(二)剣になった時
◆ 剣になった時
シアはすぐには答えなかった。分からないからではなく、何を聞かれているのか分からないような顔をしていた。
「剣になった時に、何をしたのですか」
ネアが言い直す。
「セトが死にそうだった」
「その時の状況ではなく、剣になるためにしたことです」
「剣になろうと思った」
「それから?」
「セトに手を伸ばした」
「それから?」
「名を呼べと言った」
「なぜ、名前を呼ばせたのですか」
「そうすればいいと思った」
「方法を知っていたのですか」
「知らない」
「知らないのに?」
「ああ」
シアは少し考える。
「だから、たぶんそれだけだと言った」
ネアがシアを見る。
「確信はなかったのですね」
「ああ」
「名前を呼ばせた以外には?」
「ない」
「力の流れを変えたり、自分の形を作り直したりは?」
「していない」
「何か詠唱は?」
「していない」
「精霊剣になる方法を、どこかで知ったのでは?」
「知らない」
ネアは息を吐いた。
「結局、感覚なのですね」
「ああ」
「参考にしにくいですね」
「だが、剣にはなった」
「結果だけは参考になります」
セトには、シアが隠しているとは思えなかった。本当に、手順として説明できないのだろう。
「セトは何をしたのですか」
ネアが尋ねた。
「シアの手を取った」
「それから?」
「名前を呼んだ」
「剣にしようと考えていましたか」
「いや」
「では、なぜ名前を?」
「シアが呼べと言ったからだ」
ネアがシアを見る。
「覚えていますか」
「ああ」
「なぜ、名前を呼べばよいと思ったのです」
「分からない」
「分からないのに、呼ばせたのですか」
「剣になろうと思った時、そうすればいい気がした」
「それで、たぶんそれだけだと?」
「ああ」
ネアは少し黙った。
「やはり、感覚なのですね」
「必要なら、やればいい」
シアが言った。
「同じことが起きるとは限りません」
「黒月では足りないのだろ」
「ええ」
「なら、別のことをするしかない」
その通りだった。黒刃へ重ねられる力には限界がある。黒刃が触れられる場所にも限界がある。
黒月では、古代兵器へ流れ込む原光のすべてを止められない。
「精霊剣になれば、シアの力はセトへ流れるのですね」
「ああ」
シアが答える。
「剣の中だけではなく、体にも?」
「ああ」
「シアが見ているものも、セトには分かるのですか」
「全部ではない」
今度はセトが答えた。
「だが、力の向きは分かる。シアがどこを狙おうとしているかも、剣を持っていれば伝わる」
「黒月とは違いますね」
ネアは自分の手を見る。黒月へ乗せた力は、黒刃の上に留まっていた。セトへ流れたわけではない。
自分が見ている原光の流れも、セトには見えていなかった。
「わたしが剣になれば、黒刃を通す必要がなくなるかもしれません」
「できるのか」
「分かりません」
「やってみれば分かる」
シアが言う。
「失敗した場合を考えてください」
「失敗したら、剣にならない」
「それだけで済む保証はありません」
「壊れるのか」
「分かりません」
「分からないことばかりだな」
「初めてなのですから当然です」
「なら、やるしかない」
シアの言葉は、乱暴ではあるが間違ってはいなかった。採石場から、再び岩の割れる音が響く。試すなら、兵器が出てくる前しかない。
※第15話「二本目の精霊剣」は全九回です。
続きます。
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