(一)二体目
◆ 二体目
古代兵器を倒してから、まだ日も昇りきっていなかった。
地面が揺れた。
倒れた古代兵器の周囲にいた兵士たちが、一斉に発掘現場の方角を見る。
先ほどまで聞こえていた崩落の音とは違う。
もっと遠く。
もっと深い場所から、重い音が続いていた。
「遺跡の方だ」
隊長が言った。
直後、見張りの兵士が坂を駆け下りてくる。
「発掘現場で、別の兵器が動き始めました!」
「調査隊は退避したのか」
「全員、遺跡の外へ出ています。ですが、発掘坑の奥から兵器が上がってきています」
「一体か」
「確認できたのは一体です」
隊長は、倒れた古代兵器へ目を向けた。
一体を破壊するために、兵士も術士も消耗している。
投石機の一部は壊れた。
追加部隊が大砲を運んできているが、古代兵器の装甲を正面から破壊できるとは思えない。
「休む時間もないのか」
セトが言った。
「兵器には、こちらの都合は関係ないらしい」
隊長が答える。
「行くぞ」
シアが発掘現場へ向かおうとする。
「待ってください」
ネアが止めた。
遺跡の方角へ顔を向け、地下へ吸い込まれていく原光を見ている。
「一体ではありません」
「何がだ」
シアが尋ねる。
「動き始めた兵器です」
地上へ向かっている大きな流れは一つ。
だが、その周囲にも原光が集まり始めている。
発掘された場所より奥。
人間がまだ掘り進めていない地下。
別々の場所へ、何本もの流れが伸びていた。
「ほかの兵器も動いているのか」
セトが尋ねる。
「ええ」
「数は?」
隊長が聞く。
「分かりません」
「流れが見えるのだろう」
「重なりすぎています」
ネアの視線が、少しずつ左右へ動く。
「少なくとも、一体や二体ではありません」
再び地面が揺れた。
今度は、先ほどとは異なる方向からも振動が伝わってくる。
一体目を破壊して終わりではなかった。
遺跡に残されていた複数の古代兵器が、次々と動き始めている。
「全部が地上へ出るまで、どれくらいだ」
「埋まっている深さが違います。すぐに出てくるものもあれば、時間のかかるものもあるでしょう」
「同じ戦いを繰り返している余裕はないな」
最初の古代兵器とは三度戦った。
装甲を破壊し。
再生を遅らせ。
核の防御壁を絶ち。
ようやく破壊した。
同じことを何体にも繰り返していれば、先に別の兵器が地上へ出てくる。
「もっと早く倒す」
シアが言った。
「今は絶光がある」
シアはネアを見る。
「原光を全部止めればいい」
◆ 意識を断つ
「できます」
ネアが答えた。
セトがネアを見る。
「全部止められるのか」
「周囲一帯の原光を、完全に断つことはできます」
「さっきは、数が多すぎて無理だと言った」
「あれは、絶光で流れを一本ずつ切った場合です」
ネアは自分の胸元へ手を添える。
「わたし自身の意識を断ち、すべての力を原光の遮断へ集中させれば、周囲一帯を覆えます」
「駄目だ」
セトは即座に言った。
「まだ説明の途中です」
「最後まで聞いても同じだ」
「なぜですか」
「同じ言葉を、前にも聞いた」
セトはシアを見る。
シアも覚えている。
自分という意識を消し、力だけになれば、より大きな炎を放てる。
以前、シアも同じことを言った。
セトは、その時も受け入れなかった。
「意識を断った後、元に戻れるのか」
セトが尋ねる。
「分かりません」
「なら駄目だ」
「戻れないと決まったわけではありません」
「戻れるとも言えない」
「今のままでは、何体もの兵器を止められません」
「だからネアが消えていいとはならない」
「消えると決まったわけでは――」
「試して確かめられることでもない」
ネアが口を閉じる。
遠くで、岩が大きく砕ける音がした。
二体目の古代兵器は、すでに地上へ向かっている。
「セトは、わたしの時にも同じことを言った」
シアが言う。
「ああ」
「わたしは消えなかった」
「意識を消す方法を使わせなかったからだ」
「ああ」
「今回も同じだ」
ネアは遺跡へ集まる原光を見る。
「では、別の方法を考えます」
「あるのか」
「今、考えています」
原光の流れを一本ずつ切る。
それでは遅い。
周囲一帯を完全に断つ。
それなら、古代兵器の再生も攻撃も止められる。
だが、長く維持するには、自分の意識まで力へ変えなければならない。
長く維持する必要がなければどうか。
「一瞬だけなら」
ネアが言った。
「何だ」
「意識を断ち続ける必要はありません」
ネアはセトを見る。
「一瞬だけ、ほかのすべてを捨て、原光の遮断だけへ力を集中させます」
「それで足りるのか」
「わたしが力を放つのは一瞬です」
ネアは、周囲を流れる原光へ目を向ける。
「ですが、一度完全に断たれた流れが元へ戻るまでには時間がかかります」
「どれくらいだ」
「古代兵器へ一度攻撃を通すだけの時間は作れるはずです」
「意識は残るのか」
「完全には手放しません。合図を受けた瞬間だけ、ほかのことを考えなくします」
「本当に戻れるのか」
「戻ります」
「初めて使うのだろ」
「ええ」
「なら、言い切るな」
「では、戻るつもりです」
「それも同じだ」
シアが二人を見る。
「一瞬だけならいい」
「シアが決めるな」
「では、セトが決めろ」
発掘現場の方角から土煙が上がった。
時間は残されていない。
「本当に一瞬だけだ」
セトが言った。
「戻れないと感じたら、すぐに止めろ」
「分かりました」
※第16話「二つの極大技」は全六回です。
続きます。
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