、火の山があるだろう」


「知らない」


 シアが即答する。


「お前は知らなくてもいい」


 商人は苦笑してから続けた。


「その山の神殿に、火の聖剣が安置されているらしい」


◆ 火の聖剣


「聖剣?」


「勇者に力を与えた剣だとか、火の神が残した剣だとか、話はいくつもある」


「どれが本当だ」


「そこまでは知らない。俺も見たことはないからな」


 商人が知っているのは、旅人から聞いた噂だけだった。


 火の山には古い神殿があり、その最奥に燃える剣が安置されている。


 剣を握った者は炎をまとい、普通の人間では扱えない力を得るという。


「使い手を強くする剣か」


 セトが尋ねる。


「らしい。もっとも、今も力が残っているかは知らないが」


 シアが立ち上がった。


「行くぞ」


「まだ朝食が残ってる」


「食べながら行けばいい」


「器ごと持っていく気か」


 シアはテーブルの上にある皿を見た。


 真剣に考え始めたため、セトは先に残りを食べることにした。


 火の聖剣。


 名前だけなら、調べる価値はある。


 火に関係する強力な剣なら、先代イフリートの死と何らかの関係がある可能性も否定できなかった。


◆ 火の山へ


 村を出た二人は、街道を北へ進んだ。


 火の山までは、歩いて数日の距離だった。


 近づくにつれて木々は減り、地面を覆う草もまばらになっていく。


 黒い岩が露出した斜面から、白い蒸気が上がっていた。


「暑いな」


 額の汗を拭ったセトの隣で、シアは普段と変わらない足取りで歩いている。


「そうか?」


「お前には聞いてない」


「セトが言ったから答えた」


「火の精霊王に暑さを聞いた俺が悪かった」


 シアは立ち止まり、地面の割れ目から上がる蒸気へ手を入れた。


「何をしてる」


「火の流れを見ている」


「それで何か分かるのか」


「山の中に、大きな火の力がある」


「山なんだから当然だろ」


「そうではない。自然に動いている火とは別に、同じ場所へ集まり続けている」


 シアは山の中腹へ目を向けた。


 古い石段が、蒸気の向こうへ続いている。


「あそこだ」


◆ 山の神殿


 石段の先には、小さな神殿が建っていた。


 黒い石を積み上げた建物で、入口の左右には火が灯されている。


 神殿を守る老いた神官は、突然訪れた二人を怪しそうに見た。


「聖剣を見たい?」


「ああ」


「触ってもいいか」


「駄目に決まっている」


 神官が答えるより先に、セトが言った。


「触れなくていい。近くから見せてもらいたい」


「何のために」


「探している剣がある。その剣かどうか確かめたい」


「聖剣を探し物と一緒にされても困る」


 当然の反応だった。


 セトは事情をどこまで話すべきか考える。


 隣でシアが口を開いた。


「火の力を持つ剣を探している」


「なぜだ」


「先代の火が奪われた。それを持っているものを探している」


 神官の顔が険しくなった。


「先代とは、誰のことだ」


「前のイフリートだ」


 神官がシアを見た。


「お前は何者だ」


「今のイフリートだ」


「おい」


 セトが止める間もなかった。


◆ 名乗る少女


 神官は黙ってシアを見た。


 シアも黙って見返している。


 やがて神官が口を開いた。


「火の精霊王を名乗る者は、時折現れる」


「そうなのか」


「お前が驚くな」


 セトが小声で言う。


「本物だという証拠はあるのか」


 神官に問われ、シアは右手を上げた。


 炎が生まれる。


 入口の左右に灯されていた火が、シアの手へ向かって傾いた。


 神官が目を見開く。


 シアが指を動かすと、二つの火は細い輪となって空中を回り、元の灯火へ戻った。


「これでいいか」


「普通の術士にもできるんじゃないか」


「セトは黙っていろ」


 神官はしばらく考えた後、神殿の中へ二人を通した。


「触れることは許可できない。見るだけだ」


「分かった」


 シアが答える。


「本当に分かってるな?」


「セトはわたしを何だと思っている」


「剣を見ると触ろうとする奴だ」


◆ 燃えない剣


 神殿の奥は、山の岩盤を掘り抜いて作られていた。


 壁の割れ目を赤い光が流れている。


 熱を帯びた精霊力が、細い流れとなって最奥へ集まっていた。


 その中心に一本の剣がある。


 黒い岩で作られた台座へ、刃を下にして突き立てられていた。


 刀身は暗い赤色で、金属とも石ともつかない。


 炎をまとってはいない。


 だが、周囲の空気が揺らぐほどの熱を発していた。


「火の聖剣だ」


 神官が言った。


「かつては刀身から炎が立ち上り、近づくだけでも身を焼かれたという」


「今は違うのか」


「見ての通りだ」


 シアは剣の前まで進んだ。


 張られている鎖の手前で足を止める。


 触れるなという約束は守った。


「どうだ」


 セトが尋ねる。


「火の力を蓄えている」


「先代のものか?」


 シアは答えず、剣を見つめ続けた。



※第4話「魔剣の噂」は全三回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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