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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第11話 名を呼ぶ剣

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(十)精霊剣の名前

◆ 名前を持つ火


 グラウスの担架が運ばれていく。


 シアは、その背を見送らなかった。


「疲れた」


 セトの肩へ体重を預ける。


「さっきも聞いた」


「さっきより疲れた」


「歩ける?」


「無理だ」


「なら背負う」


「今度は軽いと言うな」


「言ってない」


「前に言った」


「力を奪われた直後だろ」


 セトはシアへ背中を向ける。


 シアが腕を回した。


 セトはその体を背負う。


 以前と同じように軽い。


 だが、剣として握っていた時の感覚が右手に残っている。


 ただの重さではなかった。


 炎の量でもない。


 そこにシア自身がいた。


◆ 精霊剣の名前


 山道を下り始めてから、セトが口を開いた。


「そういえば、あの精霊剣には名前がないな」


「精霊剣でいい」


「ほかの精霊王も剣になれるんだろ」


「ああ」


「なら、区別する名前が必要になる」


「今すぐ必要か」


「今決めてもいいだろ」


 シアはセトの背中で少し考えた。


「極炎でいい」


「さっきの技と同じ名前か」


「ああ」


「剣の名前と技の名前が同じになるぞ」


「問題あるか」


「呼んだ時、どちらか分かりにくい」


「剣を呼ぶ時と、技を使う時では状況が違う」


「そうかもしれないが」


「わたしとセトが力を合わせた時の名前だ。この剣の名前にも合う」


「やっぱり、分かりやすいからか」


「それもある」


「白炎の時と同じだな」


「あれも分かりやすかった」


 シアの腕に少しだけ力が入る。


「次に一瞬だけ力を合わせる時も、極炎と呼べ」


「剣の名前を呼ぶと、技の合図にもなる?」


「ああ」


「本当に同じでいいのか」


「覚える名前が一つで済む」


「やっぱり安直だ」


「分かりやすい」


 セトは小さく息を吐いた。


「分かった。あの剣の名前も、極炎だ」


◆ 次もできるのか


「また精霊剣になれるのか」


 セトが尋ねた。


「分からない」


「一度できたのに?」


「戻り方も、よく分からなかった」


「疲れたから戻ったのか」


「たぶん」


「次も名前を呼べばいい?」


「たぶん」


「大丈夫か、それ」


「今度試す」


「今すぐはやめろ」


「力が戻ってからだ」


「それならいい」


 少し沈黙が続いた。


「セト」


「何だ」


「精霊剣のことを話せば、セトがわたしを剣として見るかもしれないと思っていた」


「ああ」


「今はどうだ」


「剣としても見る」


 シアの腕がわずかに固くなる。


「だが、それだけじゃない」


「どういう意味だ」


「お前は精霊剣になれる。だが、今は背中にいる」


「当たり前だ」


「どちらもシアだろ」


◆ 預けたもの


「剣になった時、怖くなかったのか」


 セトが尋ねた。


「分からなかった」


「何が」


「何が起きるのか」


「それは怖いというんじゃないか」


「違う」


「では何だ」


「セトが死ぬ方が嫌だった」


 シアの答えは早かった。


「それで剣になった」


「ああ」


「俺を信頼したから?」


 返事はすぐには来なかった。


「まだ、信頼が何かは分からない」


「そうか」


「だが、セトへ預けてもいいと思った」


 体も。


 力も。


 剣になった後の自分も。


「それが信頼じゃないのか」


「そうかもしれない」


「分からないままか」


「ああ」


 シアは、セトの背中へ額をつけた。


「分からなくても、できた」


◆ 村へ戻る


 村へ戻る頃には、日は山の向こうへ沈み始めていた。


 負傷者は家々へ運ばれ、治療を受けている。


 魔剣から戻った力によって、多くの者は命に別状がなかった。


 祖父も傷を負っていたが、自分で歩いている。


「じいさん」


 セトが呼ぶ。


「何だ」


「勝手に行くな」


「お前も勝手に来ただろう」


「紙を残したのはそっちだ」


「来るとは書いていない」


「道に目印もあった」


 祖父は少しだけ視線を逸らした。


「次は話せ」


「次があればな」


「なくても話せ」


「考えておく」


「それは話さないやつだろ」


 シアがセトの背中から言った。


「次に勝手に行ったら、わたしが止める」


「どうやってだ」


「燃やす」


「家は燃やすな」


「じいさんだけにする」


「お前たちは似てきたな」


 祖父がため息をついた。


◆ 二人の旅


 その夜。


 シアは再び、セトの家の寝台で眠っていた。


 精霊剣になった負担は大きかったらしい。


 人の姿へ戻ってから、ほとんど起きていない。


 セトは縁側へ座り、自分の右手を見る。


 白刃を作る。


 白い剣が現れる。


 左手には黒刃。


 二本とも、以前と同じように作れた。


 だが、極炎とは違う。


 白刃と黒刃に意思はない。


 セトが形を作り、セトが動かす。


 極炎にはシアがいた。


 炎を調整し、セトの体を支え、言葉を交わしながらともに戦っていた。


「何をしている」


 後ろから声がした。


 振り返る。


 シアが戸口へ立っている。


「起きたのか」


「腹が減った」


「精霊剣になっても腹は減るのか」


「人の姿へ戻ったからな」


 セトは白刃と黒刃を消した。


「何か作る」


「肉がいい」


「こんな時間にあるか」


「魔剣を倒した」


「だから?」


「褒美が必要だ」


「誰から?」


「セトから」


 シアは当然のように言った。


「剣になったのは、お前の判断だろ」


「セトも使った」


「分かった。何か探す」


「肉を探せ」


「残っていればな」


 セトは立ち上がる。


 シアがその隣へ並んだ。


 先代を殺した魔剣は砕けた。


 奪われた火のすべてが戻ったわけではない。


 先代の記憶も、人格も戻らない。


 それでも、魔剣がこれ以上誰かの力を奪うことはない。


 セトとシアの旅は、ここで終わるわけではなかった。


 ただ、先代を殺した者を探す旅だけは終わった。


 白刃でも黒刃でもない。


 意思を持つ火の剣が、二人の間に生まれた。


 戦いの中で生まれた技と同じ名を、二人はその剣へ与えた。


 その名は、極炎。


 セトが名を呼び、シアが自ら身を預ける、二人の精霊剣だった。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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