(二)黒い方
◆ 黒い方
ネアが黒刃へ近づく。
「何をする」
セトが尋ねた。
「そこへ、わたしの力を重ねます」
「黒刃に?」
「乗るだけ乗せます」
「何ができるようになる」
「原光を吸う力が強くなるはずです」
ネアは黒刃の周囲を流れる力を見ている。
「それに加えて、反射と偏向もある程度使えるでしょう」
「反射と偏向?」
「原光の攻撃をすべて吸いきれなくても、流れを曲げられます。うまく向きを変えれば、相手の方へ返すこともできるかもしれません」
シアが白刃を見る。
「白い方には乗せないのか」
「乗りません」
「なぜだ」
「放出と吸収では、働きが反対です」
ネアは白刃を指した。
「白い方は、集めた力を外へ放つのでしょう」
「ああ」
「わたしが重ねようとしているのは、原光を吸い、流れを内側へ引く力です。無理に重ねても、どちらかの働きを邪魔するだけです」
「本当に乗らないかは、やってみないと分からない」
「シア」
セトが止める。
「何だ」
「今は壊れるかもしれない方を試す時ではない」
「黒い方も初めてだぞ」
「働きが同じ方向だ」
シアは少し考える。
「それなら分かった」
ネアが黒刃へ指先を伸ばした。
「触れます」
「ああ」
指先が、黒い刀身の側面へ触れる。
◆ 黒月
黒刃が細かく震えた。
ネアの指先から、黒に近い光が流れ出す。
黒刃そのものの色とは違う。
周囲の明るさを弱め、色を薄くするような光だった。
光が黒刃の表面へ広がる。
その中に、細い銀色の線が生まれた。
根元から先端へ。
何本もの線が、黒い刀身の上をゆっくりと巡る。
周囲を流れる原光が、先ほどより強く刃へ引かれ始めた。
刃へ触れていない流れまで、近くを通るとわずかに曲がる。
「まだ入るのか」
セトが尋ねる。
「もう少しです」
ネアは指を離さない。
銀色の線が増える。
黒刃の輪郭が強くなり、刀身もわずかに伸びた。
やがて、表面が大きく揺れた。
ネアが指を離す。
「ここまでです」
「これ以上は?」
「黒刃の形が保てません」
セトは変化した黒刃を振った。
刃が通った場所へ、周囲の原光が引かれる。
これまでの黒刃より、明らかに吸う範囲が広い。
変わったのは剣だけだった。
セトの腕や体には、何も起きていない。
「兵器の攻撃も、これで吸えるのか」
「全部は無理です」
「どれくらいなら?」
「分かりません。あの兵器が放つ量を、この剣で受けたことはありませんから」
「では、試すしかないな」
「正面から受け止めないでください」
ネアが言った。
「刃を斜めに当てます。吸いきれない分は、刃に沿って流してください」
「どちらへ流す」
「人がいない方へ。角度が合えば、兵器へ戻しても構いません」
シアが黒い刀身を見た。
「名前がいる」
「黒刃でいいだろ」
「今までと違う」
「ネアの黒刃」
「セトの術です」
ネアが答える。
「では、黒い月」
シアは銀色の線を見る。
「黒月」
「そのままですね」
「分かりやすい」
セトも黒い刀身を見る。
「黒月か」
「ただし、とどめには向きません」
ネアが言った。
「相手を大きく壊す力ではないからです」
「何に使う」
「こちらの防御を助けます。兵器の攻撃を吸収し、そらす」
ネアは崩落の向こうへ目を向ける。
「壊れた場所へ流れ込む原光を奪えば、再生も遅らせられます。核を守る壁が精霊力で作られているなら、そこにも使えるはずです」
「黒月で、相手の防御と再生を防ぐ」
シアが言う。
「ええ」
「とどめは極炎」
「そうなります」
「なら倒せる」
「届くかどうかは分かりません」
「またそれか」
「初めて使う力ですから」
採石場の奥から、大きな音が響いた。
崩落を塞いでいた岩が、外側へ押し出される。
※第14話「一本では届かない」は全七回です。
続きます。
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