(五)戻らない核
◆ 長い空白
ある時、表の核に似た流れが消えた。
崩れ方は、それまで何度も見たものと変わらない。
集まった原光がほどけ、周囲の大きな流れへ紛れていった。
セトは次に現れる中心を探し始める。
短い時間が過ぎた。
何もない。
しばらく待っても、同じ乱れは生まれなかった。
「終わった?」
「まだ決められない」
セトは太陽から意識を外さなかった。
これまでにも、再生までの間隔が長い時はあった。
今回だけが特別だと判断する根拠はない。
ネアが観測する方向を少し変えた。
セトたちの位置を基準にした一か所だけを見ていても、流れが別の位置で現れれば見逃してしまう。
シアは四翼を広げ、太陽から何かが出てこないかを警戒した。
フィオラは精霊剣のまま、セトの姿勢と生命維持の循環を保っている。
「何も見つからないのは、いいことなんだろ?」
シアが言った。
「ああ。だが、確認できないことと、存在しないことは違う」
「何度でも戻ってきたからな」
「今度も戻るなら、また最初から観測するだけだ」
太陽の光は少しも弱まらない。
その中に、以前とは違う何かが隠れているようにも見えない。
それでも四人は、目に見えない小さな変化を待ち続けた。
いつもなら赤い中心が戻ってくる頃には、シアが次の攻撃の向きを考えていた。
今はその必要がない。
何も起きないまま待っているという事実が、かえって落ち着かなかった。
シアは太陽の方へ少し進みかけ、すぐに元の位置へ戻った。
観測を交代しても、報告は同じだった。
流れの中心は現れない。
以前に長く途切れた時より、さらに長い空白が続いている。
「今なら、終わったと言ってもいいんじゃないか」
シアの声に、セトはすぐには答えなかった。
期待していないわけではない。
だが、期待で観測の結果を変えることもできない。
セトはネアの方を見た。
ネアは、まだ太陽から視線を離していなかった。
◆ 戻らない核
流れの中心が消えてからも、四人は観測を続けた。
太陽の内部では、膨大な原光が絶えず動いている。
その中から、終焉の炎に特有の流れだけを探す。
セトは最後に表の核が現れた辺りを追い、ネアは別の方向から確認した。
シアは、赤い光が再び飛び出してきた場合に動ける位置で待っていた。
フィオラも翔嵐の内側から二翼を循環させ、セトの身体と観測位置を支え続ける。
誰かが見失った時には、ほかの者が同じ範囲を確かめた。
それでも、新しい中心は見つからなかった。
これまでのような短い空白を超えても、結果は変わらない。
何度か観測位置を変え、別の方向から確かめ直したが、終焉の炎に似た流れは戻らなかった。
「もう、流れはありません」
ネアが言った。
「私の方でも見つからない」
シアも太陽から視線を外した。
セトはもう一度だけ、最後に核が現れた位置へ意識を向ける。
再形成される兆候はない。
周囲から原光が集まる動きも、肉体が作られる動きも見つからなかった。
「回数か、時間かは分からないが」
セトはゆっくりと言った。
「再生が困難として、裏の核が表の核を手放したみたいだ」
『裏の核も消えたのですか?』
右手の翔嵐から、フィオラが尋ねた。
「分からない」
セトは答えた。
「消えたのか、どこかに残ってるのか、それも分からない。ただ、表の核は戻らない」
「なら、終焉の炎は?」
シアの問いに、セトは太陽の流れを改めて確かめた。
裏の核の正体も、再生が止まった理由も分かっていない。
それでも、今この空間へ肉体を戻す働きが途絶えたことは、四人の観測で確認できている。
「完全に消滅したと見ていい」
長く続いた戦い。
さらに続けた観測。
何度破壊しても戻ってきた終焉の炎は、もう再生しなかった。
シアはしばらく太陽を見ていた。
自分を内部へ閉じ込めていた肉体も、自分から力を奪い続けた流れも、今は見つからない。
やがてシアは、自分の両手へ視線を落とす。
指を動かし、手のひらを開いた。
終焉の炎の一部ではない。
イフリートという機能でもない。
今ここにいるのは、シアだった。
※第67話「太陽へ落とす」は全七回です。
続きます。
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