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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第15話 二本目の精霊剣

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(一)岩を砕く音

◆ 岩を砕く音


 夜になっても、採石場から音が響いていた。岩が割れる。石が崩れる。

 しばらく静かになったかと思えば、また低い音が始まる。古代兵器は、二度目の崩落からも抜け出そうとしている。採石場から離れた谷の入口では、ローディアの兵士たちが防衛線を作っていた。

 投石機を並べ、術士を左右の高台へ配置する。古代兵器が出てきた場合は、村や街道とは反対側へ誘導するためのものだった。


「あとどれくらい持つ」


 セトが尋ねた。隊長は採石場の方角へ目を向ける。


「分からん」

「さっきも聞いた」

「見えないものは答えようがない。どれだけ岩が残っているのかも、兵器がどこまで出てきているのかも分からん」


 隊長は少し間を置いた。


「ただ、音は近づいている」


 最初は岩の奥深くから聞こえていた。今は、地面だけでなく空気まで震えている。古代兵器が地表へ近づいていることだけは確かだった。


「兵士は休ませた方がいい」


 シアが言った。


「交代で休ませている」

「術士は?」

「周囲の原光が少なすぎる。休ませても、普段ほどは戻らん」


 古代兵器は、岩の中に閉じ込められている間も原光を吸い続けている。採石場だけではない。周辺の森。

 川。土の中。見える範囲のあらゆる場所から、力が失われていた。

 ネアは少し離れた場所に立ち、採石場へ集まる原光を見ていた。昼よりも流れが太くなっている。古代兵器は、破壊された核を修復するために、さらに多くの原光を集めているらしい。


「核は?」


 セトが尋ねる。


「亀裂は、ほとんど消えています」

「もう戻ったのか」

「完全ではありません。ですが、次に出てくる頃には、戦う前と同じ状態へ戻っているでしょう」

「こちらは戻っていないのにな」


 兵士も術士も消耗している。投石機の一部は壊れた。矢も石も減っている。

 兵器だけが周囲から原光を吸い、何度でも元の状態へ戻っていく。


「次も黒月を使うか」


 シアが尋ねた。


「使わなければ、核まで届かない」


 セトが答える。


「使っても倒せなかった」

「ああ」


 黒月は通用した。古代兵器の砲撃をそらした。部品の再生を遅らせた。核を守る防御壁にも穴を開けた。

 それでも、兵器を倒すことはできなかった。黒月を装甲の再生へ使えば、核の防御壁が残る。防御壁へ使えば、装甲が閉じ始める。

 一本の刃では、離れた二つを同時に止められない。


「黒月を使うだけでは足りません」


 ネアが言った。


「別の方法は見つかったか」

「まだです」

「時間はないぞ」

「分かっています」


 採石場から、大きな音が響いた。暗闇の向こうで淡い光が瞬く。兵器の砲撃が、崩落した岩を内側から貫いたらしい。


◆ 役目のない者


 セトは採石場の方角を見たまま、退こうとはしなかった。ネアには、それが不思議だった。ローディアはセトの国ではない。

 古代兵器を掘り出したのも、動かしたのもセトではない。この地を守るよう命じられたわけでもなければ、月や火を司る精霊王のような役目を持っているわけでもない。

 ここで戦う理由などないはずだった。それでもセトは、次にどう戦うかを考えている。自分が退いた後に、兵士や村の人間がどうなるのかを考えている。

 おそらく、本人はそこまで深く考えていない。目の前に危険がある。放っておけば、誰かが傷つく。

 自分には戦う力がある。だから戦う。それだけなのだろう。あの人に似ている。

 ネアは、ふとそう思った。だが、本当に似ているのだろうか。セトが最初から自分をネアと呼んだために、勝手に重ねているだけかもしれない。

 月の。月の精霊王。セレーネ。

 ほとんどの人間や精霊王は、ネアをそう呼んだ。それを嫌だと思ったことはない。精霊王と人間。

 月を担う者と、そうではない者。互いの間には、必要な距離がある。セレーネと呼ばれることは、その距離を保つために大切だった。

 それでも、ネアと呼ばれることも大切だった。セトは、あの人ではない。セトはセトだ。

 それは分かっている。分かっているはずなのに、セトが古代兵器へ向かう姿を見ると、あの人を思い出す。だから黒刃を見た時、つい力を重ねてしまったのかもしれない。

 黒月を作れば役に立つ。そう判断したのは事実だ。だが、本当にそれだけだったのかと問われれば、ネアには答えられなかった。


「どうした」


 セトが振り返った。


「何でもありません」

「ずっとこっちを見ていたぞ」

「考えていただけです」

「方法を?」

「それもあります」


 ネアはシアを見る。


「シア」

「何だ」

「あなたは、どのように精霊剣になったのですか」



※第15話「二本目の精霊剣」は全九回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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