(三)二本の剣
◆ 二本あれば
シアは倒れた魔物ではなく、セトの両手を見ていた。
「なぜ、消してから作り直す」
「白と黒では、制御が逆だからだ」
「だが、さっき迷っていた。二つとも出せるんだろ」
また気づかれている。
セトは白刃を消した。
「出せるだけだ」
「見せろ」
「誰にも言わないという約束は覚えてるな」
「ああ」
採石場の入口へ、人がいないことを確かめる。
セトは右手へ白い光を集めた。
左手からは光を押し出す。
右に白刃。
左に黒刃。
正反対の二本の剣が、同時に形を得た。
シアが目を見開く。
驚いたというより、面白いものを見つけた顔だった。
「できるじゃないか」
「作るだけならな」
「戦えるのか」
「一応は」
「なら、さっきも使えばよかった」
◆ 邪道
セトは二本の剣を交差させた。
白刃は周囲の精霊を集め続ける。
黒刃は周囲から精霊を押し出し続ける。
反対の制御を同時に行うため、一本だけの時より集中が必要だった。
できないわけではない。
幼い頃から繰り返してきた動きだ。
それでも、人前で使うことはほとんどない。
「二種類の精霊を同時に扱うのは、邪道だと言われている」
「誰に?」
「大抵の精霊術士に」
「なぜだ」
「昔、異なる精霊術を無理に混ぜて、事故を起こした者が多かったらしい」
「これは混ぜていない」
シアは右の白刃と、左の黒刃を順番に指した。
「別々に動かしている」
「見れば分かる奴ばかりじゃない」
「説明すればいい」
「説明を聞く前に、宿から追い出されることもある」
シアが眉を寄せた。
「人間は面倒だな」
「ようやく分かってきたか」
◆ 二刀の重さ
「少し動いてみろ」
シアに言われ、セトは二本の剣を構えた。
右の白刃で斬り込む。
左の黒刃で受ける。
想定した敵へ向かい、数度足を運ぶ。
動かせないわけではない。
だが、右手で精霊を集めながら、左手では排除を続けなければならない。
剣を振るたび、二つの制御がわずかに乱れる。
片方へ意識を寄せれば、もう片方の形が崩れる。
セトは動きを止めた。
黒刃の切っ先が、すでに短くなっていた。
「一本ずつより遅い」
「分かるのか」
「昨日の方が動けていた」
「二本の形と剣技を、同時に考える必要があるからな」
「もっと繰り返せば速くなる」
「簡単に言うな」
「簡単ではないのか」
「簡単なら、もうやってる」
セトは二本の術を解いた。
白い光が散り、黒い空白が埋まっていく。
◆ 手掛かり
シアは、黒刃が消えた場所を見つめていた。
「先代の力も、あれに近いもので奪われたのかもしれない」
「黒刃で精霊王を殺せると思うか」
「今の強さでは無理だ」
「はっきり言うな」
「だが、性質は近い。力を消すだけではなく、奪って持っていけるものなら、先代の残りが少なかったことにも合う」
黒刃は、触れた術を崩すだけだ。
奪った力を蓄えることも、自分のものとして使うこともできない。
だが、世の中に同じ性質を持つ別の武器がないとは限らなかった。
「剣だったと思うか」
「分からない」
「先代を殺せるほどなら、普通の武器ではない」
「それはそうだ」
「なら、強い武器の噂を探す」
シアらしい、単純な結論だった。
だが、何の手掛かりもない今は、それ以上の案もない。
「剣に限らず、精霊力を奪うものだ」
「強い剣なら見れば分かる」
「お前が興味を持っただけの剣まで調べることになりそうだな」
「それでいい」
「よくない」
◆ 白と黒
村へ戻る道を歩きながら、シアが言った。
「白刃は集める。黒刃はなくす」
「ああ」
「正反対だな」
「だから同時に扱うのは嫌われる」
「だが、どちらもセトの剣だ」
シアは迷いなく言った。
「白だけが正しくて、黒が間違っているわけではない。必要な方を使えばいい」
「人間は、そう簡単には考えない」
「面倒だからだろ」
「それで片づけるな」
「両方必要なら、両方使えばいい」
セトは答えなかった。
二本を使えることと、二本で戦えることは違う。
人の目を避けて作れることと、戦いの中で使う覚悟を持つことも違う。
それでもシアは、白と黒を見て、どちらかを捨てろとは言わなかった。
「次は何を見る」
「もう次の話か」
「炎を乗せたらどうなる」
「やらないぞ」
「まだ何もしていない」
「しようとしてる時の顔だ」
シアは不満そうに口を閉じた。
その手のひらでは、すでに小さな炎が揺れていた。
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