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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第11話 名を呼ぶ剣

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(一)名を呼べ

◆ 剣のない手


 セトの手には、もう一本も剣が残っていなかった。


 右手を開く。


 白い光が集まりかける。


 だが、剣の形になる前に散った。


 左手から周囲の精霊力を押しのけようとしても、黒刃の形を作れない。


 白刃も黒刃も、単に消されたのではない。


 剣の形を保つための制御そのものを、グラウスの一撃で崩されていた。


「人間の技術としては悪くない」


 グラウスが歩いてくる。


 赤黒い魔剣には、まだ強い炎がまとわりついていた。


「だが、それだけでは、この剣には届かない」


 セトは地面へ右手をついた。


 立ち上がろうとする。


 腕に力が入らず、肘が折れた。


 再び肩から地面へ落ちる。


「セト!」


 離れた場所からシアの声がした。


 シアも岩壁の近くへ倒れている。


 片膝をつくところまでは起き上がったが、そこから体を持ち上げられずにいた。


「来るな!」


 セトが叫ぶ。


「今度は、かばわせない」


「なら立て!」


「立つ!」


 言葉に体が追いつかない。


 グラウスが魔剣を持ち上げた。


◆ 残った火


「その少女は、まだ戦える」


 グラウスが言う。


「お前ほど深くは傷ついていない」


「シアには手を出すな」


「それを決めるのはお前ではない」


 魔剣の切っ先が、セトへ向けられる。


「今度こそ、選ぶはずだ」


「何をだ」


「お前へ身を預けるか。それとも、お前を見捨てるか」


 セトの胸の奥で怒りが燃えた。


「シアに選ばせるために、俺を殺すのか」


「選ばせる必要はない。すでに選び始めている」


 グラウスの視線がシアへ移る。


「大きな力を預けた。身を投げ出してかばった。今も、自分が傷つくことより、お前が死ぬことを恐れている」


「勝手に決めるな」


「私が決めることではない」


 グラウスは魔剣を振りかぶった。


「精霊王自身が決める」


 刀身から炎が立ち上がる。


 今度は修行場を横断するような大きな斬撃ではない。


 セト一人を斬るため、火が細く剣へ集まっている。


◆ 死なせたくない


 シアは立てなかった。


 足に力を集めようとしても、先ほど受けた衝撃が体の奥に残っている。


 炎を放つ。


 拳ほどの火がグラウスへ飛ぶ。


 グラウスは魔剣を動かさなかった。


 刀身を包む炎だけで、シアの火が押し返される。


「弱い」


 グラウスが言う。


「その程度では、私を止められない」


 シアは両手を地面へついた。


 さらに火を集めようとする。


 集まらない。


 初戦で奪われた力は、まだ戻り切っていない。


 今ある力の多くも、白炎へ渡した。


 それでも、セトとグラウスの間へ入ろうと体を動かす。


「来るな!」


 セトがまた叫んだ。


 シアの動きが止まる。


「今度は俺が何とかする」


「剣がない」


「作る」


「作れていない」


「分かってる!」


 グラウスの魔剣が炎を強める。


 セトは右手を開いた。


 白刃を作ろうとする。


 光が散る。


 もう一度。


 また散る。


 それでも手を下ろさない。


 シアは、その姿を見ていた。


◆ 知識にない答え


 精霊剣には、信頼が必要だ。


 その知識はある。


 精霊王が人間を信頼し、自分の意思で剣へ変わる。


 属性と出力を精霊王が担い、体と剣技を人間が担う。


 それが精霊剣だ。


 だが、どうすれば剣になれるのか。


 具体的な手順は、継承された知識の中にない。


 決まった言葉を唱えるのか。


 剣の形を思い浮かべるのか。


 使い手へ触れればいいのか。


 シアには分からない。


 歴代のイフリートが精霊剣になったという知識はある。


 それでも、彼らが何を考え、どのように相手へ身を預けたのかという記憶はなかった。


 残っているのは、精霊王が自ら選んだという事実だけだ。


 シアはセトを見る。


 初めて会った時、大型の魔獣を相手に一人で立っていた人間。


 自分より弱いくせに、逃げなかった。


 自分がイフリートだと名乗っても、それでは先代と区別できないと言った。


 そして、シアという名を付けた。


 先代ではない。


 イフリートという役割だけでもない。


 今ここにいる自分を呼ぶための名前。


◆ 選ぶ


 グラウスが一歩踏み込んだ。


 炎をまとった魔剣が振り下ろされる。


「セト!」


 シアが手を伸ばす。


 届く距離ではない。


 それでも、セトへ向かって伸ばした。


 セトは動かない右手を上げる。


 剣のない手で魔剣を受けようとしている。


 このままでは死ぬ。


 シアが精霊剣にならなくても、次代のイフリートはいずれ生まれる。


 セトが死んでも、世界から人間がいなくなるわけではない。


 イフリートとして考えれば、ここで自分まで危険を冒す理由はない。


 だが、シアはセトを死なせたくなかった。


 世界のためではない。


 役割のためでもない。


 先代の敵を討つためだけでもない。


 セトだからだ。


「名を呼べ!」


 シアが叫んだ。


 グラウスの魔剣が止まる。


 セトがシアを見る。


「何をすればいい!」


「分からない!」


「分からないのか!」


「たぶん、それだけだ!」


 シアはセトへ手を伸ばしたまま言う。


「わたしの名を呼べ!」



※第11話「名を呼ぶ剣」は全十回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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