(五)極炎
◆ 一瞬だけ
『ずっと力を上げるのは無理だ』
シアが言う。
「一瞬なら?」
『できる。セトが斬る瞬間に、わたしも全部を刃へ集める』
「合図は?」
『技の名前を決めろ』
「今か?」
『今だ』
セトは手の中の炎の剣を見る。
火の精霊王が、自分の意思で剣となった姿。
白炎よりも強く。
魔剣の火を超えるため、一瞬だけすべてを重ねる技。
「極炎」
『分かった』
「安直か?」
『分かりやすい』
「お前はそればかりだな」
グラウスが魔剣を持ち上げる。
巨大な炎の刃が形を作る。
『来るぞ』
「ああ」
セトは炎の剣を構えた。
◆ 極炎
グラウスが魔剣を正面から振り下ろした。
巨大な炎の刃が迫る。
セトは走った。
横へ逃げない。
炎の斬撃へ正面から向かう。
『左側が薄い』
シアが火の流れを読む。
セトはわずかに進路を変える。
炎の中心を避ける。
それでも、すべては避けられない。
炎の剣を振る。
触れる場所へ、シアが力を集める。
巨大な炎の一部が斬り開かれる。
セトは、その隙間を抜けた。
服が焼ける。
皮膚へ熱が走る。
足は止めない。
グラウスへ向かって進む。
◆ 魔剣と精霊剣
グラウスが次の斬撃を放つ。
セトは避ける。
さらに一撃。
今度は炎の剣で打ち払う。
かわせるものはかわす。
かわせないものだけを斬る。
無駄にシアの力を使わない。
グラウスとの距離が縮まる。
魔剣が振られる。
精霊剣で受ける。
吸収が始まる前に離す。
別の角度から斬る。
グラウスの黒刃が生まれる。
精霊剣へ触れようとする。
セトは剣を引く。
黒刃の外側へ回る。
シアが刀身の先へ炎を伸ばす。
グラウスの腕を浅く斬った。
『もう刀身が伸びることは警戒される』
「一度届けば十分だ」
◆ 二人の役割
グラウスが白刃と魔剣を同時に振る。
セトは白刃を精霊剣で弾く。
魔剣を避ける。
避けた先へ炎が放たれる。
『受ける』
「頼む」
シアが精霊剣の側面へ火を集める。
セトは剣を盾のように置く。
炎が左右へ分かれる。
その間にグラウスが近づく。
『下から来る』
セトは柄を下げる。
魔剣を受ける。
『押される』
「右へ逃がす」
セトが角度を変える。
シアが刃の右側だけ火を弱める。
魔剣が外へ滑る。
精霊剣を返す。
グラウスの胸へ斬撃が入る。
出力と属性はシア。
体と剣技はセト。
どちらか一人では成立しない。
二人が別々に判断し、それでも同じ相手と戦っている。
◆ 魔剣の亀裂
グラウスの足が下がる。
魔剣を受けに回した。
精霊剣と赤黒い刀身がぶつかる。
小さな音がした。
石が割れたような、乾いた音。
セトには聞こえた。
魔剣の根元近くに、細い亀裂が入っている。
『見えたか』
「ああ」
『あそこへ集める』
「まだだ」
すぐに狙えば、グラウスも守る。
セトは気づいていないふりをして、別の場所へ斬り込む。
グラウスが受ける。
精霊剣を引く。
肩を狙う。
魔剣が動く。
セトは刃を途中で止め、脇腹へ切り替えた。
グラウスが体をひねる。
魔剣の根元が一瞬だけ空く。
『今か』
「まだ」
グラウスの目は、セトの剣を見ている。
亀裂を隠すように魔剣を構え直した。
向こうも気づいていた。
※第11話「名を呼ぶ剣」は全十回です。
続きます。
作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。
※ネタバレ範囲にご注意ください。
https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/




