(四)月の剣
◆ 月の剣
ネアの体が、黒に近い光へ変わった。黒月を作った時の光に似ている。だが、量が違う。
人の形がほどけ、夜のような光がセトの左手へ集まった。周囲の原光が一斉に揺れる。古代兵器へ向かっていた流れの一部が、途中で途切れた。
セトの左手に、一振りの剣が生まれる。黒刃とは違う。白刃とも違う。
刀身がある場所だけ、周囲の光が失われたように見えた。細身の輪郭を、淡い銀色の光が縁取っている。
「ネア?」
『聞こえています』
剣からネアの声が届いた。同時に、冷たい力がセトの左腕へ流れ込む。腕だけではない。
胸。右腕。両脚。体全体へ広がっていく。
黒月の時にはなかった感覚だった。セトの視界が変わる。暗闇の中に、無数の細い光が浮かんだ。
空から流れるもの。大地の中を通るもの。木々や水から離れ、採石場へ向かうもの。
「見える」
『わたしが見ている原光の流れです』
セトが剣を少し動かす。刀身の近くで、原光が左右へ分かれた。吸い込まれているのではない。
流れそのものが、刃を避けている。
「剣になったな」
シアが言った。
『そのようですね』
「戻れるか」
『試していません』
「なら、あとで試せ」
『言われなくても試します』
シアが剣へ近づく。
「名前がいる」
『ネアでよいでしょう』
「それは剣の名前ではない」
『剣にも名前が必要なのですか』
「極炎にはある」
『極炎は、元からそう呼ばれていたのでしょう』
「呼び分けにくい」
セトは、採石場へ向かう原光を見る。
「原光を絶つ剣か」
剣の周囲で、細い流れが切れている。
「絶光」
シアが言った。
「そのままだな」
「分かりやすい」
『黒月の時にも同じことを言いましたね』
「悪くなかっただろ」
『否定はしません』
銀色の縁が淡く光った。
『絶光。その名でよいでしょう』
◆ 絶たれた流れ
「何ができる」
セトが尋ねた。
『あの流れを切ってください』
ネアが示したのは、採石場へ向かう太い原光の流れだった。セトは絶光を振る。何かに当たった感触はない。
だが、刀身が通った場所で原光が途切れた。切られた先の光が方向を失い、周囲へ散っていく。
「切れた」
『黒月では、刃へ引き寄せて吸収していました』
「絶光では、流れそのものを止められる?」
『少なくとも、今の一本は』
しばらくすると、途切れた原光が再びつながり始めた。切れた両端が伸び、同じ流れへ戻ろうとしている。
「戻るぞ」
『ええ。永久に消えるわけではありません』
「どれくらい持つ」
『流れの太さによります』
セトは次の流れを切る。二本目。三本目。
切られた流れは、絶光を離してもすぐには元へ戻らない。黒月は、刃を離せばその場で原光が流れ始めた。絶光なら、一度切った場所から移動できる。
「複数を順番に止められる」
『ええ』
「全部切れるか」
『数が多すぎます。切っている間に、最初の流れが戻ります』
「太いものだけなら?」
『兵器へ入る量を、大きく減らせるはずです』
シアが絶光を見る。
「これなら倒せる」
『まだ分かりません』
「黒月より強い」
『原光を絶つことについては』
「核も切れるか」
『破壊する力は強くありません』
ネアの答えは黒月の時と同じだった。
『絶光は、力を止めるための剣です。装甲や核を壊すなら、極炎の方が向いています』
「なら、二本使えばいい」
シアが言った。セトとネアが、同時にシアを見る。
「黒月と極炎は一緒に使えた」
「黒月は、セトの黒刃です」
絶光の中からネアが答える。
『今は、わたしが剣になっています』
「だから何だ」
『二人分の力を、同時にセトへ流せるか分かりません』
「やってみれば分かる」
『それしか言わないのですか』
「必要なことだからな」
セトは左手に絶光を持ったまま、右手をシアへ差し出した。
「試すぞ」
シアは迷わず、その手を取った。
「ああ」
「シア」
※第15話「二本目の精霊剣」は全九回です。
続きます。
作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。
※ネタバレ範囲にご注意ください。
https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/




