(三)五分
◆ 炎の斬撃
グラウスが魔剣を振る。
巨大な炎の斬撃が放たれた。
一つではない。
続けて二つ。
三つ。
修行場を覆うように、異なる角度から迫る。
『全部を受ける必要はない』
「分かってる」
セトは一つ目を避ける。
二つ目の下をくぐる。
三つ目だけが、倒れている一族の者たちへ向かっていた。
精霊剣を振る。
赤い刃と炎の斬撃がぶつかった。
『切る場所を右へ』
セトは剣の角度を変える。
シアが刃の右側へ火を集めた。
炎の斬撃が二つに分かれる。
左右へ流れ、倒れている者たちを避けて岩壁へ当たった。
岩が焼け、ひびが入る。
「白炎より軽い」
セトが言う。
『わたしが剣の形を保っている』
「なら、俺は振ることに集中すればいい?」
『どこへ振るかも考えろ』
「分かってる」
◆ 初めての剣
グラウスが距離を詰める。
魔剣を上から振り下ろす。
セトは精霊剣で受ける。
重い。
魔剣に蓄えられた火の量は、今のシアを上回っている。
先代イフリートから奪った力。
シアから奪った力。
人や魔物から集めた力。
それらが一本の剣へ詰め込まれている。
正面から押し合えば負ける。
セトは刃を斜めに傾けた。
魔剣を滑らせる。
グラウスの体が前へ出る。
肩へ精霊剣の柄を打ち込む。
グラウスが下がる。
セトは追う。
炎の剣を横へ振る。
グラウスが魔剣で受ける。
受ける角度を変え、セトの剣を外へ流そうとする。
『このまま押すか』
「押さない」
セトは力を抜いた。
受け流そうとしていたグラウスの魔剣が大きく動く。
空いた場所へ踏み込む。
精霊剣の切っ先が、グラウスの肩を斬った。
◆ 五分
血が飛ぶ。
同時に、切断面へ炎が流れ込もうとする。
『止める』
シアが出力を抑えた。
グラウスの肩を焼き尽くす前に、炎が引く。
「なぜ止めた」
グラウスが傷口を押さえながら尋ねる。
「斬るために振った」
「殺すためではないと?」
「今はな」
「甘い」
グラウスが左手へ白刃を作る。
魔剣と白刃を同時に構える。
セトへ踏み込む。
左から白刃。
右から魔剣。
セトは白刃を避ける。
魔剣を精霊剣で受ける。
シアが接触部分から炎を引く。
吸収を抑える。
グラウスが白刃を返す。
セトは体を沈める。
頭上を白い刃が通る。
そのまま足元へ斬り込む。
グラウスが跳び下がる。
以前は、剣技でも出力でもグラウスが上だった。
今は違う。
出力だけなら、まだ魔剣の方が強い。
だが、セトの体はシアの力で強化されている。
速さと力が増しても、剣を動かしているのはセトだ。
初めて握る剣でありながら、剣の方がセトの動きへ合わせてくる。
ようやく、グラウスと同じ場所に立てていた。
◆ 剣の中の声
『右から来る』
グラウスの白刃が迫る。
セトは精霊剣で弾いた。
『次は魔剣だ』
「見えてる」
『なら避けろ』
セトは半歩下がる。
魔剣の切っ先が胸元を通る。
すぐに前へ戻る。
精霊剣を突き出す。
グラウスが身をひねる。
刃が脇腹をかすめた。
「シア」
『何だ』
「剣になっても、よく話すな」
『悪いか』
「いや」
剣から声が返る。
そのことが、セトには妙に自然だった。
シアは剣になってもシアのままだ。
炎の量を調整し、セトの体を支え、グラウスの動きを見ている。
ただ握られているわけではない。
二人で戦っている。
◆ 奪われた火
グラウスが魔剣を大きく振り上げた。
「火よ来たれ」
周囲に散っていた火が魔剣へ引かれる。
シアから奪われた火も、先代の火も、剣の中心へ集まる。
刀身の周囲に、巨大な炎の刃が生まれた。
『あれは、わたしから奪った火だ』
「奪った火を、自分のものみたいに使うな」
セトが言った。
「私が扱っている以上、私の力だ」
「元が誰のものでも?」
「使えない力に意味はない」
『先代を殺した時も、そう考えたのか』
シアの声が低くなる。
「先代を殺した時も、同じことを考えたのか」
セトが代わりに尋ねた。
グラウスは答えず、魔剣を振り下ろした。
※第11話「名を呼ぶ剣」は全十回です。
続きます。
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