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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第11話 名を呼ぶ剣

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(二)シア

◆ シア


 セトの口から迷いは消えた。


「シア!」


 役割名ではない。


 先代と同じイフリートでもない。


 セトが一人の少女へ付けた名前。


 その音が修行場へ響いた。


 シアの体が炎へ変わる。


 燃えたのではない。


 髪も、衣服も、腕も、足も。


 人の姿を作っていたすべてが、赤橙色の光へほどけた。


 グラウスが魔剣を振る。


「待っていた!」


 炎の刃がセトへ迫る。


 シアだった光が、その間へ入った。


 赤い光がセトの右手へ集まる。


 掌の中で細く伸びる。


 柄が生まれる。


 続いて、白に近い炎を中心に持つ長い刀身が形を作った。


 金属ではない。


 白刃とも違う。


 炎そのものが、一本の剣として形を保っている。


 セトは反射的に柄を握った。


 同時に、シアの声が頭の中へ届いた。


『右へ動け』


 耳から聞こえた声ではない。


 握った剣を通じて、セトへ直接届いている。


 セトは右へ踏み込む。


 体が、思っていたよりも速く動いた。


 魔剣の炎が、セトの左側を通過した。


◆ 精霊剣


 足が地面を蹴った感覚はあった。


 だが、一歩で進んだ距離が長すぎる。


 体が軽い。


 痛みが消えたわけではない。


 動かなかったはずの右腕も、傷ついた左手も、まだ痛んでいる。


 それでも、炎の剣から流れ込む力が体を支えていた。


『動かせるか』


「ああ」


『無理に速く動くな。わたしが合わせる』


「できるのか」


『分からない』


「またか」


『だが、今はできている』


 グラウスが魔剣を横へ振る。


 炎の斬撃が迫る。


『上だ』


 セトは跳んだ。


 炎の刃を飛び越える。


 着地する前から、次の動きが分かった。


 シアがセトの体を動かしているわけではない。


 動く方向を決めているのはセトだ。


 だが、どこまで力を出せば体が壊れないかを、シアが剣の中から調整している。


 着地と同時に前へ出る。


 炎の剣を振る。


 グラウスが魔剣で受けた。


 二本の剣がぶつかった。


◆ 生きている剣


 赤い炎が弾けた。


 グラウスの魔剣が、精霊剣の力を吸おうとする。


 セトの右手から、力が引かれる感覚があった。


『勝手に持っていくな』


 シアが言う。


 精霊剣を包む炎が、一瞬で収まる。


 魔剣へ触れている場所から火を引き、反対側へ集めた。


 吸収される量が減る。


 セトは精霊剣を滑らせ、魔剣との接触を外した。


 すぐに別の角度から斬り込む。


 グラウスは下がって避ける。


 切っ先から伸びた炎が、黒い上着を焼いた。


「力を引いたのか」


 グラウスが言う。


「シアが動かした」


「剣の中で意思を保っているのか」


「ああ」


 グラウスの表情が変わる。


 驚きではない。


 求めていたものを、ようやく目にした者の顔だった。


「それが精霊剣か」


◆ 待っていたもの


「やはり、残るのだな」


 グラウスが呟く。


「何がだ」


「その姿のまま死ねば、新しい器が残る」


 魔剣の火が大きくなる。


「今代のイフリートが残す、新しい魔剣が」


『やはり、それが目的か』


 シアの声が低くなる。


「シアは、お前のために剣になったんじゃない」


 セトが言う。


「私のためである必要はない」


 グラウスは魔剣を構えた。


「お前へ身を預け、その姿になれば十分だ」


「俺たちは、ここで死なない」


「それは私が決める」


「違う」


 セトは炎の剣を正面へ向ける。


「シアは、お前の剣にはならない」


「今はな」


「死んだ後もだ」


「死ねば拒む意思はなくなる」


『だからこそ、死なない』


 シアの言葉に、セトは柄を握り直した。


「今のも、シアからの返事だ」


## 剣として使う


「お前も精霊を剣として使っている」


 グラウスが言う。


「私とお前の何が違う」


「白刃と黒刃は、意思のない精霊を剣の形へ集めているだけだ」


「今持っているものは違うと?」


「ああ」


「その娘が自ら剣になると言えば、死体を使うより正しいとでもいうのか」


「俺が剣にしたんじゃない」


 セトは柄を握る。


 そこにシアの意思がある。


「シアが俺に預けたんだ」


「使っていることに変わりはない」


『使われているだけではない』


 シアが言う。


「シアも一緒に戦っている」


「剣が戦う?」


「今もお前の魔剣に火を吸わせないようにしてる」


 グラウスの目が細くなる。


「それが違いだと言うのか」


「少なくとも、お前の魔剣とは違う」



※第11話「名を呼ぶ剣」は全十回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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