(五)まだ終わらない
◆ 届いた切っ先
グラウスは動かなかった。
白刃の切っ先が、首へ触れる寸前にある。
魔剣は数歩離れた地面。
左手に白刃も黒刃も作っていない。
「終わりだ」
セトが言った。
「そう見えるな」
「動くな」
「今のお前なら、私を斬れるか?」
「必要なら」
「大会では手加減を覚えたようだが」
「お前と大会の相手は違う」
グラウスはセトを見た。
次に、少し離れたシアを見る。
「二本の剣と、外から力を渡すイフリート」
「まだ何かあるのか」
「かなり近づいた」
「精霊剣に?」
「ああ」
「お前の望み通りにはならない」
「私の望みは関係ない」
グラウスが静かに右手を開いた。
「精霊王が決めることだ」
◆ まだ終わらない
地面に落ちた魔剣が動いた。
セトは切っ先をグラウスへ向けたまま、視線だけを移す。
赤黒い刀身が、ひとりでに震えている。
「何をした」
「呼んだだけだ」
魔剣が石の上を滑る。
グラウスの手へ向かって戻ってくる。
セトは黒刃を出そうとした。
その瞬間、グラウスが白刃を作る。
白い斬撃が下から跳ね上がった。
セトは右手の白刃で受ける。
地面を滑ってきた魔剣が、グラウスの右手へ収まった。
赤い炎が横へ放たれる。
セトは左の黒刃で崩した。
完全には消せない。
残った炎が体を押す。
セトは数歩下がった。
「剣が勝手に戻った」
シアが言う。
「意思はないはずだ」
「意思ではない」
グラウスが魔剣を構える。
「力を流して動かしただけだ」
「分かりやすい剣だな」
「そう言っただろう」
◆ 人間の技術
戦いが再び始まった。
だが、先ほどまでとは違う。
グラウスは魔剣を手元から離すことを警戒している。
セトは黒刃を魔剣へ触れさせようとする。
グラウスは白刃で黒刃を遮る。
セトは白炎で白刃を押す。
シアが足元へ火を置く。
グラウスが避ける。
その先へセトが回る。
二本の剣と火が、少しずつグラウスの動きを狭めていく。
白炎が肩をかすめた。
黒刃が魔剣の火を消した。
シアの炎が背中へ当たった。
上着がさらに焼ける。
グラウスの呼吸が、初めてわずかに乱れた。
「押している」
祖父が低く言う。
セトにも分かる。
前回とは違う。
人間の剣術。
一族から受け継いだ二本の術。
シアと作った白炎。
すべてを重ねれば、グラウスへ届く。
◆ それでも足りない
セトは白炎を正面から振り下ろした。
グラウスが魔剣で受ける。
黒刃を横から当てる。
吸収を止める。
シアが魔剣へ火を放つ。
グラウスが左手に黒刃を作り、火を崩す。
その間、左手が塞がる。
セトは白炎を引き、脇腹へ斬り返した。
グラウスの服が裂ける。
血が流れた。
グラウスが大きく後ろへ下がる。
魔剣を支えにするように石床へ突き立てた。
「勝てる」
シアが言った。
「まだだ」
セトは白炎を構えたまま答える。
グラウスは倒れていない。
目も、戦うことを諦めた者のものではない。
むしろ、何かを確かめ終えたように見える。
「十分だ」
グラウスが言った。
「何がだ」
「今の二人なら、次へ進む可能性はある」
「また精霊剣の話か」
「そうだ」
※第10話「再戦」は全六回です。
続きます。
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