(五)二本目
◆ 二本目
シアの体が赤橙色の光へ変わった。光がセトの右手へ集まり、炎の剣となる。極炎。
シアの力がセトへ流れ込んだ。ネアの冷たい力は、すでに全身へ広がっている。そこへ、シアの熱が重なる。
二つの力はぶつからなかった。互いを押し出すこともない。セトの両腕を通り、体全体へ行き渡る。
右手には極炎。左手には絶光。
『立てるか』
シアの声がする。
『無理なら、すぐに戻ります』
ネアの声も聞こえる。
「ああ」
セトは二本の剣を構えた。極炎を振る。続けて絶光を振る。
右の炎が空気を焼き、左の刃が原光の流れを切る。二本を交差させる。触れる直前で軌道をずらした。
絶光の近くで、極炎の炎がわずかに引かれる。
「近づけすぎない方がいいな」
『わたしの力まで切るつもりか』
シアが言った。
『意図して切ることはありません』
「意図しなければ切らないのか」
『今のところは』
『不安になる言い方をするな』
「二人とも聞こえているのか」
『ネアの声は聞こえる』
『わたしにもシアの声が聞こえています』
「俺にも二人とも聞こえる」
少し離れた場所では、隊長が怪訝な顔をしていた。セトが誰もいない場所へ返事をしているように見えるらしい。
「どうなった」
隊長が尋ねる。
「二本とも使える」
「二本?」
「シアとネアだ」
隊長には、剣の中から聞こえる二人の声は届いていない。それでも、セトの両手にある剣を見れば意味は分かった。
「月の精霊王も、剣になったのか」
「ああ」
「勝てるのか」
「今から確かめる」
隊長は顔をしかめた。
「確かめる相手が、あれでなければよかったんだがな」
◆ 作戦
ネアが人の姿へ戻る。絶光が黒に近い光へほどけ、セトの左手から離れた。光が人の形を作り、ネアが地面へ降り立つ。
「問題ありませんか」
セトが尋ねる。
「少し力を使いましたが、動けます」
「もう一度なれるか」
「試します」
ネアが手を差し出す。セトが取る。
「ネア」
再び、黒に近い光が左手へ集まった。絶光が形を作る。
『なれました』
「なら作戦を決める」
セトは絶光を持ったまま、兵器へ向かう原光を見る。
「絶光で太い流れを切る」
『全部を切る必要はありません』
ネアが答える。
『再生と防御壁を弱められるだけ切ればよいでしょう』
「そのまま極炎も出す」
『わたしが装甲を開く』
シアが言った。
「大きな一撃は最後まで残す」
『前と同じでは、核まで開くのに時間がかかる』
「絶光で再生を遅らせる」
『それでも、原光が完全に止まるわけではありません』
ネアが言う。
『通常の斬撃と兵士たちの攻撃で装甲を開きます。大きな一撃は核へ残してください』
前の戦いでは、黒月を一か所へ当て続けなければならなかった。今度は違う。絶光で切った原光の流れは、少しの間、剣を離しても戻らない。
その間に別の流れを切り、極炎で装甲を破壊できる。
「核が見えたら、絶光で防御壁を切る」
『わたしが壁を絶ちます』
「極炎で核を壊す」
『今度は届く』
隊長が地面へ地図を広げる。
「兵士は何をすればいい」
「極炎が開いた場所へ攻撃を集中させる」
セトが答えた。
「再生する部品を壊し続けてください」
ネアが続ける。
「絶光で流れを切っても、兵器の中に残っている原光までは消えません」
「砲撃は?」
「絶光で切る」
シアが言った。
「切れるのか」
「さっき流れを切った」
「流れと砲撃は同じなのか」
『試していません』
ネアが答える。隊長には聞こえない。セトが代わりに言う。
「たぶん切れる」
「たぶんか」
「正面へ集まるな。砲口が向いたら散れ」
「それは最初から変わらんな」
隊長は兵士たちへ命令を伝え始めた。絶光で原光を絶つ。極炎で装甲と核を破壊する。二本の精霊剣を、同時に使う。
黒月では届かなかった場所へ進むための作戦だった。
※第15話「二本目の精霊剣」は全九回です。
続きます。
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