(二)聖剣と魔剣
◆ 蓄えられた力
「違う」
しばらくして、シアが言った。
「分かるのか」
「ああ。先代から奪った火は感じない」
剣の中にあるのは、この山の火だった。
壁や地面を通じ、長い時間をかけて少しずつ集められた力。
「この剣は、山の火を蓄えているのか」
「ああ。集めた力を中へ残し、必要な時に使う」
シアは火の聖剣を見たまま続けた。
「こういう剣を、人間は聖剣と呼ぶことがある」
「こういう剣?」
「力を蓄え、それを使い手へ与える剣だ」
神官が怪訝そうにシアを見る。
「聖剣を知らなかったのか」
「人間が何と呼ぶかは知っている。だが、その呼び方はあまり正確ではない」
「どういう意味だ」
「同じ仕組みの剣でも、人間を害するものは魔剣と呼ばれる」
「魔剣?」
「人や魔物、精霊術から力を奪い、中へ蓄える剣だ」
「それは、聖剣とは別のものではないのか」
「力を蓄え、必要な時に使う仕組みは同じだ」
シアは岩壁を流れる赤い光を指した。
「この剣は山から火を集めている。人間を傷つけず、長い間守られてきた。だから聖剣と呼ばれている」
「魔剣は、人や魔物から奪うのか」
「そういうものが多い」
違うのは、力の集め方と人間からの扱われ方だった。
剣そのものの仕組みに、大きな違いがあるわけではない。
◆ 聖と魔
「なら、聖剣か魔剣かは、人間が決めた呼び名なのか」
セトが尋ねる。
「ああ」
「剣そのものに善悪があるわけではない?」
「剣に意思があるとは限らない。使う人間と、力の集め方が違うだけだ」
火の聖剣は、この山から少しずつ火の力を受け取っている。
誰かを襲わなければ力を保てないわけではない。
一方、魔剣と呼ばれるものには、周囲の生き物や精霊術から強引に力を奪うものがある。
「先代の力を奪ったものも、魔剣かもしれないということか」
「剣なら、その可能性がある」
「だが、人間から聖剣と呼ばれている可能性もある」
「ああ。名前だけでは分からない」
人間が付けた呼び名と、実際に蓄えている力が一致しているとは限らない。
聖剣と呼ばれていても、別の何かから力を奪っているかもしれない。
調べるべきなのは名前ではなく、その中に何の力が残っているかだった。
◆ 二十年前
「この剣が最後に使われたのはいつだ」
セトが神官へ尋ねた。
「二十年ほど前だ」
「誰かが持ち出したのか」
「いや。この神殿で力を解放したと記録されている」
その時、剣が長年蓄えてきた火のほとんどを使い切った。
それ以降、刀身から立ち上っていた炎は消え、山から少しずつ力を集め直しているという。
「二十年前から、ここを動いていないのか」
「ああ。私の先代も、その前の神官も管理している。台座から抜かれた記録はない」
先代イフリートが殺されたのは、およそ二年前。
この剣が二十年前に力を使い切り、それ以降ずっと神殿にあるのなら、先代殺害には使えない。
「違ったな」
セトが言う。
「ああ」
シアは火の聖剣を見ていた。
「だが、探すものは少し分かった」
「先代の火を蓄えている剣か」
「剣とは限らない」
「それは分かってる」
「だが、こういうものなら、奪った力を残しておける」
火の聖剣は先代を殺したものではなかった。
それでも、力を奪ったものが何をしているのか、その可能性の一つは見えた。
◆ 王都の聖剣
神殿を出る前、神官が二人を呼び止めた。
「力を蓄える剣を探しているなら、王都にも聖剣がある」
「火の剣か?」
「いや、光の聖剣だ」
王都の大神殿には、太陽の光を蓄える聖剣が安置されている。
百年以上前から存在し、剣を持った英雄へ光の加護を与えたという記録も残っていた。
「火の剣ではないなら関係ない」
シアが言う。
「先代の火を蓄えている可能性はある」
セトが答えた。
「光の聖剣と呼ばれていても、光だけを持っているとは限らないんだろ」
シアは少し考えた。
「確かにそうだな」
「調べる価値はある」
「なら行く」
火の山を下りた二人は、そのまま王都へ向かうことにした。
火の聖剣は違った。
だが、空振りというだけではない。
聖剣という呼び名だけで、調査から外してはいけないことが分かった。
※第4話「魔剣の噂」は全三回です。
続きます。
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