(四)魔剣を離さない
◆ 二人で崩す
シアが火を放った。
グラウスの背後へ向かう。
グラウスは魔剣を向け、吸おうとする。
その瞬間、セトの黒刃が魔剣へ触れた。
火を吸うための力が乱れる。
シアの炎が魔剣の横を抜け、グラウスの腕へ当たった。
上着が燃える。
グラウスはすぐに火を払った。
「黒刃で魔剣を塞ぎ、外から火を当てるか」
「吸われなければ、普通に燃える」
シアが答える。
「普通の火ではないだろう」
「今は前より弱い」
「それでも人間には十分だ」
グラウスの右腕に、浅い火傷が残っている。
シアはすぐに次の火を作った。
大きくはない。
だが、セトが黒刃で魔剣を押さえる間なら届く。
セトも同じことを理解していた。
白炎を前へ。
黒刃を魔剣へ。
シアの火を横から。
三つの攻撃が、それぞれ別の役割を持ってグラウスへ迫る。
◆ 同じ一族の剣
グラウスは後ろへ下がった。
初めて、自分から大きく距離を取った。
「じいさん」
セトが呼ぶ。
「何だ」
「こいつの剣、教わったものと同じか」
「基礎はな」
祖父は倒れた者を支えながら答えた。
「だが、動きは違う」
「どこがだ」
「お前は二本の役目を分けている」
白炎を攻撃へ。
黒刃を防御と妨害へ。
グラウスも同じように見える。
だが、グラウスは左手の剣を何度も切り替えている。
「グラウスは、魔剣を中心に戦っている」
祖父が言う。
白刃も黒刃も、魔剣を通すために使っている。
魔剣で吸い、魔剣で斬り、魔剣から火を放つ。
左手の剣は、その補助にすぎない。
「なら、魔剣を止めればいい」
「ああ」
セトは左の黒刃を握り直した。
◆ 魔剣を離さない
セトが前へ出る。
白炎を振る。
グラウスが魔剣で受ける。
黒刃をすぐに重ねる。
魔剣から黒刃を離さない。
グラウスが左手に白刃を作る。
シアの火が手元へ飛ぶ。
白刃を作る光が乱れた。
グラウスは火を避ける。
セトもその動きへ合わせて進む。
黒刃は魔剣に触れたまま。
白炎で斬り込む。
グラウスは体をひねって避けた。
白炎が脇腹を浅く斬る。
黒刃を振り払おうと、魔剣へ力を込める。
セトは押し合わない。
黒刃の角度を変え、魔剣の側面を滑らせる。
触れ続けるだけでいい。
吸収と炎の放出を邪魔し続ける。
「厄介な使い方を覚えたな」
「お前に教わった」
「教えた覚えはない」
「前に負けたから分かった」
◆ 追い込む
グラウスの背後には岩壁がある。
左右には、シアの火が置かれている。
前にはセト。
魔剣へ黒刃を触れさせたまま、白炎を構えている。
「動ける場所がない」
シアが言った。
「火を踏めばいい」
グラウスが答える。
「今のお前なら、少しくらいは耐えられる」
「そうだな」
グラウスは左の火を踏み越えた。
炎が脚を包む。
動きを止めず、そのままセトへ近づく。
魔剣を黒刃へ強く押し当てる。
黒刃の形が揺らいだ。
セトは白炎を振った。
グラウスは身を沈めて避ける。
肩が触れる距離まで入ってくる。
前回と同じ。
剣だけでなく、体の使い方でも崩そうとしている。
セトは下がらなかった。
グラウスの足元へ置かれていた火が広がる。
避けようとしたグラウスの肩へ、セトが自分の肩をぶつけた。
互いの体勢が崩れる。
セトは白炎を消し、右手でグラウスの魔剣を持つ腕をつかんだ。
◆ 離れた魔剣
セトが体を回す。
グラウスの腕を引き、魔剣の切っ先を地面へ向ける。
左の黒刃を手首へ当てた。
斬らない。
魔剣と手の間を流れる精霊力を崩す。
グラウスの指がわずかに緩んだ。
「シア!」
大きな火が飛んだ。
狙いはグラウスではない。
赤黒い魔剣の刀身だった。
黒刃によって吸収を乱された魔剣へ、炎が正面から当たる。
赤い光が激しく弾けた。
グラウスの手から、魔剣が離れる。
剣が地面を転がった。
「離した」
シアが言う。
「ああ」
セトは白刃を作り直した。
白炎をまとわせる時間はない。
白い切っ先をグラウスの首元へ向ける。
※第10話「再戦」は全六回です。
続きます。
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