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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第3話 白刃と黒刃

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(一)白刃

◆ 約束の翌朝


「遅い」


 宿屋を出たセトへ、シアが開口一番そう言った。


 朝日はまだ、村を囲む山の向こうから半分しか姿を見せていない。


「夜が明けたばかりだ」


「わたしはだいぶ前から待っていた」


「寝てないのか」


「寝る必要はあまりない」


 シアは宿屋の前にある柵へ腰を預けていた。


 昨日と同じ白い服に、同じ赤い帯。荷物らしいものは何も持っていない。


 対するセトは、右の脇腹へ布を巻かれていた。


 村の治療師によれば、骨は折れていない。ただし強く打っているため、数日は激しい運動を避けるようにと言われている。


 大型魔獣との戦いの翌日に、剣を振るため森へ行くとは言えなかった。


「怪我は治ったのか」


「治ってはいない」


「なら、剣は出せるな」


「お前は本当に剣しか見てないな」


「昨日、明日見せると言った」


「約束したとは言ってない」


「約束した」


「お前の中で勝手に決まっただけだ」


 シアは少し考え、それから首を傾けた。


「同じではないのか」


「だいぶ違う」


◆ 村の外へ


 セトは村を出て、昨日とは反対側の林へ向かった。


 大型魔獣を倒した場所には、死体の処理へ向かった村人たちがいる。剣状精霊術を試すには人目が多すぎた。


「村の中では見せないのか」


「危ないからな」


「昨日の魔獣より危ない剣なのか」


「人に当たれば危ない」


「当てなければいい」


「そう思って事故を起こす奴がいる」


 林を抜けた先に、小さな採石場の跡があった。


 今は使われておらず、むき出しの岩壁と、切り出されずに残った石があるだけだ。


 周囲に人の気配はない。


 セトは足元から拳ほどの石を拾い、少し離れた平たい岩の上へ置いた。


「剣を見るだけではないのか」


「性質まで見たいんだろ」


「ああ」


「なら、まず離れろ」


 シアは素直に五歩ほど下がった。


 昨日よりは話を聞くようになったらしい。


「それで十分か」


「もう五歩」


「遠い」


「白刃は、見た目より少し長い」


 シアがさらに下がる。


 その目は、セトの右手から一度も離れなかった。


◆ 集める剣


 セトは右手を握った。


 周囲に漂う白い光が集まる。


 光は手の中で細く伸び、長剣ほどの刃となって固定された。


「白刃だ」


「名前は見たままだな」


「一族でそう呼んでいる」


 シアが近づこうとする。


「そのまま見ろ」


「遠い」


「さっき自分で十分かと聞いただろ」


 シアは不満そうに止まった。


 セトは白刃を構え、岩の上に置いた石へ向かって横に振る。


 刃は石へ届いていない。


 それでも、白い剣筋が刀身の先から延びた。


 石が二つに割れる。


 切断された片方が岩から転がり落ちた。


 シアがすぐに石へ近づいた。


 切断面へ指を当てる。


「刃の長さより遠くまで切れている」


「集めた精霊は、見えている形だけに収まっているわけじゃない。振った方向へ少し流れる」


「もっと遠くまで飛ばせないのか」


「できない。飛ばそうとすると形が崩れる」


「昨日は石を切っていた」


「あれも、この間合いの中だ」


 白刃は飛び道具ではない。


 見た目より間合いの広い剣でしかなかった。


◆ 刃であり続ける


「なぜ剣なんだ」


 シアが尋ねた。


「何がだ」


「集めるなら、もっと大きな塊にした方が強い。壁にすれば攻撃も防げる」


「俺にはできない」


「精霊力が足りないのか」


「制御の問題だ」


 セトは白刃を一度消し、再び作る。


 先ほどとほとんど同じ長さ、同じ幅の刃が現れた。


「子供の頃から、精霊を集めたら剣の形へ固めるように教えられた。今では、別の形にする方が難しい」


「丸くするのは?」


「すぐ崩れる」


「壁は?」


「形にもならない」


「不器用だな」


「剣だけ見たがっていた奴に言われたくない」


 セトは白刃を短くする。


 長剣だった刃が、手のひらほどの短い刃へ変わった。


 それを指先でつまみ、岩壁へ投げる。


 白い短剣は岩へ刺さり、数瞬後に光の粒となって消えた。


「投げることはできるんだな」


「小さく作ればな。遠くへ飛ばすほど、形を保てなくなる」


 シアは岩へ残った浅い傷を眺めた。


「大きな火を出す方が簡単そうだ」


「お前を基準にするな」


◆ 黒い剣


「もう一つは?」


 シアが振り返った。


「もう一つ?」


「昨日から、剣を出す時に少し迷っている。今の白い剣とは別のものを出せるだろ」


 セトは答えなかった。


 シアは知識だけでなく、精霊の動きも見えているらしい。


 白刃を作る直前、周囲の精霊へ働きかける方向を一瞬選んでいた。それだけで気づかれた。


「誰にも言うなよ」


「なぜだ」


「先に約束しろ」


「分かった。言わない」


 返事が早すぎる。


「誰かに聞かれてもだ」


「言わない」


「面白いから見せろと言われても?」


「わたしだけが知っている方が面白い」


「理由は気になるが、今はそれでいい」


 セトは右手を下ろした。


 白刃を作る時とは逆に、手の周囲にある白い光を押しのける。


 細長い空白が生まれた。


 光がない。


 岩壁も木々も、その部分だけが切り抜かれたように見えなくなる。


 完全な黒が、剣の形を取っていた。


「黒刃だ」



※第3話「白刃と黒刃」は全三回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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