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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第15話 二本目の精霊剣

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(九)ネアという名

◆ ネアという名


 夜明けが近づいていた。古代兵器へ向かっていた原光の流れは止まっている。色を失った草が、すぐに元へ戻るわけではない。

 森の葉も、まだ薄い色のままだ。それでも、これ以上吸われることはなくなった。隊長は、発掘現場へ伝令を出した。

 古代兵器を一体破壊したこと。遺跡へ誰も入れないこと。残された兵器へ、絶対に触れないこと。


「これを見ても、動かそうとする者はいると思うか」


 セトが尋ねた。


「いるだろうな」


 隊長が答える。


「制御できない兵器だぞ」

「自分なら制御できると考える者はいる」

「面倒だな」

「人間は、強いものを見れば使いたがる」

「壊した方が早い」


 シアが言った。


「動いていない兵器にも、同じ防御があるかもしれません」


 ネアが答える。


「まず遺跡を調べる必要があります」

「また剣になればいい」

「簡単に言いますね」

「もう二度なった」

「二度できたからといって、何度でも問題ないとは限りません」

「問題があったのか」


 シアがネアを見る。ネアは少し考えた。


「普段より、力を使った感覚があります」

「それだけか」

「今のところは」

「なら休めばいい」

「シアもです」

「わたしは平気だ」

「最後の極炎で、ほとんど力を使ったでしょう」

「少し休めば戻る」

「同じことを言っています」


 セトは二人の間に立った。


「二人とも休め」

「セトは?」

「俺も休む」

「なら最初からそう言え」

「今、言った」


 シアが少し離れた場所へ座る。ネアは、その背中を見てからセトへ顔を向けた。


「セト」

「何だ」

「先ほど、わたしの名前を呼びましたね」

「呼べと言っただろ」

「そうではなく」


 ネアは少し迷った。何を確認したいのか、自分でも分かっていなかった。剣になるために呼ばせた。

 それだけのはずだった。だが、セトがネアと呼んだ時、遠い昔にもらった名前が、過去から今へつながったように感じた。

 あの人は、もういない。十分に生きた。幸福な人生だった。ネアも、それでよいと思っている。

 それでも、その人が残した名前は、今もここにある。


「もう一度呼びますか」


 セトが尋ねた。


「なぜですか」

「呼んでほしそうな顔をしている」

「どのような顔ですか」

「分からない」

「分からないのに言ったのですか」

「ああ」


 やはり、あの人とは違う。ネアは小さく息を吐いた。


「必要になった時に呼んでください」

「剣になる時か」

「それ以外でも構いません」

「分かった」


 本当に分かっているのかは怪しかった。だが、それでよかった。ほとんどの者は、これからも月の精霊王と呼ぶだろう。

 月の、と呼ぶ精霊王もいる。セレーネと記す者もいる。その距離は必要だった。同時に、ネアと呼ぶ者もいる。

 それもまた、ネアには必要だった。


「ネア」


 セトが呼んだ。


「今は必要になった時ではありません」

「それ以外でもいいと言っただろ」

「言いましたが、すぐに呼ぶとは思いませんでした」

「呼ばない方がよかったか」


 ネアは少し考えた。


「いいえ」


 それだけ答えた。セトはセトだ。あの人ではない。過去の誰かと重ねる必要もない。

 それでも、目の前の誰かを救うために、何も考えず古代兵器へ向かう。だから自分も、力を貸した。黒月だけでは足りなかった。

 今度は、自分自身を一振りの剣へ変えた。絶光が原光を絶ち。極炎が核を砕いた。

 二本目の精霊剣は、最後の一撃を放つための剣ではない。最後の一撃が届くまで、その道を閉ざさせないための剣だった。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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