(六)空の器
◆ 空の器
「壊せると思ったか」
グラウスが言う。
「亀裂が入った」
「だからどうした」
魔剣が周囲の火を吸う。
亀裂の周りへ赤い光が集まる。
壊れた場所を補うように炎が埋めた。
「この剣には、何年分もの力がある」
「中身が多くても、器は一つだ」
セトが答える。
「空の器へ、無理に詰め込んでいるだけだ」
グラウスの顔から表情が消えた。
「何を知った」
「魔剣の正体を」
「誰から聞いた」
「シアと、じいさんだ」
「古い記録が残っていたか」
「お前の家にもあったんだろ」
グラウスは答えない。
だが、その沈黙が答えだった。
◆ 守る家
「お前の家は、魔剣を守っていた」
セトが言う。
「封印の場所も知っていた」
「そうだ」
グラウスは否定しなかった。
「我々の家系は、本家から分かれた後も、剣の管理を任されていた」
「危険だから封じていた剣を、お前が持ち出した」
「あの剣は、我々の祖先が使った精霊剣の残骸だ」
「だから自分のものだと思ったのか」
「守り続けるだけで、何の意味がある」
グラウスが魔剣を掲げる。
「これほどの力を持つ器を、洞穴の奥で朽ちさせる。代々、それを正しいことだと教えられた」
「使えば人から力を奪う」
「補う方法を選べばいい」
「お前は選ばなかった」
大会の剣を盗んだ男。
街道で襲われた人々。
魔獣。
一族の者たち。
シア。
グラウスは、魔剣へ力を蓄えるために何人もの力を奪っている。
◆ 先代との出会い
「最初から、あの方を殺すつもりだったわけではない」
グラウスが言った。
魔剣を構えたまま、視線だけがわずかに下がる。
「あの方は、私を認めていた」
先代イフリート。
男性の姿を持っていた、前の火の精霊王。
「共に魔獣を倒した。人の町を守ったこともある。あの方が前へ出て、私が剣で道を作った」
「先代と戦っていたのか」
『わたしには記憶がない』
シアが答える。
『だが、嘘ではないと思う』
グラウスの語る先代への感情は、単なる作り話には聞こえなかった。
「剣状精霊術を見たあの方は、古い縁を感じたのだろう」
過去のイフリートと、その使い手。
そこから続く剣状精霊術。
同じ形の剣を使うグラウスに、先代は一定の関心を持った。
「共に戦い、背を預けた」
グラウスの声に力が入る。
「それでも最後には、何もかも自分一人で決めた」
◆ 選ぶ側と選ばれる側
「私は聞いた」
グラウスが続ける。
「私へ身を預ける気はないのかと」
「先代は何と答えた」
「ない、と」
短い答えだった。
「理由は?」
「まだ、その時ではないと言った」
『それだけか』
「それだけだったのか」
セトが尋ね直す。
「ああ」
『なら、待てばよかった』
「シアは、待てばよかったと言ってる」
「いつまでだ!」
魔剣の炎が膨らむ。
「精霊王だけが選び、人間は選ばれるのを待つ。それが正しいとでもいうのか!」
「精霊剣になるのは、精霊王の体だ」
「力を振るうのは人間だ!」
「両方で戦う」
「なら、人間にも選ぶ権利がある!」
「あるだろ」
セトが言った。
グラウスがセトを見る。
「人間は、預けられた力を受けるかどうかを選べる」
「断る人間がいるものか」
「俺は、シアが意思を捨てるなら断る」
グラウスの顔が歪む。
※第11話「名を呼ぶ剣」は全十回です。
続きます。
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