(八)砕ける魔剣
◆ 最後の力
グラウスが魔剣を両手で構えた。
「話は終わりだ」
刀身の亀裂へ、さらに炎が集まる。
傷を塞ぐのではない。
壊れることを承知で、残る力をすべて引き出そうとしている。
『器が持たない』
「魔剣の方も、もう持たない」
「壊れる前に、私が勝つ」
グラウスの周囲から火が消えていく。
魔剣へ吸い込まれている。
修行場の熱が、一度下がった。
次の瞬間、刀身から赤黒い炎が噴き上がる。
岩壁の上まで届く。
倒れていた一族の者たちが、祖父に支えられながらさらに距離を取る。
「セト!」
祖父が叫ぶ。
「その剣を受けるな!」
「分かってる!」
だが、背後には負傷者がいる。
完全に避ければ、炎は彼らへ届く。
『斬るしかない』
「ああ」
◆ 二人で決める
『亀裂へ当てる』
シアが言う。
「一度で壊せるか」
『分からない』
「失敗したら?」
『もう一度やる』
「力は残るか」
『残す』
「なら頼む」
『セトも外すな』
「外さない」
グラウスの魔剣が振り上げられる。
セトは炎の剣を下段へ構えた。
狙うのは、根元近くに入った亀裂。
巨大な炎に隠れ、今は見えない。
だが、位置は覚えている。
「合図は極炎だったな」
『ああ』
グラウスが踏み込む。
魔剣が振り下ろされる。
炎が落ちる。
セトは前へ出た。
「極炎!」
◆ 交差する火
シアが、剣の一点へ力を集める。
セトの体へ流していた力も、一瞬だけ刃へ移す。
足が重くなる。
それでも、踏み込んだ勢いは残っている。
セトは精霊剣を振り上げた。
赤黒い魔剣と、白に近い炎の剣が交差する。
衝撃が修行場全体へ走る。
地面が割れる。
岩壁から石が落ちる。
グラウスの魔剣が、精霊剣の力を吸おうとする。
『渡さない』
シアが炎を引き戻す。
吸われるより先に、亀裂へ力を集中させる。
セトは剣を押し込まない。
亀裂へ当てた切っ先を横へ滑らせる。
器そのものを切り開く。
赤黒い刀身から、乾いた音が響いた。
一つ。
二つ。
亀裂が広がる。
「壊れるものか!」
グラウスが魔剣へさらに力を流す。
刀身の内側から、炎が亀裂を押し広げた。
◆ 砕ける魔剣
魔剣が砕けた。
刀身の中央から折れたのではない。
細い亀裂が全体へ走り、赤黒い剣が無数の破片へ分かれた。
その内側に蓄えられていた炎が、行き場を失う。
一瞬だけ、すべての火が止まった。
次に、修行場を覆う光が生まれた。
『セト、下がれ!』
シアが精霊剣の火を広げる。
セトの前へ炎を集める。
魔剣から噴き出した火がぶつかる。
先代の火。
シアから奪われた火。
人間や魔獣、一族の者たちから吸い取った力。
長い年月の中で集められ、誰のものだったのかも分からなくなった精霊力。
それらが一斉に解放された。
◆ 逆流
火の多くは、魔剣を握っていたグラウスへ向かった。
壊れる直前まで、グラウスは魔剣へ自分の精霊力を流し込んでいた。
使い手と剣をつないでいた道を、行き場のない力が逆に流れる。
「ぐああっ!」
グラウスの両腕を炎が包んだ。
手から肩へ。
服が燃える。
皮膚が焼ける。
グラウスは倒れながら、腕を地面へ押しつけた。
それでも火は消えない。
「シア、止められるか」
『あれは、わたしの火だけではない』
「このままでは死ぬ」
『外へ逃がす』
精霊剣から炎が伸びる。
グラウスの腕を包む火へ触れる。
すべてを消すことはできない。
だが、集中していた熱を周囲へ散らす。
炎の一部が空へ上がる。
赤い光となり、薄く広がっていく。
※第11話「名を呼ぶ剣」は全十回です。
続きます。
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