(七)信じるということ
◆ 封印を破った日
「先代がお前を選ばなかったから、魔剣を持ち出したのか」
セトが尋ねる。
「意思ある精霊が力を貸さないなら、意思のない剣を使えばいい」
グラウスは魔剣を見た。
「封印の仕組みも、場所も、家に伝わっていた」
「先代も封印を守っていた」
『知識にはある』
シアが言う。
『危険な火の魔剣を、人間に使わせないために封じていた』
「シアも、先代が封印を守っていたことは知っている」
セトが言う。
「私は封印を解いた」
グラウスは淡々と告げた。
「剣を持ち出した後、あの方が来た」
「止めに来たのか」
「ああ」
先代イフリートは、魔剣を戻すよう求めた。
グラウスは拒んだ。
「私は証明しようとした。この剣を使えば、あの方が身を預けずとも、同じだけの力を扱えると」
『同じではない』
「シアは同じではないと言ってる」
「戦いでは、力があればいい」
『だから殺したのか』
「だから、先代を殺したのか」
「止めようとしたのは、あの方だ」
◆ 殺した理由
グラウスの言葉から、逃げるものが消えた。
「魔剣は、あの方の火を吸った」
「止めなかったのか」
「止める理由がなかった」
セトの手に力が入る。
「先代が死ぬと分かっていても?」
「私へ力を預けないと言った」
「だから奪った」
「力は、使われてこそ意味がある」
『先代は力ではない』
「先代は力じゃない」
セトが言う。
グラウスが炎の剣を見る。
「その娘に、あの方の何が分かる」
『分からない』
「シアは分からないと言ってる」
「なら、何も言うな」
「シアは先代じゃない。記憶も持っていない」
セトはグラウスから目を逸らさない。
「だが、先代がお前に身を預けなかった理由は分かるとも言ってる」
「何だ」
『お前は先代を信じていなかった』
「お前は、先代を信じていなかった」
「信じていた!」
◆ 信じるということ
『なら、先代がお前を選ばないことも受け入れられたはずだ』
「本当に信じていたなら、先代がお前を選ばないことも受け入れられたはずだ」
グラウスが黙る。
「お前が信じていたのは、先代が自分へ力を渡すという結果だ」
「共に戦った」
「戦ったから、自分を選ぶべきだと思った」
「私が最も力を使えた!」
「だから何だ」
セトの手の中で、シアの火が強くなる。
「先代が誰へ身を預けるかは、先代が決める」
「精霊王の勝手な選択で、力が失われる!」
「お前も勝手に剣を持ち出した」
「私は力を生かした!」
「先代を殺してか」
「それでも、この剣は多くの敵を倒した!」
「人も斬った」
グラウスは答えない。
「お前は先代を信じたんじゃない。先代の力が自分のものになると信じていただけだ」
◆ グラウスの目的
「だから、シアが精霊剣になるのを待ったのか」
セトが尋ねる。
グラウスはゆっくり顔を上げた。
「確かめたかった」
「何を」
「あの方が私を選ばず、この娘がお前を選ぶ理由を」
「分かったか」
「分からん」
グラウスの声に、初めて迷いが混じった。
「お前は私より未熟だ。精霊術も、剣術も、経験も足りない」
「そうだな」
「それでも、その娘はお前へ身を預けた」
『セトの方が強いからではない』
「俺が強いからじゃない」
「では、なぜだ」
『セトを死なせたくなかった』
「俺を死なせたくなかったからだ」
「それだけで?」
『わたしには、それで十分だった』
「シアには、それで十分だった」
グラウスは理解できないように炎の剣を見る。
「そして、精霊剣になったシアを殺せば、新しい魔剣が残る」
セトが言った。
「ああ」
「それも確かめたかった?」
「それが残れば、選ばれなかった私でも使える」
『わたしは、お前の剣にはならない』
「シアは、お前の剣にはならない」
「死ねば拒めない」
「だから、死なせない」
※第11話「名を呼ぶ剣」は全十回です。
続きます。
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