(二)新しい部品
◆ 地下から出たもの
三人は兵士たちとともに高台へ移動した。
そこから、遺跡のあった谷が見下ろせる。
山の斜面が大きく崩れていた。
土の下から、黒い壁のようなものが斜めに突き出している。
遺跡の外壁だろう。
その前に、兵器がいた。
大きさは二階建ての家ほど。
人や獣に似た形ではない。
厚い装甲を幾重にも重ねた胴体を、複数の脚が支えている。
脚には前後の区別がない。
どの方向へも、そのまま進める構造に見えた。
装甲の隙間では、淡い光が脈打っている。
光は兵器の内側から生まれているのではない。
空気中や地面から、細い流れとなって兵器へ吸い込まれていた。
「原光が、あれに集まっている」
シアが言った。
「ええ」
ネアが目を細める。
「流れの中心は、間違いなくあれです」
兵器の周囲では、ローディアの兵士たちが距離を取りながら包囲していた。
投石機。大弓。精霊術を使う術士。
地面には、すでに何人も倒れている。
「攻撃しているのか」
セトが尋ねる。
「村へ向かおうとした」
隊長が答えた。
「進路を変えさせるために攻撃している」
投石機から大きな石が放たれた。
兵器の側面へ当たる。
硬い音が谷へ響いた。
表面の装甲がへこむ。
続けて、術士たちの火と風が集中する。
へこんだ部分が砕け、装甲板の一枚が地面へ落ちた。
「壊せる」
セトが言った。
「見ていてください」
ネアは兵器から目を離さなかった。
◆ 新しい部品
装甲を失った場所へ、原光が集まった。
淡い光が欠損部分を覆う。
傷が塞がったのではない。
光の中に、直線が生まれた。
角ができる。
板の形になる。
空中で作られた新しい装甲板が、兵器の内部へ滑り込む。
硬い音を立てて固定された。
落ちた装甲板と同じ形だった。
へこんだ周囲の部品も、一度内側へ引き込まれる。
代わりに、光の中から新しい部品が押し出された。
数秒後には、投石機が破壊した場所が元へ戻っていた。
「治った?」
シアが言う。
「違います」
ネアが答えた。
「壊れた部分を直しているのではありません」
「作り直した」
「ええ。原光から、同じ部品を作っています」
セトは落ちた装甲板を見る。
壊れた部品は地面に残っている。
それにもかかわらず、兵器の側面には同じ板が戻っていた。
「元の部品を戻す必要がないのか」
「構造さえ同じなら、別の部品でよいのでしょう」
「機械が精霊術を使っている」
シアが言った。
「そう考えるのが近いでしょう」
ネアの周囲に黒い細線が浮かぶ。
原光の流れを探っている。
「本来、原光を物質の形へ変えるのは、精霊や精霊術が行うことです。あれは、それを内部の仕組みだけで行っています」
「なら、周りに原光がある限り壊しても戻る」
「小さな損傷なら、ほとんど意味がありません」
隊長が二人を見る。
「止める方法は?」
「全部壊す」
シアが答えた。
「一度にです」
ネアが付け加えた。
◆ 最初の攻撃
兵器の上部で、装甲板が左右へ開いた。
内部に光が集まる。
ネアが即座に振り返った。
「伏せてください!」
谷へ向けて光が放たれた。
炎ではない。
風でもない。
属性を持つ前の原光を、そのまま押し出したような攻撃だった。
地面が一直線に砕ける。
土と岩が吹き上がった。
盾を構えていた兵士たちが、まとめて後方へ飛ばされる。
隊長が高台から駆け下りようとする。
「待て」
セトが止めた。
「今行けば、次に巻き込まれる」
「部下がいる!」
「だからだ」
セトは谷を見る。
兵器の上部が、再び開こうとしている。
「シア」
「ああ」
シアがセトへ手を伸ばした。
「名を呼べ」
「シア」
シアの体が赤橙色の光へほどける。
光がセトの右手へ集まり、炎の剣となった。
極炎。
セトが柄を握った瞬間、体へ力が流れ込む。
『一気に近づく』
「ああ」
『ネア。あれの攻撃を少しだけそらせるか』
ネアが極炎へ視線を向けた。
「試します」
精霊剣となったシアの声は、グラウスには聞こえなかった。
だが、精霊王であるネアには直接届くらしい。
確かめている時間はない。
ネアが両手を兵器へ向けた。
空中に黒い線が何本も伸びる。
再び放たれた原光の塊へ、横から触れた。
攻撃全体を止めることはできない。
だが、軌道がわずかにずれた。
光はセトの右側を通り、岩壁へ当たる。
「今です」
セトは地面を蹴った。
※第13話「地下から来た兵器」は全六回です。
続きます。
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