(六)撤退ではなく誘導
◆ 撤退ではなく誘導
隊長はすぐに命令を出した。
正面からの攻撃を止める。
村とは反対側にある岩場へ部隊を移す。
投石機と術士は、兵器を壊すためではなく、注意を引くために攻撃する。
「攻撃された方向へ進むとは限りません」
ネアが言った。
「だが、今までは反撃してきた」
セトが答える。
「狙う相手を選んでいるなら、動かせる」
「意思があるのでしょうか」
「分からない。だが、反応はしている」
兵器の砲口が、撤退する兵士たちへ向く。
シアが前へ出た。
「わたしが引く」
「今は精霊剣にならないぞ」
「分かっている」
シアの両手に炎が集まる。
周囲の原光が少ないため、普段より小さい。
それでも、兵器の装甲を叩くには十分だった。
炎が側面へ当たる。
兵器の向きが変わった。
砲口がシアを追う。
「こっちだ」
シアは岩場へ走る。
「一人で行くな!」
セトも追う。
ネアは一度、残っている兵士たちを見る。
「負傷者を先に運んでください」
「あなたは?」
「二人が無茶をしすぎないように見てきます」
ネアも岩場へ向かった。
◆ 地下から来た兵器
兵器は、三人を追って谷を進んだ。
速くはない。
だが、止まらない。
脚が岩を砕き、木を押し倒す。
壊れた装甲は歩きながら再生成されていく。
原光を吸い。部品を作り。失った場所へ収める。
兵器にとって、破壊されたことは傷ではない。
必要な部品が一時的になくなっただけだった。
岩場の奥には、古い採石場があった。
周囲を高い崖に囲まれている。
兵士たちが上から岩を落とす。
シアが炎で崖の一部を崩した。
兵器の前へ大量の岩が落ちる。
進路が塞がれた。
兵器は脚を止める。
砲口が上を向く。
「離れろ!」
セトの声と同時に、原光が放たれた。
崖の一部が砕けた。
それでも、すぐに外へ出られるほどではない。
「しばらくは止められる」
隊長が言った。
「どれくらいだ」
「分からん」
「何も分からないな」
シアが言う。
「分かっていることもあります」
ネアが兵器を見る。
「装甲は極炎で破壊できる」
「だが、すぐ戻る」
「再生ではなく、部品を新しく作っている」
「材料は原光だ」
「核は装甲の内側にある」
「その核にも防御がある」
セトは右手を見る。
二度の極炎を撃った腕は、まだ震えていた。
「一度で装甲と防御壁と核を、全部壊す必要がある」
「今の極炎では届かなかった」
シアが言った。
極炎が弱いわけではない。
装甲を破る力はある。
核までの道も開ける。
だが、一撃で兵器全体を完全に破壊するには足りない。
二撃目を撃つ頃には、最初の損傷がほとんど元へ戻る。
「原光を使わせなければいい」
セトが言った。
ネアがセトを見る。
「簡単に言いますね」
「できないか」
「わたし一人で、あの兵器へ流れるすべてを止めるのは無理です」
「すべてでなくてもいい。再生成が遅くなれば、二撃目が間に合う」
「人の姿では、止められる範囲が狭すぎます」
ネアは崩れた岩の向こうを見る。
「それでも、考える価値はあります」
兵器の内側で、低い音が響いた。
崩れた岩の隙間から、淡い光が漏れる。
閉じ込められている間も、周囲の原光を吸い続けている。
止まったわけではない。
ただ、進めなくなっただけだ。
セトたちは一体の兵器と戦った。
装甲を破った。核を露出させた。
それでも、倒すことはできなかった。
地下から現れた兵器は、壊された部品を作り直しながら、再び動き出す時を待っていた。
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